私だけを見てよ!
三原 小梢(みはら こずえ)♀アラサー:彼氏一筋。同じ職場。
大竹 純也(おおたけ じゅんや)♂アラフォー:三原 小梢と同じ職場。同棲している。
大「ただいま…って寝てるよな。部屋真っ暗だし。はぁー…疲れた。」
三「ねぇ、今何時だと思ってるの?」
大「うわっ!びっくりした!起きてたのかよ!」
三「もう1時なんだけど。」
大「ごめん、職場の岩下いるだろ?相談があるっていうから少し飲みに行ってた。」
三「少しぃ?もう1時なんですけど!」
大「ごめんてぇ、あいつ今度のプロジェクトを任されて色々悩んでたんだよ。」
三「仕事と私どっちが大事なの?なんてことを聞くつもりはないけど、岩下さんは女よね!」
大「そりゃ小梢も知ってるだろ?」
三「社内でも私たちが付き合ってること知ってるわよね!」
大「一応、俺たち結婚するわけだし皆には伝えてあるけどな。」
三「一応!?一応で言ってるの?」
大「そりゃ一応言うだろ。誤解のないように…」
三「きちんと報告したんじゃなくて「一応」なの?」
大「なんか俺、変なこと言った?」
三「誤解がないように言ったのよね?だったら「万が一に備えて」とか言葉はあるでしょ!」
大「細かいなぁ…。」
三「細かい?私の言ってることを細かいって言った?」
大「あーもう、ごめんごめん。」
三「ごめんごめん?お母さんに習わなかった?「はい」とか「ごめん」は1回って!それに「あーもう」って!」
大「わかったよ…ごめんなさい。」
三「…で?そんなに酒臭くなるほど岩下さんと飲んでたんだ?」
大「そんなに飲んでないって。小梢が飲んでないから酒臭く感じるだけだろ?」
三「ふーん。でも飲んでたんだ?」
大「そりゃオフだしな。酒くらい飲むだろ。」
三「へぇー。岩下さんってお酒飲めるの?」
大「岩下?まぁ、そこそこ飲めるな。弱いとは言ってたけど、あまり酔う前に送ってった。」
三「岩下さんは飲んでたんだ?オフだからねぇ…。」
大「なんだよ?別にやましいことしてないからな?」
三「二人とも仕事が終わって「大竹課長!お疲れ様です!かんぱーい!」とかしてたんだ…?」
大「いやそれは大げさだよ。それにプロジェクトが煮詰まっててガス抜きも必要かなって。」
三「大げさ?ガス抜き?二人ともオフだったんだよね?そりゃー仕事中はお酒なんて飲まないですもんねぇー!」
大「なぁーにぃ、もう!小梢がいるのにやましいことなんてしないってぇ。」
三「オフ…相談…飲み…これってデートじゃん!」
大「デートぉ!?いやいや、それは飛躍しすぎ…」
三「オフだからお酒飲んだんでしょ?職場で飲んだの?」
大「いや、あそこだよ。居酒屋 荒波。お前も行ったことあるだろ?あの小汚い居酒屋…」
三「あそこ行ったのぉ!酷い!純也が通い付けの居酒屋だって言うし、そんな純也の日常を見せてくれてありがとって思ってたのに他の女連れ込むなんて!」
大「いやいやいやいや、連れ込んだってそれ語弊(ごへい)あんだろ??」
三「私もうあそこ行かない!他の女を連れ込んだとこなんて嫌だもん!」
大「別にただの居酒屋だぞ?友達とか元カノとかとも行ってたから俺からしたらただの居酒屋なんだよ!」
三「元カノ!?」
大「あっ…。」
三「聞いてない!じゃあなに?私は元カノが座ったかもしれない椅子に座って、元カノが使ったかもしれない箸使って、元カノが「純也のこと好き」って思ったかも知れないことを私にもさせたのね!酷い!」
大「誤解だよ…あー、藪蛇(やぶへび)だった…。」
三「色んな女を連れ込んだのね!」
大「だーかーらー!連れ込んだって表現は…」
三「「だーかーらー」ってなに?反省してないの?」
大「遅く帰ってきたことは…反省…してます。」
三「しかもオフで居酒屋でお酒飲ませて…アルハラ?」
大「アルハラなんてするわけねぇーだろ?俺にも立場が…」
三「アルハラじゃない!?じゃあ岩下さんは自分から飲んだの?」
大「明日、休みだしなぁ。」
三「へぇー、じゃあ岩下さんは私がいるの知ってて、他人の彼氏の前でお酒飲んだんだ?ふうーん。」
大「さっきも言ったけどやましいことはなかったからな?相談に乗ってて仕事の話で熱くなってきただけだよ!」
三「仕事の話で熱く…ねぇ…。」
大「な、なに?俺またなんか言った?」
三「もういい…あたしなんてどうせ…。」
大「お、おい…小梢。」
三「純也にとって優先順位が一番下なんだよ私…。」
大「そんなことないって!俺は小梢が一番大事だから!」
三「じゃあなんで「遅くなる」とか「岩下さんの相談に乗ってから帰るとか連絡あってもいいじゃん…。」
大「小梢…。」
三「そうよ…連絡あってもいいじゃん!なんで連絡してこなかったの??」
大「あ、後でしようと思って忘れてたし、普段遅くなってもあんま怒られなかったから…。」
三「いや、流石に1時!遅すぎるでしょ!大体、彼女を家に残して…」
大(あ、やべっ…ぶり返した…。)
三「他の女とよろしくランデブーとかなにそれ!」
大「ご、ごめ!小梢!話はちゃんと聞くからトイレ行かせて!もう帰宅前から漏れそうなんだよ!」
三「なっ!人が話してるのにトイレって!」
大「ごめ…すぐだから!ね?すぐ!」
三「もう…。」
(トイレの水を流す音。)
大(小梢…今、トイレに背を向けてるな…)
三「ふん!純也の…ばか。」
大「小梢…。」
三「ひゃっ!ちょ…ちょっとなに?抱き着かないでよ!」
大「ごめん…本当に俺には小梢が大事なんだ…。」
三「ちょ…ちょっと…耳…息当たってる…。」
大「今日の事は…反省してる。俺、小梢が大事って言ってても…寂しい思いさせてたもんな…。」
三「も、もう!純也…!耳弱いから…!だめだって!」
大「ごめん…。」
三「純也…。」
大「愛してる…。」
三「もう…ずるい…。」
大「ごめんね…。」
三「わかった!もうわかったから!離れて!あーもう!純也のバカ!」
大「小梢は?俺の事…好き?」
三「うん、愛してる。」
大(くくく…計画通り!)
三「そう言えばこのコンビニ袋なに?
大「あ、そうだ。お土産に小梢の好きな洋菓子買ってきたんだ。一緒に食べよ?」
三「こんな時間に?うーん、でも今日くらいいっか!わぁーこれ新作のシュークリームだ!」
大「美味そうだよな!岩下さんから教えてもらってさ、小梢に狩っていこうと思ったの!」
三「岩…下…さん?」
大「2個しかなくてギリギリだったよ!あははは!」
三「岩下さん…ねぇ…。」
大「え?…あっ。」
三「もうトイレも済ませたし、ゆっくりこのお菓子を食べながら聞かせてもらいましょうか?」
大(午前3時を過ぎた頃、正座していた足は感覚を失い、やっとお許しをもらえたが、その後しびれた足をくすぐられる地獄と共に朝を迎えたのだった。)
おしまい