第十四話 「ambition」

2024年04月19日

阿久津 キョウ
鏑矢 右京
ジュラ
謎の女(伽陀 深ヶ理)
神喰 総司


ナ「前回までのあらすじ。20年前の未解決事件を皮切りに、不可解な事件が巻き起こる。5年の前、それまで平穏だった灰川町にて再び現れた謎の正体「異形」。
そして、謎の組織「赤い亡霊」。異形によって幼馴染を目の前で殺された阿久津 キョウ。家族を失った鏑矢 右京。赤い亡霊に狙われ、人間と異形の混ざった組織に狙われた塩川 幸太郎。
この3人を中心にこの怪奇事件の謎を追う。そしてこの3人に力を与えた異形のジュラ。
不可解な事件に動きを見せたのは、梅雨本番を迎えた、7月2日 雨の日だった。」

第二章 第十四話 「ambition」


阿「そ、そんな…。」

ジ「塩川君の事は心配いらないでしょう。身体もほとんど回復してましたからね。」

阿「…。」

ジ「そう遠くない内にきっと彼は帰ってきます。必ずね…。」

ナ「阿久津 キョウは昨晩、塩川 幸太郎が女性と共に病院を去ってしまったことを聞かされていた。その会話の最中に、病室に鏑矢 右京が飛び込んできた。」

鏑「阿久津!お前、昨日の国道の事故現場にいたのか!」

阿「鏑矢さん…連絡遅くなってごめんなさい。」

鏑「見たところ…怪我とかなさそうだな。」

阿「はい。」

鏑「で、赤い亡霊についてのメールを読んだが、異形とは関係なかったんだな?」

阿「…僕が見た限りと、塩川さんの会話から、僕らの前に現れた赤い亡霊は人間でした。」

鏑「で、他にも赤い亡霊は存在するんだろ?」

阿「はい、それが他の亡霊は走り去ったので、中身が人間か異形かはわかりませんでした。」

鏑「お前からのメールに書いてあった「板敷」って奴の事を調べたら、昔、族やってたみたいだな。」

阿「そうなんですか?」

鏑「あ?…まぁ、いいや。塩川の事も調べた。特にそこまでいがみ合ってたわけではないみたいだが、敵対チームではあったみたいだな。」

阿「それが今でも喧嘩を?」

鏑「それがな、板敷については4年前に何者かに襲われしばらく入院していたみたいだ。退院後の行方は知れず、昨日お前の前に現れたみてぇだな。」

阿「あ!確か…。」

鏑「なんだ?」

阿「その板敷って人…」

赤「一つだけ…教えてやるよ…。俺たちは…組織だ…。あの方の…ために…忠誠を…ちか…った…。」

鏑「あの方?」

阿「はい、それが誰だかはわかりません。そこで意識を失いました。」

鏑「そうか、とにかくその赤い亡霊については俺ももう少し深く調べてみる。」

阿「調べてみるってどうやってですか?多分ですけど、僕らの前には現れないんじゃないかと…。」

鏑「昨日の事故の件を聞いて、どんなにバカやる頭のイカレタ奴だとしても、一般人を巻き込んでまで塩川を狙うのは考えにくい。 しかも目立つ格好をしてるんだ、沢山の目撃者を作るようなもんだ。」

阿「確かに…。」

鏑「もし、その組織って奴の中に異形がいたら話は別だ。俺たちの可能性のある共通点はなんだ?」

阿「え?…僕の前に現れたのは僕を知る男。鏑矢さんも知り合いの可能性がある…くらいですか。」

鏑「あぁ、だとすると仮定の話だが、俺たちは偶然ではなく、誰かによって作為的に襲われたとすると、次また同じようなことが起きるといってもおかしくはないだろ。」

阿「そうですね、既に病院にも現れましたし…。」

鏑「取り合えず部下に調べさせてる。情報が入り次第とはなるが、お前にも連絡する。」

阿「はい。もし塩川さんに会うことが出来れば鏑矢さんに連絡します。」

鏑「わかった。ところでジュラよぉ。なんで塩川を行かせたんだ?」

ジ「身体はほとんど回復してましたし、私たちが赤い亡霊について闇雲に動くより、彼らに動いてもらった方が赤い亡霊の情報が得られると思いましてね。」

鏑「彼ら?」

ジ「はい、どなたかは存じませんが、女性と共に病院を去りました。」

鏑「女?彼女か?」

ジ「さぁ、わかりません。」

鏑「ちっ、手がかりが近づくと遠く離れてく…そんな気分だ。」

ジ「さて、そろそろ私からもお話させてもらえませんか?」

ナ「ジュラは空きとなった塩川 幸太郎のベッドに腰を掛け話を始めた。」

ジ「昨晩の話をキョウ君から聞き、私の中で2つの提案をさせてほしいんです。」

阿「提案…ですか?」

ジ「はい。もし、赤い亡霊のように異形が活動的になったとして、それらが右京君の推測通りに君たちの目の前に現れたとします。」

鏑「そん時ぁぶっ飛ばせばいいだろ?」

ジ「では、先日、右京君はあの看護師の異形と対峙した際に一人で倒せましたか?」

鏑「あ…いや…。」

ジ「そこで、私の知人に協力を仰ぎ、君たちに格闘技術を身に着けてもらった方がいいのではないかと考えてます。」

阿「格闘…?」

ジ「はい。君たちが異形の力を発動させるには条件があります。覚えてますか?」

鏑「死の淵に立った瞬間だけの突発的な力…。」

ジ「そこです。では、長期戦になった時、いつその力を使いますか?」

阿「最後の切り札…。」

ジ「となると、使いどころを誤ると君たちに待っているのは異形を倒し、その血や魂のようなものを食らい回復する結果ではなく、間違いなく「死」です。」

ナ「ジュラから的確な説明を受けている二人はそのまま黙って聞いていた。」

ジ「異形は倒せない相手ではありません。それは先日の中庭で実証されました。打撃などによるダメージは耐えられるようですが、凶器や刃物を使用することで異形を倒せることがわかりました。」

鏑「…そういやあん時…。」

ジ「一人で行動している時に異形に襲われても誰にも助けを求められません。そんな事態にならないように君たちには鍛えてほしいのです。もし、君たちが異形に殺されてしまったら…私はまた大切な人を亡くすことになります。」

阿「…先生。」

ジ「今日の今日で知人を呼ぶことはできませんが、どうでしょう、キョウ君の退院に合わせて会ってみませんか?」

阿「退院ですか?いつなんですか?」

ジ「明日の検査で問題なければ明後日には退院できます。」

阿「やっと退院できるんですね。」

ジ「それに、右京君もそろそろ薬が切れるころでしょう。この後、私は他の患者の予約で埋まってます。なので明後日もう一度病院へ来てください。」

阿「…薬?」

鏑「あぁ…精神安定剤だ。」

阿「…すみません。」

鏑「あの晩から眠れない日々が続いててな。夢に出るんだ。涼子と萌絵が…。」

阿「…。」

ジ「それと二つ目です。君たちには普段から血液量の20%を減らして生活していただきます。」

阿「にっ…20%!?」

ジ「はい。理由は簡単です。」

鏑「力を発動しやすくなるからだろ?」

ジ「その通りです。定期的に採血します。そのギリギリの状態を身体に馴染ませてください。」

鏑「でもよ、いきなりあれもこれもは無理だろ。俺は良いとして阿久津が…。」

ジ「すみません、言葉が足りませんでした。最終的には20%の血液を減らします。」

阿「あっ…よかった…。」

ジ「その採血した血液は私が保管します。もしもの時の隠し玉です。」

鏑「最悪の場合を想定した前準備ってやつか。」

ジ「流石に私でも、血液を他から用意は出来ませんからね。そのため転ばぬ先の杖とでも言いましょうか。」

鏑「わかった。」

阿「わ、わかりました…。」

ジ「では、私はそろそろ診察室へ戻ります。」

ナ「ジュラは二人を残し病室を去った。残された阿久津 キョウと鏑矢 右京は少し雑談をした後、鏑矢 右京も帰っていった。」

阿(塩川さん…大丈夫かな…。あれ…?僕が他人の心配…?)

ナ「阿久津 キョウは自分の変化に気が付き戸惑っていた。」

阿(優里香を死なせてしまったのに…。そんな僕が他人を心配するなんて…こんな僕に…なにも出来ない僕に…。こんなの偽善でしかない…。)


ナ「7月4日 雨 灰川記念総合病院。この日、阿久津 キョウの退院の日となった。病室にて、鏑矢 右京がジュラの診察を終えるまで待機していた。」

ジ「キョウ君、お待たせしました。会計を済ませ、直に右京君もここに来ますよ。」

阿「わかりました。」

ジ「検査結果は良好ですし、これからが本番ですね。」

阿「はい…。」

ジ「不安ですか?」

阿「えぇ、まぁ…。」

ジ「心配いりませんよ。対抗する力をつけること、採取した血液がいざという時に役に立つところを鑑みれば、異形と対峙した時の生存確率は僅かかも知れませんが上がることには間違いありません。」

 阿「僕に出来るかわかりませんが、やるだけのことはやろうと思ってます。それが優里香の願いであるなら…。」

ジ「そうです。君には生きてほしいと願った優里香さんの思いを紡ぐためにも、誰かを助ける以前に君が生きることが大事なんですから。」

阿「先生…なんで僕は異形に襲われたんでしょうか。」

ジ「さぁ、それはわかりません。私の推測では、何か恨みや憎しみを持った人間が異形へと変わっているのかも知れません。」

阿「恨み…憎しみ。」

ジ「右京君も昔は人に言えない薄暗い人生を歩んでましたからね。」

阿「そうなんですか…。今の鏑矢さんからは想像つきません。」

ジ「…そろそろ来る頃ですね。右京君が来たら荷物をまとめて退院をしましょう。私は今日は午後からお休みをいただいているので、揃ったら私の車で移動しますよ。」

阿「どこへ行くんですか?その…師範の人に会いに行くんですよね?」

ナ「ジュラは阿久津 キョウへ返答しようとしたが、会計を済ませた鏑矢 右京が病室へ訪れてきた。」

鏑「悪ぃ、遅くなった。会計の婆さんがすっとろくてよぉ…。ん?なんか話し中だったか?」

ジ「いえ、ちょうどいいところに来ました。では、私は準備して来ますので、正面入り口の所で待っててください。」

阿「あ、はい。」

鏑「んじゃ、俺はちっと会社へ連絡入れてくっから。」

阿「忙しいんですか?」

鏑「忙しいってわけじゃねぇーけど、これでも社長だからな。普段は連絡がなきゃこっちから連絡することねぇけど、今日は客が来るらしいから、営業の奴に一本な。」

阿「わかりました。じゃあ僕は先に正面ロビーにいますね。」

鏑「おう、んじゃまた後でな!」

ナ「鏑矢 右京は、阿久津 キョウが病室を出たことを確認すると、スマートフォンを取り出し連絡を始めた。」


鏑「…あぁ、俺だ。取引先から連絡きたか?…そうか。取引はお前に任せるわ。先月までの決算書だけ会計士に提出すっから間に合うように渡辺に言っといてくれ。
あぁ、頼む。それと、例の件だが情報は…そっか。わかった。あ?…あぁ。今日はちと戻れそうにねぇな。後で家で報告書に目を通しておく。じゃあな。」

ナ「電話を終えると、阿久津 キョウの待つロビーへ向かった。一階へ降りるエレベーターが開き、乗り込もうとした時、一人の女性がベビーカーを押しながら降りてきた。」

謎「…ふふふ。ごきげんよう。」

鏑(…なんだこいつ…。あんな前髪で前が見えんのか?)

謎「今日もいい天気ですね…。」

鏑「はぁ?今、梅雨だぞ?」

謎「えぇ…。雨は色々な嫌なことも思い出しますが、雨音は全てを包んでくれます。」

鏑「なんだあんた?」

謎「早く乗らないと…エレベーターの扉…締まりますよ?」

ナ「エレベータ内に残された患者たちの視線を感じ、鏑矢 右京はエレベータへ乗り込んだ。」

謎「では…また。ごきげんよう…。」

ナ「謎の女が鏑矢 右京に声をかけ、振り向いた時には女の姿はなかった。」

鏑(なんだ一体…。てか「また」ってなんだ?容姿も気配も普通の人間だったが、異形に関係のある…って感じもしなかったな…。)

ナ「鏑矢 右京が考え込んでいる内に一階へ到着していた。エレベーターを降り、真っすぐ正面ロビーへ向かった。」

阿「鏑矢さん、こっちです。」

鏑「…。」

阿「あれ…鏑矢さん?」

鏑「…。」

阿「ど、どこいくんですか?鏑矢さん!」

鏑「え?あぁ、阿久津か。」

阿「…お仕事でなにかあったんですか?」

鏑「ん?あぁ、いや。ちょっと考え事だ。ジュラのとこ行くぞ。」

阿「あ、はい。」

ナ「二人は正面玄関を出たところで、ジュラの白いセダンを発見した。」

ジ「乗ってください。」

ナ「ジュラに促され、二人は後部座席へと乗り込んだ。」

鏑「その師範とやらはどこにいんだ?」

ジ「今、二人には灰川総合体育館で待っててもらってます。」

鏑「そいつら何者なんだ?」

ジ「そうですね…一人は総合格闘家、もう一人は剣術家です。」

鏑「随分大層なのに声かけたな?」

ジ「それくらいの人間じゃないと異形とは戦えません。一朝一夕でどうにかなるとは思ってません。」

鏑「護身術程度ってとこか?」

ジ「はい。あとは現地に着いたら説明しましょう。」

阿「あ、あの…僕は格闘技とかは経験ないんですが…。」

ジ「先ほど、右京君の言った通り、護身のため程度には訓練してもらいます。キョウ君にはね。」

鏑「阿久津には?」

ジ「はい。さぁ、着きましたよ。」

阿「…ここは…?灰川総合体育館?」

ナ「阿久津 キョウと鏑矢 右京が車から降りようとした時、ジュラが言葉で二人を止めた。」

ジ「二人とも。よく聞いてください。私はあなたたちを戦士にしたいわけではありません。ただ、襲ってくるかも知れない脅威に対抗すべく、力をつけてほしいのです。」

阿「…はい。」

鏑「あぁ。」

ジ「キョウ君の無念や右京君の復讐に加担するためではありません。私は君たちには幸せになって欲しいだけです。なので、厳しい鍛錬になるかと思いますが…頑張ってください。」

鏑「あー、だりぃ。てめぇの考えとかどうでもいいわ。火の粉は払う、ただそんだけだ。」

阿「僕は…足を引っ張らないように気を付けます。」

鏑「阿久津…おめぇーはとにかく何かあったら俺を呼べ。」

阿「…え?」

鏑「よくわかんねぇーけど、お前の中の得体の知れない奴がいるとしても、必ずしもそいつがピンチを脱してくれるわけじゃねぇ。」

阿「そうですね…。」

ジ「…。」

鏑「俺は、この因果を断つために!阿久津!お前は優里香ちゃんの思いを紡ぐために…命賭けるぞ!」

阿「はい!」

ジ「右京君の血の気の多さには困ったものですね。さて…心の灯(ともしび)が燃えている間に、会いに行きますよ。」

ナ「ジュラは二人を引き連れ、既に閉館時間となった総合体育館の扉を開いた。管内の至る所が既に消灯され薄暗くなっていた。一方その頃、ジュラや赤い亡霊とは異なる組織が静かに動き出していた。」

神「今日!この7月4日はアメリカがイギリスから独立した日だ!反戦を謳い独立したと言われている!そして強い国家と成りあがった!
今この国は平和という安寧だけを誇示し、成長どころか退化している!
様々な犠牲の元に得た安寧に胡坐(あぐら)をかき、後世がその安寧を維持するための力も育てず、先人が残した歴史を利用している!私益を肥やす者どもに鉄槌(てっつい)を!
我々が反乱を企てる!さあ、俺たちの時代の幕開けだ。先ずはこの灰川市を文字通り灰へと還(かえ)し、ここを足掛かりとして決起する!力は悪ではない!平和を守るための正義だ!遺憾ながらそのための犠牲も厭(いと)わない!
そして!この神喰 総司が我々の呼称を【ERORRS】(エラーズ)と命名する!同志諸君!私についてこい!」 

続く

第十五話 「restart」

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