一人美人局
愛瑠(あいる)♂(20代前半):中性的な顔立ち、両声類、若干小柄で細身
篠崎 雄二(しのさき ゆうじ)♂(40代半ば):妻子持ち 妻に隠れてマッチングアプリを始める
篠崎「はぁ…なんか緊張してきた。こんな可愛い子が俺の相手をしてくれるなんて…。なんか今夜、違う自分に生まれ変われる気がする。」
愛瑠「お待たせー!待った…よね?」
篠崎「あ、いや…そんなことはないよ。ぼ、僕も今来たところだから。は、ははは。」
愛瑠「急にお母さんが具合悪くなっちゃって…。病院から急いで駆けつけてきたの。」
篠崎「そういえばメールであまりお母さん元気じゃないって言ってたね?今日会って大丈夫なの?」
愛瑠「うん。私も会いたかったし、お母さんは病院にいるから問題ないと思う。なにかあれば連絡来ると思うしね!」
篠崎「愛瑠ちゃん…。」
愛瑠「ただ、私バイト増やさないと。うち母子家庭だし、これからお母さんの病院代がかかると思うから…。」
篠崎「そっかぁ…。」
愛瑠「うん…。だから今日は沢山楽しんでおきたいな!…って。もしかしたらこれが最初で最後のデートかも知れないしね…。へへへ。」
篠崎「そ、そんな…。」
愛瑠「さ、いこ!私お腹空いちゃった!ご飯食べたい!」
篠崎「う、うん…。じゃ、じゃあ…何食べたい?」
愛瑠「うーん、最近あまり食べてなかったしな…。あ!あそこに最善屋がある!あそこのファミレスのミラノ風おじや美味しいよね!」
篠崎「最近食べてなかったって…。だったらあそこの焼肉なんかどお?お肉大丈夫?」
愛瑠「え!だって高そう…。私なんて最善屋で十分だよ…。男の人にそんな風にしてもらったことないし…。」
篠崎「だったら…今日くらいは贅沢してもいいんじゃないかな。とにかくお腹いっぱいにしよ?」
愛瑠「本当にいいの…?」
篠崎「あぁ、1度きりだとしても何かの縁で出会ったんだし、楽しく過ごそう?」
愛瑠「…あれ?へへへ。なんかこんなに優しい人って思わなかったからかな…涙出てきちゃった。恥ずかしっ。」
篠崎(か…可愛い…。大胆に開いた胸元…そして大き目な胸。極端に短いスカート、そして白のハイソックス…。深夜アニメでしか存在しないと思っていたが本当にこんな子が実在するなんて…。)
愛瑠「ん?どうしたの?」
篠崎「あ、いや…なんでもない。行こうか。」
愛瑠「うん!ねね!腕…組んでもいい?」
篠崎「え?あ、あぁ。うん。」
篠崎(でかい!そして妻では味わえない若い子の張り!ほんのり香る甘い香水…。)
愛瑠(ふっ…こいつ想像通りにチョロそうだな。残念ながら俺の胸はシリコンだ。だが、コイツにならバレねぇだろ。)
篠崎「さぁ、着いたよ。何を食べる?」
愛瑠「えぇー!凄い!カウンターなの??」
篠崎「シェフが目の前で焼いてくれるんだ。いきなり初めての店じゃわからないよね。シェフ、コース頼めるかな?今日はルメイヤーコースで。」
愛瑠「よくわかんないけど、私こんな高いお店初めてで緊張しちゃう!」
篠崎「そんなにくっついてたら食べにくいよ?」
愛瑠「こうしていたいの…ダメ?私お父さんいなかったし、年上の男性って安心するんだもん。」
篠崎「あ、あぁ。じゃあ…いいよ。」
愛瑠「嬉しい…。あ!凄いよ!火がボーッて!」
篠崎「ははは、凄い火柱だね。怖かった?」
愛瑠「ううん!楽しい!」
篠崎「さ、料理が来たよ。食べよ?お酒は飲めるかい?」
愛瑠「うーん、ちょっとなら!…お肉美味しい!こんな甘くて解けるようなお肉初めて食べた!」
篠崎「じゃあ、グラスワインをもらおうか。」
愛瑠「飲めるかな…あ!美味しい!」
篠崎「気に入ってもらえたかい?」
愛瑠「うん!人生で一番幸せな時間かも!」
篠崎「よかった。」
愛瑠「(着信音)あ、お母さんだ!ちょっと待ってて?お手洗い行ってくる!」
篠崎「うん。」
(間)
愛瑠「…ただいま。」
篠崎「おかえり…どうしたんだい?」
愛瑠「お母さん、入院だって。」
篠崎「そんなに悪いのかい?」
愛瑠「想定はしてたんだけどね…。」
篠崎「そっか…。」
愛瑠「…。」
篠崎「どうしたの?今はお母さんは病院に任せて食事をしよ?」
愛瑠「食欲なくなっちゃった。お母さん…。」
篠崎「ごめん。そうだよね?病院戻るかい?」
愛瑠「ううん。今日は一緒にいたい。」
篠崎「そっか。」
愛瑠「実はね、バイト増やすって話したでしょ?」
篠崎「うん。」
愛瑠「昨日、面接受けて受かったの。」
篠崎「うん。」
愛瑠「明日から私…風俗で働くんだ…。笑っちゃうでしょ。」
篠崎「え!」
愛瑠「でもお母さんのこと大切だし…。」
篠崎「え?ちょっと、その腕…。」
愛瑠「え?あ!やだ!…ごめんなさい。見せるつもりなかったのに…。リストカットが癖になってきちゃったの。」
篠崎「ダメだよ!そんな綺麗な体に傷なんて…。君はもっと幸せになるべきだよ!」
愛瑠(シリコンジェルにファンデーションを砕いて混ぜた偽物だけどな。)
篠崎「病院代っていくらくらいするんだい?」
愛瑠「(ktkr)検査から手術になるとネットで調べたら60万くらい…。」
篠崎「60万か…。今すぐ持ち合わせてないけど、また次会ってくれるなら用意するから!」
愛瑠「え?何言ってるの?そんなの受け取れないよ…。」
篠崎「僕が君に会いたいんだ!それに僕は君を大切にしたいと思ってる!だから!」
愛瑠「…嬉しい。わかった、また次も会う。でもお金はもらえないよ…。」
篠崎「君を風俗なんかで働かせたくないんだ!だから…。」
愛瑠「私、どっちにしても返せるあてはないもん。だから結局は風俗で働く。」
篠崎「返さなくていい!君を助けたいんだ!」
愛瑠「…わかった。明後日なら空いてる…と思う。明日から風俗のバイトだから…。」
篠崎「そんなの行かなくていい!なら、明日会おう!明日また駅前で!」
愛瑠「…うん。」
篠崎「絶対だよ?それとこれ。」
愛瑠「え?」
篠崎「ご飯食べたら、これでタクシー拾ってお母さんの所へ行ってあげて!」
愛瑠「え、ちょ…なんで私なんかのために…。」
篠崎「私なんかって自分を卑下(ひげ)するな!念のため2万渡しておくから。だから安心して食事を楽しもう?」
愛瑠「…うん。ありがと。人からこんなに優しくされたの初めて…。」
篠崎「そっか。冷めちゃう前に食べよ。」
愛瑠「…うん…美味しい…。」
(間)
篠崎「お腹いっぱいになった?」
愛瑠「うん!なんか…ありがと。少し元気になれた。」
篠崎「そっか。あ、タクシーきた。」
愛瑠「じゃあ…行くね。」
篠崎「うん、また明日。」
愛瑠「おやすみなさい。今夜はご馳走様でした。」
篠崎「後でメール送るから。おやすみ。」
愛瑠(ふっ…計画通り!さてと、明日はホテルだな。でっあいーは60万のぉーむなさわぎぃー♪なんつってな!)
(翌日)
篠崎(ちゃんと来てくれるかな…。お母さんは大丈夫なんだろうか…。)
愛瑠「お待たせ!ちゃんと来たよ!」
篠崎「よかったぁ!」
愛瑠「男声)ちょっ!おい!いきなり抱き着くな!」
篠崎「え?」
愛瑠「え?あぁー…ごほごほっ。昨日、お母さんが心配で眠れなくて…風邪ひいたのかな?」
篠崎「そうだよね、心配だよね。そしたら今夜もあのレストランに…。」
愛瑠「ちょっと今日はまだ不安で…二人きりで落ち着ける場所がいいな…。」
篠崎「二人で…落ち着ける…場所?」
愛瑠「…うん。なんか人肌恋しくなっちゃって…。」
篠崎「わかった。それにあまり人目につくところで渡せるものでもないしね。ところで今日は随分大きなカバンを持ってきたね?」
愛瑠「あー!そうやって女の子の持ち物を詮索するのはおじさんのすることだぞぉー?」
篠崎「いや、だって俺、おじさんだもん。」
愛瑠「そんなことないよぉー!」
篠崎「いや、だってもう40すぎだよ?」
愛瑠「私にはそんなの関係ないもん。それにカッコいいし!」
篠崎「カッコいい!?俺が??」
愛瑠「うん?普通にカッコいいよ?」
篠崎(妻にも言われたことないのに…。)
愛瑠「なんか今日、不安で人目が怖いから早くいこ?」
篠崎「あ、うん。じゃあ…そこでいいかな?「ホテル パンドラ」」
愛瑠「うん。どこでも。」
(ホテル内)
篠崎「最近のホテルってなんていうかこう…ゴージャスだな。」
愛瑠「そうなの?」
篠崎「なんか落ち着かないな…ははは。」
愛瑠「(着信音)あれ?お母さんからだ。ちょっと電話してくる。」
篠崎「あ、うん。いってらっしゃい。」
(間)
愛瑠「ただいま。」
篠崎「どうだった?」
愛瑠「お母さん…やっぱり手術だって。」
篠崎「そっか…。」
愛瑠「ごめん…。また会えたんだし、少しは明るくしようと思ってたのに…。」
篠崎「あの…愛瑠ちゃん。これ…。」
愛瑠「…なに?封筒…これって…!」
篠崎「70万入ってる。」
愛瑠「でもお母さんの入院代は…。」
篠崎「わかってる。他にも入り用があるかもしれないから多めに入れておいた。」
愛瑠「…本当にありがとう。ううっ…ありがとう…。」
篠崎「泣くなよ。これで一安心でしょ?だから笑って?君には笑顔が似合うからさ!」
愛瑠「ねぇ…。」
篠崎「…ん?うをっ!ちょっ…。」
愛瑠「ありがとうのキス…。」
篠崎「愛瑠…。」
愛瑠「安心したら抱きしめられたくなっちゃった…。」
篠崎「え…?いいの?」
愛瑠「うん。だからお風呂入ろ?でも恥ずかしいから先に入って?」
篠崎「わ、わかった。」
愛瑠「ちゃんと洗ってね?臭いのはヤダよー?」
篠崎「う、うん。わかった!急いで入ってくる!」
愛瑠「うん、待ってるね!」
篠崎「いってきまぁーすっ!」
愛瑠「(男声)…行ったな。さてと俺も着替えるか。カバンの中身確認されたらやばかったなぁ。あ、そだ。おっさんの財布…っと。ん?家族の写真?独身じゃなかったのかよ。こりゃいいカモになりそうだ!」
篠崎「念入りに洗っておかないと…あ、(バキューン)が(バキューン)になっちゃった。」
愛瑠「シリコンの乳とって…ウィッグ外して…化粧落として男物の服に着替えてっと…あ、グラサンもしとくか。カバン隠しておかないとな…。」
(間)
愛瑠「おせぇーな、いつまで洗ってんだよ。」
篠崎「ふぅー、いい湯だった。愛瑠もお風呂入っちゃ…い…なって…誰?」
愛瑠「おうおうおうおう!俺の彼女に何、手を出してくれてんだおっさん!」
篠崎「え?」
愛瑠「アイツいくつか知ってて手を出してんだよなぁ?JKだぞJK!」
篠崎「JK!?え?23歳じゃ…。」
愛瑠「んなこたぁどーでもいいんだよ!おめぇ、嫁にバレるか痛い目にあうか、それとも慰謝料だすかどれか選ばせてやるよ!」
篠崎「そ、それは妻の写真!」
愛瑠「さぁ、どーすんだおっさん!えーっと名前は「しのざき ゆうじ」っつうんだな?この免許書は預かっておくわ。」
篠崎「「しのざき」じゃない、「しのさき」だ!」
愛瑠「どこに拘ってんだよ!」
篠崎「頼む!妻には内緒にしてくれ!」
愛瑠「じゃあ、慰謝料払うんだな?」
篠崎「慰謝料って…愛瑠ちゃんにへそくり全て渡してしまったんだ!もう金はない!」
愛瑠「んじゃどっかで借りてこいよ!」
篠崎「頼む!妻には内緒にしてくれ!」
愛瑠「ちょ、ちょっといてぇーなおっさん!肩掴むなよ!」
篠崎「頼む!君には謝罪もする!だから頼む!」
愛瑠「いてっ!いてぇーって!離せよ…(女声)いてぇつ…いやっ…痛い…。」
篠崎「本当に申し訳ない!でも私も妻にはバレたくないんだ!」
愛瑠「そ、そんな…力いっぱい押し倒さないで…ちょっ…やめろ…ってぇ…」
篠崎「…ん?その声って…クンクン…愛瑠ちゃんの香水?」
愛瑠「(男声)あーあ、バレちまった。そうだよ。俺が愛瑠だよ。」
篠崎「そ、そんな…。」
愛瑠「まぁ、いい夢見たろ?嫁には内緒にしてやっから。俺は帰るぜ。」
篠崎「…てよ。」
愛瑠「あ?」
篠崎「待ってよ…。」
愛瑠「あぁ?さっきの金か?嫁への口止め料としてもらっとくわ。」
篠崎「俺は…俺は愛瑠がどんな子でも構わない。大切なんだ!」
愛瑠「え?」
篠崎「愛瑠ー!」
愛瑠「お、おい!正気か?俺は男だぞ「しのざき」!」
篠崎「「しのさき」だ!俺は愛瑠を愛してるんだ!」
愛瑠「え?うそ?ちょっ…ごめんなさいぃぃぃぃい…。」
(1か月後)
愛瑠(俺はあれっきり一人美人局をやめた。ついでにマッチングアプリもやめた。よくよく考えたらサツにタレこまれたらアウトだしな。捻くれた人生だったが、自分に正直に生きてみようと思った。)
篠崎「おーい!愛瑠ー!」
愛瑠「(女声)もぉー!おーそーいぃー!雄二のバカ!」
篠崎「電車が遅れちゃってさ。今日はどこ行こうか?」
愛瑠「えー…雄二の行きたいところで…い・い・よ♡」
篠崎「じゃあ…またパンドラの箱でも開けちゃうか!」
愛瑠「もぉー雄二の変態!」
おしまい