注文の多い眼鏡店
三浦 マリ子(みうら まりこ)20代後半 :眼鏡店の店員。上から目線で自信家。
太刀山 響慈(たちやま きょうじ)20代後半:コンタクト利用者。転職して新たな土地で生活を始める。
太「参ったなぁー。コンタクトってどこで売ってるんだろ。あ!失礼かもしれないけど、あそこのメガネ屋で聞いてみよ!」
(入店音)
三「いらっしゃいませー。」
太「うわっ!美人さんだ。えっと…すみません。実は俺この辺のお店わからなくて来たんだけど…。」
三「こちらのメガネはいかがですか?」
太「あ、いや。ごめんなさい。メガネ買いに来たんじゃないんですよ。
三「え?なにしに来たの?」
太「なにしにきたって…この辺にコンタクトレンズを売ってるお店ないかなーって。」
三「コンタクト?そんなことよりこのメガネかけてみて?」
太「俺、メガネしないんですよ…なんかすみません。探してみます。」
三「いいからかけてみなって。」
太「え?なんでため口なのこの人…。はぁ…まぁかけてみます。」
三「うーん。違うなぁ…。」
太「え?あぁ。ですよね。俺メガネいらないんで…。」
三「んじゃこっちかけてみ?」
太「かけてみ??てか俺メガネいらないんで、帰りますね!」
三「待ちな!こっち向て!ほら!」
太「ちょっとぉ!なんですかぁ!失礼な人だなぁ!うわっ…ちょっとぉ!」
三「ほー、うん。中々だな。若干、四角っぽくて上だけフレームのあるメガネの方が、お前には似合うな。」
太「やめてくださいよ!俺はコンタクト探してるって…。」
三「鏡見て見ろ。ほら。」
太「えー。なんだよもう…。あれ?このメガネ…。」
三「うん、これ似合うな。」
太「ほーっ、メガネもいいなぁ…。この際イメチェンでメガネもいいかもな。うん!これくだ…。」
三「だがまだだ!」
太「えー!?」
三「すぐに売るわけないだろ。まずは髪型!なんだその頭は!」
太「なんだって…マッシュルームカットですが…。」
三「はぁ…。お前に個性はないのか?」
太「個性って…。俺なりにこだわってんだけどなぁ…。」
三「個性を出すなら先ずは無造作!そしてワックス使ってアレンジ!」
太「えぇ…そりゃイケメンぽくなるかもしれないですけど…。」
三「こっちは遊びでメガネを売ってる訳じゃない。いいか?メガネは顔の一部って昔からいうだろ?」
太「いや、メガネはメガネだから!」
三「お前メガネなめてるな?」
太「あのさぁ、俺は客だよ?お前って呼ぶなよ!」
三「そうか、それは私が悪かった。謝る。」
太「いや、フランクでいいとは思うけど…。」
三「お前の名前はなんていうんだ?」
太「さっきの謝罪はなんだったんだよ…。はぁ…。」
三「太刀山 響慈と言うのか…。」
太「え?なんで知ってんの?」
三「ん?免許証に書いてあるじゃないか。ほら。」
太「え?え?その手にあるの俺の財布じゃん!あー!チェーン切られてる!」
三「太刀山は子供なのか?財布落とさないようにチェーンして…。」
太「いや!そういう財布なの!もう!返してよ!」
三「はぁ…とにかく今週の水曜日までに髪形をアレンジしてもう一度来い!いいか?」
太「水曜日!?なんでだよ!」
三「私が毎週木曜日休みだからだ!」
太「わかった!わかったよ!むかつくなぁ!このままじゃ俺だって引っ込みつかないからな!」
三「ありがとうございましたー。」
(自動ドアの音)
太「なんなんだよ!少しくらい美人だからってなめやがって!見てろよ!ちきしょう!」
(あくる日)
三「いらっしゃいませぇ。ってなんだお前か。」
太「なんだってなんだよ!」
三「ふーん。髪形いいじゃん。んじゃこないだのメガネかけてみ?」
太「だーかーらー!お前って呼ぶなって言ったろ!俺の名前は…。」
三「太刀山だろ?」
太「え?覚えてるじゃん!なんかちょっと嬉しいんだけど…。」
三「お前の感情はどうでもいい。とにかくかけてみろ。」
太「ったくよぉ…。ってあれ?これが…俺?」
三「あんたの顔立ちだと、このメガネをかければ男前が上がるんだよ。」
太「メガネも悪くないなぁ…。これくださ…。」
三「まだ!」
太「え?」
三「まだ売れない!」
太「どうして!?」
三「服装ダサイから。」
太「だ、ださ…。」
三「あのさぁ、あんたその歳でダボダボな服はちょっとダサすぎだろ…。」
太「いや、これでも雑誌参考にコーディネートしてんだけどなぁ。」
三「はぁ…。個性語ってるくせに雑誌とか論外!」
太「いや、よくね?俺がそれで満足だったらいいじゃんそれで!」
三「ふーん、それであんたモテてんの?」
太「え?」
三「モテてる?」
太「いや…モテはしないけど…。それがなんだよ!」
三「メガネが可哀そうだろ?お前みたいなルックスにかけられたんじゃな?」
太「ちょ…え?俺、人間扱いされてる?それ!」
三「お前にあるのは法律の下にある基本的人権の尊重だけだ。メガネ的人権の下にお前の意見は通用しない!」
太「あ、なんか…目の前が歪んだ…。」
三「まず一つ目!その重ね着っぽいロングTシャツにうるさいほどの英語のプリント!」
太「カ、カジュアルじゃん…。」
三「二つ目!中途半端にタケの短いパンツ!それとすね毛!あと女子中学生が履くような靴下!」
太「カ、カジュアルじゃん…。」
三「三つ目!昔のヤンキーじゃあるまいし、先の尖った革靴!」
太「カ、カジュアルじゃん…。」
三「お前、さっきからカジュアルとしか言ってねぇーな。」
太「むしろ俺の個性だよ!」
三「はぁ…。髪型を指摘すれば少しはまともなファッションに目覚めると思った私がバカだった。」
太「あんたさっきから言い過ぎなんだよ!俺を否定するのはあんたの自由だけど、そこまで言われる覚えはない!」
三「じゃあ聞くが、そのメガネをかけた時にどう思った?俺ってこんな風に変われるんだ!って思わなかったか?」
太「そ、それは…思った。」
三「だろ?」
太「でもさ、それと俺のファッションとは全く別問題だろ!」
三「はぁ…。リーダー!ちょっと隣の店行くんで店よろしくー!」
太「え?店長なの?」
三「いや、先月入ったばっか。」
太「新人かよ!」
三「うるさい、いいから行くよ!」
太「行くって…隣って洋服屋じゃね?」
三「そうだよ、私が見立ててやる。」
太「ちょっと!俺の一張羅を引っ張るなよ!袖が伸びるだろ!」
三「大丈夫だ、その服はもう雑巾としてしか利用価値はないからな!」
太「雑巾って、これでも高かったんだぞ!」
三「ガタガタ騒ぐな。ほら着いたぞ。」
太「え、ここって…ちょっと俺にはオシャレ過ぎない?」
三「えーっと…うん。これ!これ着てみ?」
太「え?ちょっと大きくない?このシャツ。」
三「深みあるグレーがいいな。オーバーサイズのシャツ羽織って、中は…うーん。白Tシャツかな。」
太「おおお、なんかカッコいいな。」
三「下は…これかなぁー。このテーパード履いてみ?」
太「じゃあちょっと試着室行ってくる。」
三「こっちだ。」
太「ありがと…え?カーテン閉めたいんだけど…。」
三「見慣れてる。平気だ。着替えろ。」
太「いや、恥ずかしいだろ!手を放せよ!」
三「はぁ…。まあいい。早くしろ。」
(間)
太「着替えたぞ。」
三「どうだ?」
太「なんか俺じゃないみたい…。」
三「それじゃ、その雑巾は店に引き取ってもらって、その服を買ってこい。」
太「いやいや、一歩引いてもだ!持って帰らせろよ!」
三「はぁ…まぁいい。好きにしろ。」
太「でもさ、俺って本当はこういうの似合うんだな。教えてくれてありがとう。」
三「なっ!ば、ばか!私はメガネを売りたいからコーディネートしただけだから…。礼なんていらないんだからな!」
太「ははは!こんな美人でも可愛いところあるんだな!」
三「か、かわいい?戯言を!いいから店に戻るぞ!もう!」
太「口悪いけどいいやつだな!あんた。」
三「うるさいっ!いいから戻るぞ!」
(間)
太「これでこのメガネをかけると…。なんだろ…これが本当に俺なのか?」
三「あぁ、お前の本来の姿だ。」
太「これなら…うん!メガネもいいな!これ売ってほしい!」
三「わかった。じゃあ視力検査をして、出来上がりまでに1週間だ。」
太「そっか。わかった。視力検査やってくれ。」
三「ちょっと待ってろ?リーダー!こいつの視力検査お願い。」
太「え?あんたやってくれるんじゃないのか?」
三「私はもうあがりの時間だ。一週間後に待ってるからな。」
太「そっかぁ。残念だな。」
三「え?」
太「いや、なんでもない。じゃあ…また。来週な。」
三「あぁ。楽しみにしておけ。」
(一週間後)
三「いらっしゃ…、なんだお前か。」
太「相変わらず口悪いな。メガネ出来てるか?」
三「あぁ、こっちだ。…ほら。」
太「うん!うんうん!いいね!このメガネ!」
三「今、他の客を待たせてるんだ。」
太「そっか。邪魔して悪かったな。」
三「いや。取り合えず私の見立ては間違いじゃなかった。」
太「おお!本当にありがとな!」
三「そこでだ、お前、私の彼氏になれ。」
太「え?」
三「私がお前のために彼女になってやると言ってるんだ!」
太「え、いや…そのぉ…。」
三「なんだ?不満があるのか?」
太「いやいやいやいや、嬉しいよ?たださ…。」
三「まどろっこしい奴だな。素直に「はい!」と言えばいいだろ。」
太「いやそうじゃなくて…。あんためっちゃ美人じゃん?」
三「あぁ、自慢じゃないがモテるな。」
太「俺さ…。なんつーか…そのぉ…。」
三「客を待たせてんだ!早く言え!」
太「えっと…B専…なんだよね…。」
三「え?」
太「だから…あんたのこと美人だけどタイプじゃないんだ…。」
三「ちょ…え?え?」
太「ま、まぁ…ほら、また…メガネ買いに来るから…はははっ。じゃっ!」
三「ちょっ…えええええええ!うそでしょ…。ちょっと…えー!私フラれたのぉ!?」
(少し間)
三「あ、はい。お待たせしました!こちらのメガネが似合うんじゃないですか?そのためには先ず髪型から変えましょうか?」
完