妄想無双の純愛活劇

2022年06月13日

渡辺 香里(わたなべ かおり)アラサー:少女漫画の作家。過去に同人誌を作成。情景反射的に腐女子脳になる。

長谷川 尊(はせがわ たける)アラサー:大倉達也と中学からの友人。世渡り上手。情けをかけて相手を手のひらで転がすのが得意。

大倉 達也(おおくら たつや)アラサー:長谷川尊と中学からの友人。生真面目。馬鹿正直。正義感があるが情けに弱い。


(はぁ…。毎週毎週、締め切り締め切りって…。売れっ子になりたいって思ってたけどこんなにもしんどいとはねぇ…。まぁ今夜はアシスタントに任せて、一杯やるかぁ…。)

(引き戸を開ける音)

「ふぅー…。おしぼりは熱々が一番だねぇー。おやっさーん!生とヤッコちょーだい!」

「だから!僕はこの企画に社運を変えた内容だって言ってるんだよ!」

長「あぁ。」

「それをなんで主任は理解してくれないんですか!」

(あー、うるさっ!こっちは貴重なオフの時間に気晴らししてんのに…。)

長「お前の言いたいことはわかる。けどな?」

「わかってもらえてるんならどうして僕の企画を後押ししてもらえないんですか!」

長「それについてはだな?」

「納得いかないですよ!」

(いるんだよねぇ…相手の話を聞かないで自分の意見ばっかいう奴。なぁーにムキになってんだ…か?)

長「いいから俺の話を聞けって。大倉。お前の言いたいことはわかる。でもな?それにはお前一人では成しえないと思ってる。」

「どこがですか!」

長「企画書を書くだけなら一人でもできる。だがな、実行するには協力者がいるだろ?」

「そこは主任の力で…。」

長「甘えてんなよ?そんな考えで課長たちを納得させるなんてありえないんだよ!」

(え?ちょっと…。よく見たら主任って呼ばれてる人、めっちゃイケメンじゃない??)

「そ、それは…。」

長「ほらな?そういうとこなんだよ。」

「でも、それは…。」

長「男なら「でも」とか言い訳すんなよ。だからお前はだめなんだ。」

「…わかったよ。」

(え?え?ちょっとあの子…見た目可愛いんじゃない??)

長「お前さ、なんでも自分の力でできるって過信してないか?」

「いや、それはないよ!そりゃチームで仕事するわけだから、みんなと協力をする必要があるのはわかってるよ。」

長「はぁ…お前はわかってない!俺の言いたいことを耳で聞いて頭で考えてないんだよ!」

「やだこれ、なにこれ?やだ…萌え上がるじゃない!おやっさん!熱燗!2合ね!それとエスカルゴのアヒージョも!」

長「ちっ…なんだ隣の女。うるせぇなぁ(小声。」

「主任はどうなんですか!今回の企画はどれだけの価値があると思ってますか!」

長「お前の発想力は素晴らしいよ。俺もそこは評価してる。ただお前は詰めが甘いんだ。」

「主任ならわかってくれるって信じてたのに。」

長「だから俺はお前のことをわかってるから厳しいことも言うんだろ!」

(いやーーー!痺れるぅー!)


(ここで渡辺香里の脳内を再生してみましょう。)

「主任はどうなんですか!僕のこと…どう思ってるんですか!」

長「お前の存在は俺にとって素晴らしいものだよ。だからお前が必要なんだ。」

「主任なら僕のこと…わかってくれると信じてたのにぃ!」

長「待てよ!お前が大事な存在だからここまで俺はお前を求めてるんだろ!」


(はぁ…いい…。この2人…いいわぁ…。)

「だったら一度くらい、突き放す言い方じゃなく、僕の話に協力してくれてもいいじゃないか!あの時だって…。」

長「あの時ってなんだよ。」

「中学の時のことだよ!僕が3年の時に、尊に3対1、9回裏、2アウト満塁の場面のことだよ!」

長「はぁ…またその話か。」

「尊は僕のサインを無視して送りバントを打たせたろ?」

長「そうだな。」

「でもあの時、尊はたまたまピッチャーゴロが目の前に飛んできて、僕に球を戻して3塁走者をアウトで打ち取ったから優勝出来たじゃないか!」

長「そうだな。」

「僕は監督からも指示があったし、君にもフォアボールの指示を出した!次の打者の打率が低いことを解ってたから、確実に打ち取れるための失点を選んだ!なのに君は!」

長「だから毎回言ってるけど、俺はあの時、打者が何がなんでも塁を進めたい気持ちがあることを見抜いてた。お前は俺の相方を3年もやってきた。そこに信じたんだ。」

「でもそんな危険なプレイで、チームの勝敗を決めようとするのは正気の沙汰じゃないよ…。」

長「言わせてもらうが、俺はお前の本質を理解していた。それだけお前を信頼していたから、あの場面では監督の指示ではなく、誰よりもお前の力量を信じた。ただそれだけだ。」

「そうだとしても…。」

長「逆に言えば、お前は俺を信頼していないのか?ってことになるぞ?」

「うぅ…。」

「あーん!もうなにこれ!酒進んじゃう!」


(ここで渡辺香里の脳内を再生してみましょう。)

「そんな…僕の気持ちを利用して、僕をどうこうしようなんて…正気の沙汰じゃないよ…。」

長「俺はお前の気持ちを知ってる。それだけお前を見てきたんだ。誰よりもお前が欲しい。それだけじゃ不満か?」

「そんなこと言われても…。」

長「お前はどうなんだ?俺のことが欲しくないのか?」

「…うぅっ…。ずるいよ…。」


「くぅーっ!おやっさん!赤ワインと子羊のラムチョップ!それと、北京ダックも追加で!」

長「この店そんなもんやってんのかよ(小声。」

「そうやってまた言葉で僕を翻弄(ほんろう)するつもりなんだね!もう君の言葉に騙されないぞ!」

長「達也…。」

(なにこれ!中学生男子二人が汗と泥でくんずほぐれつ…はぁはぁ。)

「高校の時もそうだ!チアガールの萌奈美(もなみ)ちゃんのことを僕は好きだったのに、あの子は君を選んだ!」

長「いや、それは今関係ないだろ。それに俺は萌奈美とは付き合ってないだろ。」

「関係あるよ!尊は僕から色んなものを奪うじゃないか!」

(え?色んなものを…奪う!!!)


(いや!ここで渡辺香里の脳内を再生は危け…うわぁぁ!)

長「俺たちもう…ガキの頃みたいな気持ちじゃいられないんだ。」

「嘘だ!だって尊は萌奈美のことが好きなんじゃないか!」

長「聞けよ!萌奈美は…萌奈美とはなんでもないんだ…。」

「嘘だ!」

長「嘘じゃないさ…だから…ほら、こっちこいよ…。」

「だ、だめだよ…そんなの…あぁ…。」


(むほー!心拍数上昇!このままでは臨界点まであとわずかであります!)

長「何を奪ったって言うんだよ。別に萌奈美が勝手に俺のことを好きになったわけで、俺はお前から奪ってないだろ。」

「それはそうかもしれないけど…でも、大学の時だって君はあまり学校来なくて、僕のノートを借りてたのに、いつもテストでは僕より上だったし!僕が真面目に通ってる間、君はゼミの女の子とデートばかり…。」

長「それはお前のまとめ方に助けられただけだ。」

「そんなはずないよ!現に君の方が成績は上だったじゃないか!」

長「お前のノート以外で勉強してはいない。お前の詰めが甘かったに過ぎないだろ。」

「なんだよ…そうやって。いつも僕を踏み台にしてさ。」

長「…達也。」

(このままじゃかわい子が負けちゃう!頑張れ!かわい子ちゃん!)

「でも僕は…。」

長「なんだ?」

「でも僕は!今度こそこの企画を通してみせる!」

長「いや、だからそれは…。」

「僕が君から学んだことのすべてを、親友である君に見せつけてやる!」

(え?何する気??)

長「俺から学んだこと?そんなのあるんなら俺に言い負かされんなよ…。」

「君から学んだことは、目的のためなら手段を問わない!勝利に貪欲になることだ!」

長「はぁ~?」

「男としてこんなことするのは間違ってるのはわかってる!それでも!」

長「なんだよ、お前のスマホなんて見せら…れ…て…。」

「ふふっ!この画像!なんだかわかるよね!」

長「おまっ、それいつの間に??」

(ちょ…見えない…何見せてるんだろ?)

長「あのぉ…。」

「ん?え?」

長「ちょっと、近いんですけど。」

「え?あ!ご、ご、ごめんなさい!」

長「はぁ…。」

「どうぞ…続けてください…。」

長「ごほん(咳払い)。」

「いいのかい?この画像、先日接待の時にいつもの店に行ったときの写真だよ!キャバクラの愛菜(あいな)ちゃんといちゃいちゃしてる時にこっそり隠し撮りした写真さ!」

長「だ、だから…なんだよ。」

「これを君の婚約者であり、専務の娘の彩乃(あやの)ちゃんにメールで送ると言ったら…?」

長「達也…お前!卑怯だぞ!」

(えぇー!なんて子なの!強引だけど形勢逆転じゃない!あーんもうたまんない!)


(あ、僕がナレーションやってる時点でもうお察しですよね?渡辺香里の脳内を再生してみましょう。)

「君がいけないんじゃないか…僕という人がありながら…。」

長「よせって!別に…そんなことされて…俺は…。」

「もう…僕の思いに従ってよ!僕を受け入れてよ!」

長「達也…いけない子だな…。」


(はうぅぅーん!立場逆転!なにこの入れ替わり!この逆転劇がさらに私を燃え上がらすの!)

「もう彩乃ちゃんへのメール送信ボタンを押すだけだ!僕に協力してよ!尊!」

長「お前こんな方法で手に入れたやり方で本当に満足なのか…?」

「満足かぁ?そんなことどうでもいいよ!ただ僕は評価されたかった!それだけなんだ!」

長「やれるもんならやってみろよ。ただし!公私混同したことで俺はお前を否定する!」

「だからなに?君が悪いんだ!僕を受け入れなかった君がね!」

(メール送信音)

「ふふっ…ふふふ…ふはははは!もうこれで君は僕に逆らえないよ!この後きっと彩乃ちゃんから連絡が来る!その時、僕には君を庇(かば)うすべがある!」

長「…くっ。」

(…え?もしかして…イケメンの負け?)

「どうする!今頃メールを既読しているだろう!」

長「…。」

「答えろ!」

(うわぁー、すごく卑怯な手だけど…でもかわい子ちゃんの大勝利じゃない!どうするイケメン!?)

「答えろよ!僕の企画に協力するって!」

長「ふっ…ふふふ。」

「…な、なんだよ!」

長「ふふふ…ふははははは!」

「え?…気がふれたのか?」

長「ふははははは!はぁ…面白い!」

(着信音)

「彩乃ちゃんからか!出なくていいのか?出られないよな!まだ僕に屈服…。」

(ピッ)

長「もしもし?彩乃?うん、うん…あー。うん。」

(なんか微笑んでるけど…彼女からの怒りの電話じゃないの?)

長「え?それは接待の時で俺もあんま体調良くなかったのか酔いすぎててさ…。うん。」

「お、おい!屈服すれば僕が取り繕ってやるよ!」

長「うん。うん。ばかだなぁ、でも達也からそんな画像が届いたら不安になるよな。それはごめん。」

(え?なにその言い訳…。)

長「うん。うん。彩乃…俺にはお前だけだって。本当だよ。それに今度の休みに、彩乃に言ってなかったけど、彩乃の実家に挨拶に行こうと考えてるんだぜ?うん。うん。」

(もしかして…言いくるめてる?)

長「え?達也?目の前にいるよ。うん。え?そんなこと…恥ずかしいわけなだろ。彩乃、愛してるよ。」

「お、おい…。」

長「少し帰り遅くなるけど、駅前のケーキ、お前好きだろ?帰りに買って帰るから。え?俺もだよ、彩乃。愛してる。あー、うん。じゃあ後でな。(ピッ」

「ちょっ…。」

長「ふぅー。…なぁ、達也。だから言ったろ?お前は詰めが甘いって。」

「そ、そんな…。」

長「お前は俺と彩乃との絆を計算に入れてなかった。ただそれだけだ。」

「な、なんだよ…こんなの…。俺はどうすりゃいいんだよ…。」

長「なぁ、達也。俺はお前の企画力を買ってる。俺にはない発想力が俺には脅威なんだ。」

「…え?」

長「俺はお前を踏み台にしたことはない。むしろ怖いとさえ思ってる。」

「尊が…僕を?」

長「あぁ。お前と切磋琢磨し、お前に負けたくないって気持ちが今の俺を作ってる。」

「ほ、ほんとう?」

(いやーーーーー!ダメよ!かわい子ちゃん!今のイケメンの背中には真っ黒な羽が羽ばたいてるわ!)

長「今回の達也の行動には驚かされた。それと同時に、お前の企画に関する本気度が伝わったよ。」

「そ、それじゃ…。」

長「だがな、今のお前では課長は動かせない。そこで提案だ。この企画を通すために俺を使え。」

「尊を?」

長「あぁ、このプロジェクトリーダーとして俺の名前を使え。そうすれば俺があとは何とかしてやる。」

「た、尊…。ぐすっ…。」

長「おいおい、泣くなよ!俺とお前、一心同体みたいなもんだろ?適材適所として、お前は企画力、俺は今の立場を使えば、この企画は必ず通る。だからまた、俺と頑張ってもらえないか?」

(ちょっと!ちょっと!だめよかわい子ちゃん!この男、今物凄く悪い目つきしてるからぁ!)

「…尊。」

長「うん?」

「僕は尊と友達でよかった。」

長「友達?」

「え?違うの?」

長「俺たちはずっと…親友だろ。今までも、そして…これからも。」

「尊ぅー!」

長「ははは、泣くなよ。相棒。」

「うん!僕たちはずっと親友でずっと相棒だよ!」

(なんか…気が付いたら聞き入ってしまったけど…このイケメン、怖い…。)

長「あぁ。ずっとだ。さてと、そろそろ帰るか。おやっさん、お会計おねが…。」

「あー、いいよ!今日は僕が話があるって呼びつけたんだから。ここは僕が払うよ!」

長「え?あ、そうか?んじゃまぁご馳走様。いつも悪いな。」

(いつも!ちょっと!このかわい子ちゃんバカなの?これはもう完全なる手口じゃない!)

「いいんだよ!早く彩乃ちゃんのところに帰ってあげて!今日はありがとう!」

長「ありがとうっていうのはこっちのセリフだよ。」

(本当にこのイケメン…怖いくらいの人たらしかも…。でも…でもでも!いいわぁ…。)

長「んじゃ、おやっさん!ご馳走様!」

「おやっさん、また来るね!」

「あ、もうこんな時間!おやっさん私もお会計!」


(引き戸を閉める音)

「はぁ…。なんか凄い出来事を目の当たりにしたなぁ。ん?あれ?さっきのイケメンだ。」

長「まったく、人間ってちょろいよなぁー!あーあ、ケーキ屋寄ってくか!」

「やっぱりあの男、危険な匂いがするわ…。」

長「あーすみませーん!えっとね、この一番安いケーキ2個。あと領収書ね?」

「え?あのケーキって彼女のでしょ?一番安いケーキって…。」

長「さーてと、あとは家の近くの花屋でバラ一輪でも買って帰るかなぁ~。ふふ~んふ~ん♪」

「悪い男…でもでも!漫画にしたい!善は急げ!久美に連絡しなきゃ…。あ、もしもし?久美?久しぶりに同人書かない?え?いいネタ出来たのよぉ~。あ!佳代にも声かけておいて!え?もちろん良い感じのBLよぉ~。ふふふ。」

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