決めつけ

2025年03月14日

田中 30代 係長
鈴木 30代 田中と同期 田中とは別の課の係長
吉田 20代 田中の部下


田中
「お疲れさん、かんぱーい!」

吉田
「かんぱーい!」

田中
「飲む音)ぷふぁー!やっぱ仕事の後の酒は染みるなぁー!」

吉田
「ビール最高っすね!」

田中
「どうだ?新人たちは?」

吉田
「まぁ、入ってまだ3か月ですからねぇ。」

田中
「こいつ出来るな!って新人いないのか?」

吉田
「一人、いるにはいたんですけど…。」

田中
「ほおほお、どんなの?」

吉田
「最初の内は誰より早く来てみんなのデスク綺麗にしてたんですよ。」

田中
「え?お前より早く?」

吉田
「はい、そうなんですよ。」

田中
「9時からなのに6時に来てるお前より早いの?」

吉田
「そうなんですよ。同じくらいか、たまに僕より早いです。」

田中
「お前さ、早起きして、やることないからって早く出社すんの止めろよぉ。」

吉田
「やることないって言うか会社まで歩いて3分ですから。」

田中
「まぁ、志望動機が家から近いからだったもんな。」

吉田
「それくらいしか魅力なかったんですよ。」

田中
「凄いよな、お前。それを採用した会社も凄いけど。」

吉田
「あ、サラダ来ましたよ。取り分けますね?」

田中
「おう、サンキュー。で、さっきの話だけど早く出社してたの誰?」

吉田
「宗倉(むねくら)君ですよ。」

田中
「ふーん、でも今は8時半頃に来てるよな?」

吉田
「そうなんですよ。だから点数稼ぎしたいのかなって思ったんです。」

田中
「それは決めつけだよ。お前なんて早く来ても掃除なんてしてないじゃん。」

吉田
「だって早起きしてもやることないから会社行ってるんですもん。」

田中
「お前ってよくわかんないメンタルしてるよな。」

吉田
「早く行けば朝礼まで居眠りしてても遅刻しないじゃないですか。」

田中
「まぁな。でも宗倉は仕事のミスも少ないし真面目な子じゃないか。」

吉田
「そうなんですよね。あ、焼き鳥来ましたよ。」

田中
「お、美味そうだな。」

吉田
「後で鈴木係長も来るんですよね?取り分けますね。」

田中
「取り分けるってお前、焼き鳥を串から外すなよ!」

吉田
「え?なんでですか?」

田中
「なんでって美味さ半減するだろ!」

吉田
「そんな変わらないですよ!串から外したからって味が変わるわけでもないですし、こっちの方が食べやすいじゃないですか!」

田中
「お前そういう決めつけよくないぞ?焼き鳥ってのは串から外すまで歯で挟んで引き抜いてから食べるだろ?」

吉田
「そうですね。」

田中
「その間に風味を味わうから取り外すより美味いんだよ!」

吉田
「じゃあ、一回口に入れてからしばらく待てばいいじゃないですか!」

田中
「それはちょっと気持ち悪い!」

鈴木
「いやー悪ぃ!遅くなった!ってなにこの焼き鳥の残骸。」

吉田
「あ、鈴木係長!お疲れ様です!」

田中
「鈴木!お前さぁ、来て早々俺らよりも先にメシ見てんなよ。てかそれより聞いて?吉田がさ、焼き鳥を串から外しちゃったんだよ!」

吉田
「鈴木さんが来る前に焼き鳥が運ばれたから取り分けてたんじゃないですか!」

田中
「だから、鈴木も串ごと食べる派だったらどうすんだよ!そういう決めつけ良くないぞ?」

鈴木
「今まで焼き鳥に派閥なんてあるのは知らなかったけど、吉田だって悪気はないし、田中の言い分もわかる。でも仕事の後だし細かいことは置いておこうぜ。」

田中
「まぁ、これが最後の焼き鳥って訳じゃないからいいけどさ。」

鈴木
「俺なんてみんなの個性を大事にするタイプだし、これが吉田の個性なんだもんな?」

吉田
「個性とかそこまで壮大なスケールでやってないですけど。」

田中
「まあ、吉田の気遣いってことにするわ。それで、なんで残業したの?」

鈴木
「え?あぁ、部下の発注ミスのフォローしてたんだよ。」

吉田
「え?そうなんですか?」

田中
「お前の受け持ちって確か饅頭の仕入れだったよな?そんなに饅頭売れないけど。」

鈴木
「そうなんだよ、あまり売れないのに100個の注文のところ1万個も注文しててさ。先方から「こんなに注文してくれるんですか?」って問い合わせが来て発覚したんだよ。」

田中
「で?結局どうなったの?」

鈴木
「原因は「00」のキーを二回押したことだったんだけど、もう注文しちゃってるし、うちの会社のパソコンでは注文書の修正が難しくて、結局来週に饅頭激安販売を企画することになったよ。」

田中
「ただでさえあまり売れないのに、どうするの?」

鈴木
「ショートケーキ2個お買い上げの方に饅頭半額でセールやることにしたんだよ。斬新だろ?」

田中
「斬新すぎて言葉もでねぇーわ。」

鈴木
「部下のミスは俺のミス。後は課長に俺から謝ればいいだけだしな。はははっ!」

吉田
「鈴木係長って凄いですね!」

田中
「へぇー凄いなお前。」

鈴木
「そんな憧れるなよ!上司として当然のことをしたまでだよ!」

吉田
「いやいやいや!憧れますって!ね?田中係長?」

田中
「憧れるって…。第一、一回キャンセルしてまた再発注すればいいだけだろ?」

鈴木
「いや、ま、まぁそうなんだけどさ、長年の付き合いの会社だから断るのも悪いだろ?」

田中
「どうせテンパって断りきれなかっただけだろ?」

吉田
「それは決めつけですよ!鈴木係長は部下のミスを被ったんですよ?凄いじゃないですか?」

鈴木
「ま、まぁこの話はこの辺にしておこう。な?あ、唐揚げ頼んでくれてる?」

田中
「鶏の唐揚げなら頼んであるぞ。」

鈴木
「お!ちょうど来た!俺唐揚げ大好きなんだよねぇ。」

田中
「揚げたての唐揚げってほんと美味いよな!」

吉田
「田中さん!なにしてるんですか?」

田中
「は?レモンかけてるんだけど?」

吉田
「信じられない。普通レモンかけます?」

田中
「お前ねぇ、レモンを掛けることで脂っこさを打ち消し爽やかな味わいになるんだよ!」

吉田
「それは決めつけですよ!僕は唐揚げにはマヨネーズなんです!」

鈴木
「まぁまぁ、二人の言い分はわかったから…な?」

吉田
「鈴木係長!ここはハッキリさせましょうよ!」

田中
「吉田!お前は折れろよ!さっき焼き鳥の件は俺が折れたろ!」

吉田
「あ!パワハラっすか。」

田中
「なんでこれがパワハラなんだよ!」

鈴木
「あーもう!うるさい!うるさいよお前たち!」

田中
「…。」

吉田
「…。」

鈴木
「俺は唐揚げは塩派なんだよ!なんだよもぉー、レモンとかマヨネーズとか!邪道だよ!」

田中
「鈴木…ごめんな?俺、レモンかけるもんだって決めつけてたよ。」

鈴木
「まぁ、いいけどさ。それぞれ食の好みってあるしな。」

吉田
「すみませんでした。」

田中
「今日はもう遅いし、これ飲んだら帰るか。」

鈴木
「あ、もうこんな時間か。会計済ますか。」

吉田
「今日はご馳走様でした。」

田中
「一人いくら?」

鈴木
「2500円だな。」

田中
「はい、細かいのないから3000円で。」

鈴木
「吉田、2500円。」

吉田
「え?」

鈴木
「割り勘だよ。」

吉田
「上司なのに金取るんですか?」

田中
「それは決めつけだよ!」


おしまい








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