第九話 「相棒」
塩川 幸太郎
浜屋 純
ジュラ
谷越 真一(たにごえ しんいち):灰川記念総合病院の医者
謎の女(伽陀 深ヶ理)
山村 小夜子
純(幸太郎!幸太郎しっかりしろ!幸太郎!)
塩(なんだ…これ…身体が…動かねぇ…。息が苦しい…。)
赤「コロ…ス…。」
(激しいブレーキ音、そして衝撃音)
純(幸太郎!幸太郎!死ぬな!幸太郎!誰か!誰か幸太郎を!)
塩(バ…バイク…乗らな…きゃ…。赤い…ぼう…。)
ジ「…やあ、また会ったね…。塩川君。」
第九話 「相棒」
ナ「6月28日 曇り 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
都市伝説と化していた「赤い亡霊」。どこから現れ何を目的としているのか。そして今、赤い亡霊は再び動き出す。」
ジ「…うーん。これは…。うん。キョウ君の時とは状況が異なりますが…やってみますか。」
ナ「ジュラは塩川 幸太郎の額に指を当て、指先から青白い光を放ち塩川 幸太郎の脳へ刺激を与えた。」
塩「…うっ…ううっ…ううぅぅぅぅ…ぐっ…ぐあぁぁぁぁぁあ!!」
ジ「…うーん。足が折れてるけど、私の車までは歩けそうだね。見た感じでは相当なダメージですが外部への出血量はそこまで酷くないようですね。ただし、内臓へのダメージは一刻を争うほどでしょう。」
塩「…バ…イク…あか…い…ぼ…」
ナ「ジュラは塩川 幸太郎を助手席に乗せ灰川記念総合病院へ向かった。幸い、塩川 幸太郎を跳ねた車の後ろを走っていたため、事故渋滞の影響を受けることなく、病院へ移動することが出来た。」
塩「あ…か…い…。」
ジ(今は異形力が働いているから何とか命をつなぎ留められている…だとすると右京君で試した鎮静剤を投与してしまうと塩川君は亡くなってしまう可能性がある…。)
塩「がはっ…ぐふっ…がはっがはっ…。」
ジ「いいですか?塩川君。今、君の命を繋いでいるのはβ―エンドルフィン や大量のアドレナリンやドーパミン…まぁ、要するに脳が一時的に活性化されているからです。もし、その昂りが落ち着いてしまうと君は死ぬかもしれません。が、これ以上動くと、身体のダメージから死を招く恐れがあります。」
塩「はぁ…はぁ…はぁ…。」
ジ「幸い、あと少しで灰川記念総合病院です。外部への出血が少ないとしても臓器からの出血は致死寸前と言えるでしょう。持ちこたえてくださいね?」
塩「はぁ…はぁ…。」
ジ「…じゃないと…赤い亡霊を追えませんよ?」
ナ「ジュラはスピードを上げながら灰川記念総合病院へ急いだ。」
ジ「白川です。たまたま居合わせた場所で事故に遭いまして、あ、いや私ではありません。メディカル機器のリース会社の社員の方です。非常に危険な状態ですので、至急、手の空いているドクターに声をかけてください。見た目ですと、左肩、左大腿部…右手首からその上部にかけての骨折。それと…恐らく肝臓なども損傷している可能性があります。はい…まもなく病院へ到着するのでストレッチャーの用意をしておいてください。」
ナ「ジュラは病院への報告が済むと病院の敷地内へ侵入し、裏手となる緊急搬送の入り口へと向かった。既にストレッチャーを用意した看護師と、一人のドクターが待ち構えていた。」
谷「白石先生の車から患者をストレッチャーに移動させて!頭部のダメージはなさそうだが、肝臓だけじゃなくあちこち損傷している可能性がある!ゆっくり移動させるように!それと血圧図って!至急心電図も用意して!」
ナ「谷越 真一はこの病院のベテラン医師の一人だった。その場にいた看護師たちに指示を出しながら救急治療室へと向かっていく。」
谷「白石先生、彼はどんな事故に遭いましたか?」
ジ「バイクの単独事故を起こした後に、乗用車に跳ねられ車両の下へ巻き込まれていきました。」
谷「…この状態でよく生きていたな…奇跡的という言葉は好きではないが、それに値する状態だ。しかも若干の意識もある…。とにかく全身のレントゲンとエコーを撮って、緊急オペをしないと彼は助からないでしょう。」
ジ「そうですね。酷い事故でしたし、私が駆け付けた時には意識があったので、警察への通報や救急車の手配をせず直接連れてきました。谷越先生、あとはお願いします。私はこれから警察へ連絡をします。」
谷「わかりました。あー、君!外科の鈴木先生がまだ院内にいたら至急呼んできてくれ!私一人ではかなり厳しい!」
ナ「谷越 真一が看護師たちへ再び指示を出している間に、ジュラはその場を後にし警察へ連絡をした。」
ジ「すみません。今しがた、国道にて人身事故がありまして、その件で交通課へ繋いでもらえますか?…あ、わたくし、灰川記念総合病院で心療内科の医師をしております白石と申します。バイクによる交通事故が起きたという通報はありましたか?あ、その件です。バイクに乗った男性を私が勤める病院へ搬送しました。男性の名前は塩川 幸太郎、21歳。私の勤務先との取引先に勤務している青年です。現在、容体としては…」
ナ「ジュラは警察へ事故の様子、塩川 幸太郎の状態などの詳細を説明した。医師としての矜持(きょうじ)でもあるが、赤い亡霊の一件もあり、詮索されるようなことだけは避けたかったという方が正しいかった。その頃、塩川 幸太郎は緊急治療室にて酸素マスクを装着したまま手術台で横たわっていた。医師たちは手術の段取りについて打ち合わせをしていた。」
純(…幸太郎…すまない。俺の声が届いていれば…。)
ナ「浜屋 純は塩川 幸太郎の姿を見ながら落ち着かない様子だった。」
純(でも…俺はお前を信じる。あの赤い亡霊をぶっ潰すまでくたばんなよ!今の俺に出来ることは赤い亡霊の正体を探って、あの女に会い、お前に伝えることだ!それまで…待ってろよ?)
ナ「浜屋 純は病室を抜け出し、先ずは事故現場へ向かった。闇雲に赤い亡霊を探すより、何か手がかりがないかを探すためだった。事故現場では既に警察が塩川 幸太郎を跳ねた運転手に事故の様子を聴取していた。」
純(…何か赤い亡霊の手がかりになるものはないか探しに来たけど…やっぱ素人じゃわかんねぇーな…。)
謎「ふふふ…そう…あの子も…。」
純(なんだ…?俺を…見てる?)
ナ「阿久津 キョウの事件現場、ジュラと鏑矢 右京が会話していた場所に出現したベビーカーを押す日傘の女が浜屋 純を見つめていた。」
謎「まだ…出会うには早かったかしら…。じゃあ、またね…。」
純「なぁ、あんた!俺が見えてるのか?ちょっと待ってくれ!」
ナ「その女は人混みの中へ消えて行った。その時。」
(排気音)
純(…あぁっ!?この音は…!?)
(排気音)
純(てめぇ!赤い亡霊か!)
ナ「赤い亡霊は事故現場へと引き返してきた。ただその場でアクセルを吹かしたまま。」
純(待てやゴルァあああああ!!幸太郎の仇取ってやんよ!!)
(排気音)
純(おい!逃げんな!待ちやがれ!)
ナ「赤い亡霊は再び事故現場を後にし走り去った。」
純(ふざけんな!てめぇ!…なっ!なんだこりゃ!!)
ナ「浜屋 純は赤い亡霊を追おうとしたが、何かに引っ張られたように後ろへ仰け反った。」
純(お、おい!なんだこれ!なんで前に進めねぇーんだよ!待てよ!亡霊!くそっがぁ!)
ナ「浜屋 純を置き去りに、赤い亡霊のテールランプは闇へと消え、排気音だけが鳴り響く。」
純(待てぇ!おい!待てよぉ!!)
山「お前は先ずは人の事より自分の事に意識しろ。」
純(あぁーん?誰だ!うるせぇーな!今俺は気が立ってんだよ!…ってあぁ?)
ナ「赤い亡霊を追うために事故現場から遠ざかった浜屋 純は周りを見渡すが、野次馬は事故現場に集まっており、浜屋 純の視界には人の気配はなかった。」
純(…なんだ?っつうかなんでこっから先に行けねぇんだよ!あー頭混乱してきた!ふざけやがって!)
山「お前はまで自分の存在やこの土地の事をわかっていない。」
純(どういうことだ!?俺の存在?幽霊じゃないのか?土地?なんのことだ?)
山「幽霊でありそうではないとも言える。」
純「ひょっとして俺の声が聞こえるのか…?」
山「聞こえているから話しかけてるんだ。」
純「なぁ、あんたどこにいんだよ!教えてくれ!俺は一体なんなんだ?」
山「昨日も話したが、もっと力をつけてから私の前に現れろ。」
純「あぁ?現れるもなにもあんたが俺に話しかけてきたんだろうが!」
山「赤い亡霊を追っていただけだ。お前が目当てではない。」
純「どういうことだ?」
山「…はぁ。一つだけ教えてやる。」
純「あぁ?なんだよ!」
山「磁場だ。」
純「磁場?」
山「それじゃ。」
純「え?おい!それだけかよ!」
山「一つだけと言ったろ?」
純「おい!磁場ってなんだよ!おい!おい!!!」
ナ「山村 小夜子は返事をしないままその場を去った。」
純「おい!ふざけんなよ!磁場ってなんなんだ!おい!」
ナ「浜屋 純の言葉は届かず虚しく空に消えていった。」
谷「…ふう。」
ジ「お疲れ様。どうですか?彼は。」
谷「一先ず、手術は終わったが、彼は一体なんなんだ?」
ジ「と、言うと?」
谷「最初は内臓の傷口を縫合中に癒着のように張り付いていたのかと思ったが、縫合したところから次々と回復というか、再生しているように見えたんだ。」
ジ「ほぉ…。」
谷「あんなのは見たことがない…。再生能力なんてものじゃ説明できないぞ?」
ジ「…なんなんですかね…。」
谷「とにかく今は疲れた。少し休むよ。彼のアフターケアは頼むよ。白石先生。」
ジ「もちろんです。こんな朝方までお疲れさまでした。」
ナ「谷越 真一は肩に手を当て、首を回しながら仮眠室へと向かった。」
ジ(異形力の再生能力とは…それほどまでに高いものなのか…。それはとても安心して計画を進められますね…。ふふふ。)
続く
次回 「中心」