第二話 「目覚め」

2024年03月27日

登場人物

阿久津 キョウ
ジュラ(白石 朧)

秋島 優里香 
ナレーション


秋「キョォォーーーーーーーーーっ!!」

阿(…ゆ…り……)

血だまりの部屋。薄れゆく意識。絶望と解放。そして…。

ジ「今この現状を覆せるであろう力…欲しいかい?異形の力…デフォルメティーフォース を…。 」

現れた謎の声。

第二話 「異形力(デフォルメティーフォース)」


ナ「6月15日 曇 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。20年が経過しても尚語り継がれているこの殺人事件は今も多くのインフルエンサー達が考察など行うほど、注目が止まない事件であった。」

阿「…ん…はぁ…。…あれ…?ここ…。」

ナ「だが、今この灰川町では未解決事件を上回る出来事に見舞われていた。阿久津 キョウ。彼もまたその当事者の一人である。」

ジ「…あぁ…気が付いたかい?まだそのまま安静にしているといいよ。」

阿「あ、あの…ここは…?」

ジ「ん?あー、ここは私が勤務する病院さ。だから安心して体を休めるといいよ。」

阿(白石…(シライシ)なんて読むんだ?)

ジ「今は阿久津 キョウ君かな?初めまして。私の名前は白石 朧(シライシ オボロ)。ここの心療内科を担当している医師だよ。」

阿「は、はじめま…して?」

ジ「そしてここは灰川記念総合病院。つまり君は今、この病院の病室で入院中ということだ。」

阿「入院…?なんで…うっ…頭が…。」

ジ「まだ色々考えないほうが…」

秋(キョーーーーーーーーーーー!)

阿「はっ!しら…いし先生?優里香は!秋島 優里香は!」

ジ「うーん、まだ記憶が目覚めていないようだ。」

秋(…あぁ…がぁああ…あがぁっ…。ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!(破裂音))

阿「はっ!優里香ぁぁぁあ!!!」

ジ「落ち着いて。キョウ君。」

阿「優里香!優里香!優里香!優里香!優里香ぁぁぁあ!!!」

ジ「困ったね。そんなに暴れたら点滴が抜けてしまうよ。」

阿「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。」

ジ「少し落ち着くように注射を打つから…じっとしててね…。」

ナ「細く白い指先に沿うように注射器を握り、阿久津 キョウの腕を掴み、そっと血管に針を差し込んだ。ゆっくりと注射器からの薬液が阿久津 キョウの血管から流し込まれていく。」

ジ「良い子だ。しばらくしたら落ち着くから、それまで大人しくしておきなさい。」

阿「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。先生…なにを…。」

ジ「ん?これかい?鎮静剤だよ。心配することはない。」

阿「はぁ…はぁ…はぁ…。」

ジ「おや?もう効いてきたかな?」

阿「…先生…。」

ジ「うーん。やはり、脳をいじるとこんなにも効果があるのか…。」

阿「…あのぉ…先生?」

ジ「ん?あぁ、ごめん。なんだい?」

阿「僕はなんでここに…優里香は…?」

ジ「僕が傍に居るからゆっくり目を閉じて…あの日のことを思い出してごらん…。」

阿「…あの日…。」

男(たまんねぇーなぁ!なぁ?女ぁ~?俺が憎いか?お前を殺した後にお前の大好きなこのガキ殺すからよぉ~。ひひひ…。)

阿「…ひぃ…。」

ジ「…大丈夫。落ち着いて…。」

男(ったくよぉ!邪魔くせーんだよ!死ねよブス!)

阿「…はぁはぁはぁはぁ…。」

ジ「思い出してきたようだね…。」

秋(…あぁ…がぁああ…あがぁっ…。ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!) 

阿「…優里香!優里香!優里香!優里香!優里香!優里香ぁぁぁぁあ!」

ジ「…辛かったね。可哀想に…。」

阿「あぁ…あああ…優里香…ごめん…優里香…優里香…」

ジ「とても残念だったね。」

阿「うぅっ…。優里香…。ごめん。本当にごめん…。いつも僕を気遣ってくれたのに…。最後に会話したとき…僕は優里香を突き放してしまった…。」

ジ「…それは君にとってはとても悔やまれるね…。」

阿「僕は…僕は…なんで生きてるんだろう…あの時、僕がアイツに殺されていれば…。」

ジ「君は優しいんだね…。」

阿「優しくなんて…ないです。ただ僕は…もうこんな人生を終わらせたかっただけなんだ…。だから僕の代わりに優里香が殺されるなんて…。」

ジ「そうか…君は死にたかったのか。」

阿「なのに!優里香が…優里香は…看護師になることが夢だった…。僕の怪我を治すんだって…。こんな僕のために…僕のせいで優里香は…!!あぁぁぁぁぁあ!!!」

ジ「キョウ君。」

阿「僕が!僕が!僕が死ねば…僕なんかより優里香の方が…生きる価値があったのに…。なんで僕を助けに来たんだ…。」

ジ「君には生きる意味があったんだ。」

阿「…!?なにを…なにを言ってんだ…。僕にそんな価値はない!何も知らないくせに…軽はずみなことを…。」

ジ「うん。僕は君のことは何も知らない。」

阿「だったら!」

ジ「だけど、優里香さん…だったかな?その子は君に生きてほしかった。」

阿「…え…?」

ジ「優里香さんは純粋に君に生きてもらいたかったんだ、」

阿「…な、なんで…。」

ジ「さぁ、それは私にもわからない。だけど優里香さんの行動が今の君を生かしているんだ。」

阿「…。」

ジ「だから君は…キョウ君は優里香さんの思いと気持ちを抱いて、優里香さんの分まで君は生きなくてはならない。」

阿「そ、そんな…。」

ジ「大丈夫。私は君の傍で力になるよ。これでも医者だからね。」

阿「え…。」

ジ「心配しなくて大丈夫。私はここで心療内科を行っている。君の精神面について私がフォローしよう。」

阿「なんで…そんな僕に…。」

ジ「君の姿を見ていると思い出すんだ…。」

阿「え…?」

ジ「私も兄弟がいたんだが、弟がいじめにあっていて…。」

阿「…。」

ジ「自殺したんだ。」

阿「…!?」

ジ「だから君を見ていると弟が重なるんだ。ちょうど君くらいの年にね。」

阿「…あ…あの…。」

ジ「君は愛情に恵まれたことがないんだね。」

阿「…。」

ジ「君を重ねて見るのは申し訳ないが、他人事に思えない。」

阿「…先生。」

ジ「私は君の味方だよ。だから安心してほしい。」

阿「…はい。」

ジ「今はゆっくり休みなさい。」

阿「あ、あの…。」

ジ「なんだい?」

阿「実は…。ゆ…。優里香の最後を見た後のことをなにも覚えてないんです…。」

ジ「…。」

阿「僕は一体どうやってここに運ばれたんですか?」

ジ「…私がたまたま現場の近くにいたんだよ。」

阿「…はい。」

ジ「そして君の家の周りに人だかりが出来ていて、そこへ一人の少女が飛び込んでいったんだ。」

阿「…え?」

ジ「私は何が起きているかわからなかったから、しばらく傍観していたんだ。」

阿「…。」

ジ「そして少女の悲鳴が聞こえて、ただ事ではないことに気が付いて私も部屋に…。」

阿「…そうなんですね。」

ジ「優里香さんについては私にも非がある。君だけじゃない。医者である私もあの子を助けられなかった。」

阿「あ、いや…。」

ジ「だから私たちはあの子の思いのためにも未来を進まなくてはならないんだ。」

阿「先生…。そうだったんですね。ありがとうございます。」

ジ「礼には及ばないよ。」

阿「あの…そうすると先生が僕を助けてくれたんですか?」

ジ「…うーん。実際には私が直接君を助けたわけではない。」

阿「え…?え、じゃあ誰が…?」

ジ「これを君に言うべきか、正直君が目覚めるまで悩んでいた。」

阿「ど、どういうことですか…。」

ジ「君は時折、記憶を無くすことはなかったかい?」

阿「…。」

ジ「目が覚めた時に寝る前と違う服を着ていたり、部屋になかった物が増えていたりなどがなかったかい?」

阿「…言われてみれば。」

ジ「何とも言えないが、君は極限に達すると意識を失う癖があるようだ。」

阿「…そう…かもしれません。それは病気なんですか?」

ジ「色々検査などを行ってみないとわからないが、時間をかけてゆっくりカウンセリングをしていこう。」

阿「はい…。」

ジ「さて、本題だが、私は君の脳へ直接刺激を与えただけなんだ。」」

阿「どういう…?」

ジ「人は死の間際に神経伝達物質の一種であるβ―エンドルフィンというホルモンを分泌する。」

阿「…。」

ジ「そのβ―エンドルフィンというのは脳内麻薬の一種だが、痛みを忘れや気分が高まる。」

阿「…。」

ジ「その後、呼吸が完全に止まり、呼吸器や口の動作も止まる。その状態であれば死に至るわけだが、その状態で私は君の脳へ…電気にも似た刺激によって100%活性化させた。」

阿「脳を…?」

ジ「そう。活性化させる際に酸素やグルコース…簡単に言えばブドウ糖なんだが、その消費が急増し、急性症状が生じる可能性があり、そこに賭けたのさ。
体の 感覚は、認知能力の超過にて周りがスローモーションに見えたり、色々な情報の処理能力が上がる。」

阿「…。」

ジ「 しかし、前述した通り既に死へ向かっている脳へ刺激を与えているためが暴走する可能性もある。」

阿「…え。」

ジ「結果として、その暴走により全身の筋肉や骨を含め内臓などにも影響を及ぼす。キョウ君、君は死を迎える寸前の刹那に爆発的な力を発揮し、あの男を殺害しその場を切り抜けた。」

阿「…さつ…がい?」

ジ「そう。君はあの男を殺害したんだ。」

阿「え…僕が…?」

ジ「君は覚えていないのだろう。」

阿「ちょ…っと。待ってください…。え?僕があの男を…?」

ジ「きっと私が与えた力が影響しているのか、その時のことを覚えていないようだね。」

阿「じゃ、じゃあ…僕は…人殺し…なんですか?」

ジ「人?うーん。少し違うな。あれはもう人ではなかった。」

阿「…人じゃ…ない…?何を…?」

ジ「あれは異形と呼ばれる存在だった。」

阿「異形…?先生、なにを言ってるのか僕には全くわからないです。」

ジ「ならば思い出させてあげよう。目を閉じてごらん?」

阿「えっ…。」

ナ「白石はそっとキョウの目を右手で塞ぎ、左手をキョウの額に添えた。」

阿(な…なんだ…?また…あの記憶?あの男だ…いやだ…いやだ!怖い!助けて!)

男(ぐぅぅぅぅ…お前も…女のもとに送ってやるよ!!)

阿(な、なんだよ!なんだこの顔!人間…?じゃない!助けて!!)

ジ(今この現状を覆せるであろう力…)

阿「はっ!!」

ジ(欲しいかい?異形の力…デフォルメティーフォース を…。)

阿「い、今のは…先生?」  

ジ「思い出したかい?」

阿「あ、あれは一体…?」

ジ「あの男は異形となった人間のなれの果てと言ったところだね。」

阿「その異形というのはなんなんですか!」

ジ「わたしにもよくわからない。だが、一つ言えることがある。」

阿「…なんですか?」

ジ「驚かないで聞いてほしい…と言っても無理だろうが私も異形の者なのだよ。」

続く

次回 「異形力」

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