第八話 「つながり」
阿久津 キョウ
鏑矢 右京
塩川 幸太郎
浜屋 純
ジュラ
純(お、おい…幸太郎…!あいつの向かった先って…!?)
塩「おい…そっちは…!くそっ!唯ぃぃぃぃい!」
ナ「突然、塩川 幸太郎の前に現れた赤い亡霊。」
純(頼む!誰か!誰か唯を…!)
山「あなた…そこに立ってると危ないわよ?」
唯「…え?」
ナ「謎の女、山村 小夜子。灰川町で起きた不可解な事件の裏に起きた亡霊騒動。」
山「私の姿も認識できんとはな。もっと力をつけてから現れろ。話はそれからだ。」
純(目覚めたばかりって…?どういうことなんだ?)
塩「尽さん。すみません。唯が危険な目にあいました。俺はあの日以来、単車を降りました。だけど、ちとやることが出来たんで、預けてた俺の単車…乗っていきます!」
第八話 「繋がり」
ナ「6月28日 曇り 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
また、ある噂が都市伝説と化している。「赤い亡霊」。無差別に人を襲い死に至らしめる。そんな不気味な存在が学生を中心に囁かれていた。」
塩(一晩中、市内を走り回ったが…結局、あの赤い野郎は見つからなかったな。尽さん…何も話さなかったけど、ずっと俺の単車を整備しててくれたんだな。とは言え久しぶりに乗った上に数時間も雨の中走り回ったからか少し筋肉痛だわ…。)
ナ「塩川 幸太郎は今年の春から社会人として医療用機器のリース会社へ勤務していた。特に卸先は灰川記念総合病院だった。昨晩遅くまでバイクで走り回ったツケが寝不足として帰ってきた。朝一番で届けてほしいと要望のあった最新機種を搬入するため灰川記念総合病院を訪れていた。」
ジ「やぁ。…おや?今日は随分と調子悪そうですね?」
塩「…あぁ?…あ、白川先生。いつもお世話になっております。」
ジ「うん、やっと社会人らしい挨拶ができるようになったみたいです。」
塩「…つっても、やっぱ堅苦しい話し方は苦手っす。」
ジ「君らしいですね。声にも張りがないですがどうしましたか?」
塩「ただの寝不足っす。」
ジ「まだ若いからいって無理はしないように。ところで、今日は機器の搬入ですか?」
塩「あぁ、新しい小型の心電図を納品にきました。」
ジ「そうですか。もう手続きはわかりますか?」
塩「はい、今から事務所へ行ってきます。」
ジ「わかりました。では、私は予約の患者さんがいますのでここで。」
塩「はい。じゃ、失礼します!」
ナ「塩川 幸太郎は院内の事務所へ納入手続きを行うために台車を押して歩いていた。事務所へ向かう途中にコンビニがあり、院内の患者だけではなく、見舞いの来客者なども利用していた。」
鏑「よぉ、阿久津。何か飲むか?」
阿「あ、えっと…。じゃあ、僕は午前の緑茶で…。」
鏑「お前渋いの飲むな。」
ナ「先日の怪我が回復し、阿久津 キョウ と鏑矢 右京は退院間際だった。そのためリハビリがてらに敷地内の庭で過ごすのを許可されていた。」
塩(…あの二人…?兄弟にしちゃあ似てないな…。ま、いっか。早く納入してさっさと会社戻るか。仮眠したら今夜も赤い亡霊探しだ。)
ナ「塩川 幸太郎は事務所へ向かいリース品の納入の手続きを行い、先ほど阿久津 キョウと鏑矢 右京が買い物をしていたコンビニに寄った。」
塩(はぁ、搬入終了。やっぱ寝不足キッツいなぁ…。エナジードリンクでも飲むか。)
純(…こいつ相変わらずだな。後先考えずに突っ込んで行きやがる…。)
塩「すみませーん。えーっと…あ、78番…それ。あ?あぁ、1つでいいっす。」
純(たばこもマルボロかよ…。懐かしいな…。)
塩(あぁー眠ぃー。一服してから会社戻ろ…。)
純(俺が死んでから4年か…。なんで今になって俺は幽霊となって意識が戻ったんだろうか…。)
ナ「塩川 幸太郎はネクタイを緩めながら庭へと足を運んだ。庭は中央に小さな池と噴水があり、その池を囲うようにベンチが点在している。更にそのベンチを囲うように樹木が生えている。少し洒落た公園のような造りになっていて、患者や見舞いの来客者が利用していた。」
塩(雨じゃないにしても曇りじゃ気分が晴れねぇーなぁー。)
鏑「阿久津よぉ、お前、これからどうするんだ?」
阿「…。」
鏑「そのぉ…なんだ。言いにくいんだけどよ…。」
阿「…はい。」
鏑「幼馴染…優里香ちゃんだっけか。両親は…。」
阿「わかりません…。連絡もしてないです。」
鏑「そっか…。悪いな。変なこと聞いて。」
阿「…いえ。鏑矢さんはお仕事は大丈夫なんですか?」
鏑「ガキが大人の心配してんじゃねぇーよ。」
阿「あっ…立ち入ったことを…。すみません。」
鏑「冗談だよ。まぁ、俺はこう見えても社長だから。」
阿「え!?そうなんですか??てっきり…。」
鏑「あ?てっきりなんだ?」
阿「…あ、いえ…。」
鏑「言ってみろ。」
阿「あ、あの…無職かなぁ…と…。」
ナ「阿久津 キョウの一言に鏑矢 右京は飲みかけのコーヒーを喉に詰まらせた。」
鏑「ぶふぁ…ごほごほっ…」
阿「だ、大丈夫ですか??」
塩(…あーだるっ…。ん?あの二人ってさっきのか…。)
鏑「阿久津よぉ…、流石に無職はねぇーだろ?」
阿「す、すみません…。」
鏑「まぁ、さっきの不躾な質問したこととチャラにしとくわ。」
塩(おっさんの方は…ありゃ過去になんかあるってツラだな。あんちゃんの方は…いじめられっ子ってとこか…。)
阿「あの…どんな仕事してるんですか?」
鏑「その辺に転がってるIT企業だ。優秀な部下に救われてっから俺はこうしてゆっくり休養が取れてるって訳だ。」
塩(…純。お前が生きてたら…。俺は今頃どうしてたかな…。)
ナ「塩川 幸太郎は雨雲を見つめるように空を見上げ、咥えたばこを吹かしていた。」
純(…俺はどうやって死んだんだろう…。あの女ならそれがわかるのかな…。)
鏑「なぁ、阿久津。お前もう学校に戻れないだろ?」
阿「…。」
鏑「なんでか知んねーけど、お前見てっと…なんかほっとけなくてな。」
阿「…え?」
鏑「お前、俺のとこでバイトしながら勉強しねーか?」
阿「…え?なんでそんなこと…僕に?」
鏑「あの家に戻れねーだろ?多分だけどよ…涼子が生きてたらお前を見てそういうかなってな…。」
阿「…いいんですか?」
鏑「まぁ、それだけじゃねぇけどな。お前も俺もまだ異形の何かを知らねぇ。」
塩(…異形…?)
ナ「空を見つめていた塩川 幸太郎の耳に入った「異形」の言葉に反応した。」
鏑「だから俺たちは一緒に行動をした方が…」
塩「おい、おっさん!」
ナ「塩川 幸太郎は反射的に立ち上がり、鏑矢 右京の前に駆け寄った。」
鏑「あぁ?おっさん?なんだクソガキ。」
塩「あ!すんません!ちと謝んのは後にさせてくれ!」
鏑「なんだおめぇ…。」
塩「今あんた異形って言ってたけど、その異形ってなんだ?全身が真っ赤の奴か?」
鏑「なっ…お前聞いてたのか?」
塩「いいから教えてくれ!あんたの言う異形って全身が真っ赤の奴か?」
鏑「…いや、俺たちが知る異形は真っ赤ではなかった。」
塩「じゃ…じゃああんた達が話してた異形ってなんだ??」
鏑「俺たちにもよくわからねぇんだ。ただ、人間の姿をしたバケモンだってことしかわからねぇ。」
塩「…そっか…。」
鏑「んで?俺たちの話に食いついたのはなんでだ?」
塩(赤い亡霊とは違うのがいるのか…。)
鏑「…おい、聞いてんのか?」
塩「…え?あ、すみません。」
鏑「お前が会った異形の奴はどんな奴だった?」
塩「俺が会ったのはフルフェイスもツナギもバイクも真っ赤なヤツで…。」
鏑「どこで会った?」
塩「灰川街道を歩いていたらいきなりバイクで突っ込んできたんす。」
鏑「そいつはどうした?」
塩「走り去って行きました。危うく俺は殺されかけたんすけど、ダチの妹も襲われて、この後また探しに行く予定です。」
鏑「俺もつれてけ!」
阿「ちょ、ちょっと!鏑矢さん!」
鏑「阿久津、ジュ…白石には俺は退院したと伝えておいてくれ。」
阿「そんなことでき…」
ジ「右京君。そんなことが許されるわけないでしょう。主治医は私ではありませんし、許可出せません。」
鏑「ジュラ!んなねむてぇこと言ってる場合じゃねぇーんだよ!」
塩(…ジュラ…?)
ジ「検査の時間なので呼びに来ました。さぁ、病棟へ戻ってください。」
鏑「ふざけんな!例えお前でも俺を止める権利はない!」
阿「ちょ、ちょっと!鏑矢さん!」
ナ「ジュラに殴りかかろうとする鏑矢 右京に抱き着くように阿久津 キョウが制止する。その一方で塩川 幸太郎はジュラに会釈をし、阿久津 キョウを一目見た後、その場を去った。」
ジ(塩川…塩川 幸太郎…ね。)
阿「白石先生!鏑矢さんを止めてください!」
ジ「ん?あーはいはい。」
鏑「ちょっと待て!おいお前!俺を連れてけ!」
ジ「はぁー。君は昔から粗暴ですね。これでも打っておきますか。検査に支障はないでしょう。」
ナ「ジュラはポケットから鎮静剤の入った注射器を取り出し、鏑矢 右京の腕に刺した。」
阿「…凄い…暴れてるのに…。」
ジ「キョウ君?私はこう見えても医者ですよ?突然暴れだす患者さんなんて沢山診てきましたから。」
ナ「ジュラは目元を微笑ませ阿久津 キョウへ語りかけた。」
鏑「ジュラ!てめぇ!なに…を…。」
阿「あれ?鏑矢さん?」
ナ「突然、鏑矢 右京は体の力が抜け、動きが鈍化した。」
ジ「うーん、やっぱり私が配合した方が効き目のある薬が作れそうだ。専門家ではないので、持続時間とかはわかりませんが。」
阿(この先生…ちょっと危ないかも…。)
ジ「なんせ私の専門は心療内科ですからね。さて、右京君を病棟に連れて行きましょう。キョウ君。手伝ってもらえますか?」
阿「あ、はい。」
鏑「阿久津…てめぇ…後で覚えとけよ…?」
阿「…ひぃ!」
ナ「一方その頃、塩川 幸太郎は、帰社したのちに単車に跨り再び赤い亡霊の捜索を開始した。」
塩(今日こそ赤い亡霊を捕まえてやる…。待ってろよ?)
純(…幸太郎…。)
塩(怪楼(かいろう)だった武田、幻神會(げんしんかい)総長だった裏島、魔弾(まだん)の高野にも聞いたが手がかりが掴めねぇ…。一体何者なんだ?あの赤い亡霊は。)
純(俺もあの女を探してみるか…手がかりは多い方がいい…。問題はどうやって幸太郎に伝えるかだ…。)
塩(ツラ合わせたくねぇーけど、坂敷に聞いてみるか。確かこの辺に住んでたよな…。)
純(とはいっても、あの女もどこにいるかわからないし…俺たち八方塞がりだな…。)
塩(取り合えず坂敷ん家行くには…あー!道を選ぶのも面倒くせぇ!この時間はトラック多いけど国道に出るか!)
ナ「塩川 幸太郎はアクセルを絞り、国道へと向かった。浜屋 純は幸太郎の後を追うように付いていった。国道に出ると、案の定トラックが多く、その脇をすり抜けながら前進していた。」
塩(まぁ、こんくれぇーなら余裕ですり抜けられんだろ…。ちと前が邪魔だな…並列してやがる…。)
ナ「塩川 幸太郎は道の流れを見ながら追い越しのチャンスを狙っていた。だがその瞬間…。」
純(…ん?この排気音は…?)
塩(あーもう!邪魔くせぇ!どけよクソトラックがよぉ!)
(排気音)
純(な…?まだ薄暗いとは言え…こんなに車が多い中だぞ!)
塩(チンタラしてんなよ!クソが!)
純(おい!幸太郎!後ろだ!後ろ見ろって!)
塩(お?よし!左折待ちの車のおかげで少しトラックの間に隙間が出来た!)
純(幸太郎!くそ!聞こえないか!後ろから赤い亡霊が来てる!)
塩「ふぅー、結構ギリギリだったけど何とかすり…」
(排気音)
塩「…ん?なっ…!?」
ナ「背後から迫る排気音に気が付き、サイドミラーを確認すると、塩川 幸太郎の背後にぴったりと赤い亡霊が張り付いていた。」
塩(嘘だろ…?コイツ…節操なしか!)
ナ「赤い亡霊はライダースの背中に忍ばせた鉄パイプを襟元から取り出し、塩川 幸太郎の左後方へ近づいてきた。」
赤「…コ…ロス…。アノカタ…ノ…タメ…!」
塩「てめぇ!上等だ!鉄パイプでぶん殴られたくれぇーで倒れる俺じゃねぇーんだよ!」
ナ「塩川 幸太郎が叫んだ瞬間、赤い亡霊は塩川 幸太郎のバイクの前輪へ鉄パイプを投げ差した。前輪は操作を失い、バイクごと身体が宙に舞った。塩川 幸太郎は受け身を取ることも出来ず地面に叩きつけられた。」
塩「え?飛んだ?…がはっ…。」
純(幸太郎!幸太郎しっかりしろ!幸太郎!)
塩(なんだ…これ…身体が…動かねぇ…。息が苦しい…。)
ナ「塩川 幸太郎は全身を強く打ち、動けずにいた。前方へ吹き飛んだバイクは不規則に跳ねながら追い越し車線を走るトラックに轢き潰された。」
赤「コロ…ス…。」
ナ「赤い亡霊は後続車に目掛けてジャケットのポケットに忍ばせた拳大の石をフロントガラスに投げつける。」
赤「…シネヨ…シオカワ…コウタロウ…。」
ナ「後続車はフロントガラスを割られ、そのヒビで視界を塞がれ、塩川 幸太郎が横たわっている状況を確認できなかった。」
塩(あー…いてぇ…つぅか…苦しい…。)
純(幸太郎ぉぉぉぉお!)
(激しいブレーキ音、そして衝撃音)
ナ「塩川 幸太郎は後続車に轢かれた。身体は車体の下へ巻き込まれ、後輪が体の上を通り、視界もぼやけ、もはや絶対絶命だった。」
塩(な…なにが…。)
純(幸太郎!幸太郎!死ぬな!幸太郎!誰か!誰か幸太郎を!)
塩(バ…バイク…乗らな…きゃ…。赤い…ぼう…。)
純(幸太郎ぉぉぉぉお!)
ナ「この事故渋滞で通行不可能となった国道。浜屋 純は助けを呼ぶが誰にも声は届かない。だが、一人の白衣の男が車から降り近づいてくる。」
ジ「…やあ、また会ったね…。塩川君。」
続く
次回 「相棒」