第六話 「闇の中へ」
塩川 幸太郎
謎の男(浜屋 純)
謎の男2
浜屋 唯
鏑「他にも存在するかも知れない異形が現れた時、お前の幼馴染を手にかけた異形の仲間だと知った時…お前はその異形を殺したいか?」
阿「…正直、僕にはわかりません。」
鏑「だとしたら、悪いことは言わねぇ。どっか遠く、誰もお前を知らない土地で生きていけ。」
ナ「突き放す鏑矢 右京。衝動で立ち向かった阿久津 キョウ。」
鏑「…うっ…うんっ…あ…あぁ…。」
阿「鏑矢さん!」
鏑「…阿久津…ありがとな…。」
阿「…え?」
鏑「…それ…を…いいた…かった…。」
ナ「そして監視をする謎の女。」
謎「ふふっ…可愛い…。それと…ジュラ?ふーん。あなたはそういう存在なのね…。とても楽しみ…。さ、坊や…行きましょう…。」
ナ「時が少し進み、灰川市では別の出来事が発生しようとしていた。」
第六話 「闇の中へ」
ナ「6月25日 雨 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
関連性の薄い2件の事件とは別の所で、単独事故として処理された事件があった。」
塩「来たぞ…純。」
唯「もう4年かぁ…。」
塩「…。」
唯「兄貴…私、大学生になったんだよ。勉強嫌いだったけど、頑張って大学入ったんだ…。きっと兄貴、驚くよね!」
塩「俺も専門学校を卒業して、今は社会人だ。笑えるだろ?俺がスーツ着てんだ。似合わないよな…。」
唯「そうだよ!派っっっ手なスーツ着ていこうとしてたんだよ??あり得ないよね??」
塩「うっせぇーな。イカしてただろうが!」
唯「ガラ悪かったよ?それにダサかったし!」
塩「純ならそんなこと言わねーよ。」
唯「兄貴だってあれは…。」
塩「…純…。お前、なんであんな場所で一人で逝っちまったんだよ…。」
唯「…。」
塩「…あの日もこんな雨だったよな…。」
ナ「塩川 幸太郎はスーツのポケットからたばこを吸いながら空を見上げた。空は分厚い雨雲が覆い、昼間だというのに薄暗い。
浜屋 唯は浜屋 純の墓前にしゃがみ、無言で墓周りの掃除をしていた。」
塩「なぁーにチンタラ走ってんだよ!置いてっちまうぞ!」
純「ばぁーか!本気出したらおめぇーのペケジェイなんてブッチだかんよぉー!だからゆっくり走ってやってんの!」
塩「おう!てめぇーら!今夜は土曜日だぁ!我黎音!行くぞおるぁ!!」
純「気張っていくぞぉ!遅れんじゃねぇーぞ!」
ナ「今から4年前。塩川 幸太郎、浜屋 純は暴走族「我黎音」の2TOPを張っていた。二人の出会いは中学三年生の頃。互いの学校名をかけたタイマン勝負を1年間続け、中学最後の日、 引き分け続きの勝負は塩川 幸太郎の勝利で幕を閉じた。その後、高校に入り二人で暴走族チームを結成し灰川市では敵無しと言われるほどに大きなチームとなっていた。」
塩「なぁ、純?この県を制したらもっと景色が違って見えるんかな?」
純「なぁーに言ってんだよ!俺たちと我黎音がいりゃあ、全国制覇だって夢じゃねぇーよ!」
塩「全国かぁ…んじゃとっととこの辺一帯をシメて回るか!」
純「そういや幸太郎、「炎帝(えんてい)」ってチーム知ってっか?」
塩「炎帝?聞いたことあんなぁ。それがどうした?」
純「いや、その炎帝の頭がこないだやられたらしいんだわ。」
塩「ふーん、そいつが弱かったんじゃねぇーの?」
純「バカ言うな。そこの頭は坂敷だぞ?」
塩「坂敷…ってあの本田工業の坂敷か?」
純「珍しい名前だし、俺たちがタイマン張る原因になった男だ。覚えてるだろ?」
塩「今の俺ならぶっ倒せる自信あっけど、坂敷って結構強ぇーだろ?誰がヤッたんだ?」
純「それがよ、全身真っ赤なヤツらしい。」
塩「全身真っ赤?」
純「あぁ、フルフェイスかぶっててライダーススーツ着て、しかも真っ赤に塗装したカタナに乗ってるってよ。」
塩「真っ赤な…カタナ?ってそれ…。」
純「出所(で)てきたのかもな…。あの人…。」
塩「眞宮…季里人(まみや きりひと)…。」
純「廃倉庫にたむろしている所に乗り込んできて、躊躇いもなくフルスイングで頭を一発…。」
塩「フルスイングで頭一発っておめぇー死んじまうだろ?」
純「おい、幸太郎。なんか後ろ騒がしいな?」
塩「ん?あー!ポリじゃねぇーか!」
純「うわっ!やばっ!篤志(あつし)ぃ!ケツ持ち頼む!」
塩「各隊はまとまらずに国道から散開!誰もパクられんなよ!ひっさしぶりのおっかけっこだぜぇ!」
(発信音)
純「おう!今夜の走りは中止だ!「怪楼(かいろう)」、「幻神會(げんしんかい)」、「魔弾(まだん)」の頭に伝えろ!派手にポリが動いてっから国道走んなよ!」
塩「さぁぁぁああって!唸れ!俺のペケジェイ!!フルスロットルだ馬鹿野郎!!」
純「おめー運転下手くそなんだからよぉ!すっこけんなよぉー?」
塩「てめぇーのゼファーなんてエンジン2個積んでも俺のペケジェイにはかなわねぇーよ!ははははは!」
純「ばぁーか!そのボロっちぃ単車にニトロ積んでも俺には追い付かねぇよ!」
塩「じゃあ、利根川まで競争な!」
純「負けたらガソリン満タンな!」
塩「えっ…?」
純「おっ先ぃー--!ひょぉぉぉぉぉお!!」
塩「あんの野郎!」
ナ「浜屋 純が赤信号を無視して突っ走る。塩川 幸太郎もその後に続くが、左側から走行してきたトラックに行く手を阻まれ、浜屋 純の姿を見失った。」
塩「あの時、俺が純を見失ってなけりゃ…。」
唯「…やめなよ幸太郎。兄貴は不慮の事故。幸太郎のせいじゃないんだからさ。」
塩「そうかもしんねぇけど…」
唯「自分を責めるな!兄貴はそんな塩川 幸太郎とツルんでたんじゃなく、夜の街道をピッカピカに光って走る喧嘩上等の塩川 幸太郎とツルんでたんだぞ!
塩「…。」
唯「だからさ…もう兄貴の墓前で見せる顔はそろそろ笑顔に変えていこ?」
塩「…唯。」
ナ「信号ではぐれ、次に浜屋 純を発見したのは無造作に道路に転がったゼファーと、雑巾のように捩じれ、転がり無残な姿だった。急いで浜屋 純のもとに駆け付けたが、既に死亡していた。道路にはブレーキ痕はなかった。目撃者もいなかったことから単独事故として処理された。」
唯「さっ、そろそろ帰ろ!帰りのバス来ちゃうから!」
塩「…あぁ。」
唯「じゃあまた来るね!兄貴!ほらっ!ぼさっとしてないで幸太郎も挨拶して!」
塩「…またな…純。」
謎(おう…またな…。)
唯「あーもう!雨酷くなってきた!急ごう!」
ナ「塩川 幸太郎と浜屋 唯はバス停へ向かった。浜屋 純の事故以来、塩川 幸太郎は灰川市を束ねていた暴走族「我黎音」を解散させ、自ら単車を降りた。」
謎(元気そうでよかった…唯。)
ナ「二人が去った後に、全身を赤く男が浜屋 純の墓標へ現れた。」
謎2「コ…コ…コロ…ス…。ツギ…ハ…シ…オカ…ワ…コウ…タ…ロ…。」
謎(…真っ赤?)
謎2「コロ…ス…コロ…コロ…コロ…コロコ…コロコロコロコココロ…。」
謎(…なんだ…コイツ…?)
ナ「真っ赤のフルフェイス、そして真っ赤のライダースジャケット。全身真っ赤の男が立ち尽くしていた。」
謎(赤い…フルフェイス…?赤い…ツナギ…?)
謎2「ヤットミツケタァァァァァァア!!アノカタニ…アノカタノタメニィィィィィイ!!」
続く
次回 「赤い亡霊」