第十一話 「発進」

2024年04月13日

阿久津 キョウ
鏑矢 右京
塩川 幸太郎
浜屋 純
ジュラ 


阿「異形力って知ってますか?」

塩「おい!なんだそれ!どうやって手に入れるんだ!?」 

純(幸太郎!落ち着けよ!って声が届かねぇーからなんも出来ねぇな!ちきしょう!) 

塩「なぁ!頼む!なんでもいい!教えてくれ!なぁ!阿久津!頼む!」 

阿「鏑矢さんのことがわかったら教えます。」  

(排気音)

第十一話 「発進」 


ナ「7月1日 雨 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
都市伝説だったはずの「赤い亡霊」。未解決事件と赤い亡霊、そして異形。これらに纏わる人間たちが集結しつつあった。」

(発信音)

鏑「あ?誰だ?…もしもし?」

阿「あ、 突然の電話ですみません。阿久津です。」

鏑「おぉ、どうした?」

阿「あの…実はさっき鏑矢さんが退院した後に同室にある人が運ばれてきたんです。」

鏑「ある人?

阿「はい。先日、中庭で出会った人のこと覚えてますか?」

鏑「中庭…?あ、異形の事を聞いてきた奴か?」

阿「あ、そうです。」

鏑「それで?なんで俺に連絡してきた?」

阿「その…塩川さんが鏑矢さんと話をしたいと言ってます。」

鏑「俺と?異形のことか?」

阿「…はい。あまり僕の口からはプライバシーに関わることだと思ったので…。」

鏑「わかった、今から病院に戻る。」

阿「わかりました。塩川さんに伝えておきます。」

鏑「てか、ちょっと待て。」

阿「はい?」

鏑「塩川ってのはなんで入院してんだ?」

阿「…赤い亡霊にやられたらしいです。」

鏑「赤い亡霊…。」

阿「やっぱり異形の者なんですかね…?」

鏑「わからん。とにかく急いで戻るが、面会時間を過ぎるかもしれねぇ。塩川は動けるのか?」

阿「わからないです。動けそうなら外で落ち合いますか?」

鏑「あぁ、そうしてくれると助かる。」

阿「わかりました。」

鏑「んじゃ、後でな?」

ナ「鏑矢 右京はスマホを胸ポケットにしまい、タクシーを探した。悪天候のため中々捕まえられず、
やっと捕まえたと思ったら渋滞に巻き込まれ、病院に到着したのは面会時間を大幅に過ぎた頃だった。」

鏑「おっちゃん、無理させたな。釣りはいいわ。」

ジ「お待ちしてましたよ。右京君。」

鏑「ジュラか。時間外なのに悪いな。」

ジ「私はここの医師ですからね、これくらいのことは手助け出来ますよ。」

鏑「塩川って奴はどういう状態なんだ?」

ジ「そうですね、病室へ向かいながらお話ししましょうか。」

鏑「阿久津が会話してるってことは意識はあるんだろ?」

ジ「意識どころか食事も摂ってます…と言っても内臓へのダメージが大きかったので味の薄いものばかりですが。」

鏑「赤い亡霊にやられたって本当か?」

ジ「私ははっきり見てませんが、たまたま事故現場に居合わせたので連れてきました。」

鏑「…たまたま?」

ジ「はい、たまたまです。」

鏑「お前まさか…塩川って奴に能力を与えたのか?」

ジ「…さ、つきましたよ。」

鏑「答えろよ。」

ジ「彼はあのままでは死んでしまいますからね。」

鏑「お前死にそうな奴見たら能力与えんのか?」

ジ「いえ。以前、右京君にもお話した通り、私は誰かのために力が欲しいと思っている人にだけ授けてます。」

鏑「…。」

ジ「なにか?」

鏑「いや、わかった。」

ナ「ジュラは病室のドアをノックし室内へ入った。そこでは阿久津 キョウと塩川 幸太郎が対面した状態で何かを話していた。」

ジ「失礼するよ。塩川君。右京君を連れてきました。」

阿「鏑矢さん、すみません。お呼び建てして。」

鏑「阿久津、話は後だ。お前が塩川だな?」

塩「すんません。あんた…鏑矢さんは異形と戦ったんすよね?」

鏑「あぁ。」

塩「あいつら一体何者なんすか?」

鏑「それはわからん。ただ俺も戦ってみて感じたのは、元は人間だったということだ。」

塩「人間…?」

鏑「ジュ…白石にその辺は聞いてないのか?」

塩「はあ。」

ジ「説明しましょうか?」

塩「お願いします。」

ジ「私にもよくはわかりません。ただ…。」

ナ「ジュラはスッと視線をそらし浜屋 純を見つめ、少しして視線を塩川 幸太郎へと戻した。」

ジ「霊的な存在などというものではないようです。」

純(今、こいつ俺を見た?こいつにも俺が見えるのか?)

塩「怪物じゃないのか?」

ジ「怪物…。なんとも言えません。なぜなら私も白石 朧という人間であり、そして彼らとはまた違う異形なのですから。」

塩「なっ!あんた…異形なのか?え?ちょっと待て!阿久津も鏑矢さんもそれを知ってたのか?」

阿「…僕も先日知りました。」

鏑「俺は…あんま思い出したくねぇーけど2回助けられてる。」

塩「どういうことだよ…。ん?おい阿久津。」

阿「は、はい…。」

塩「お前昼間に変なこと言ってたよな?異形の力とか?」

阿「…はい。」

塩「鏑矢さん、あんたもしかして異形と戦ったらしいけど、異形力っての持ってんのか?」

ナ「鏑矢 右京は阿久津 キョウの様子を伺った。阿久津 キョウは特に顔色を変えている様子もなく黙っていた。」

鏑「俺もこいつも異形力を持つものだ。」

塩「まじ…かよ…。」

純(うーん、その異形の力を制御できる人間とそうではない人間がいるってことか?)

鏑「さっき白石が言った通り、俺たちは奴らとは違う別の異形のようだ。」

純(あー、頭が混乱してきた。この鏑矢のおっさんの言う話だと、白石、鏑矢、阿久津の3人は同系統なのか?)

塩「その力があれば赤い亡霊を倒せるか!?」

鏑「さぁな。」

塩「さぁなって…。」

鏑「会ったこともねぇー奴の事なんてしらねぇーってことだ。」

純(いや、待てよ?さっきあの医者は俺を一目見たよな…他の2人は…?)

ナ「浜屋 純は阿久津 キョウと鏑矢 右京の眼前まで近づくが二人とも反応はなかった。」

純(この二人には見えない?だとすると…この医者はまた別?)

ナ「浜屋 純が一人、考え事をしているのをジュラは横目でチラリと目を運ばせた。」

ジ「赤い亡霊以外にも異形…後は幽霊という存在など色々あるかもしれませんね。」

塩「幽霊?」

ジ「はい、私は医者ですのでそのような存在は本来、信じたりしませんが、私自身も気が付かないうちにこの力を手にしているので、半信半疑な部分ではあります。」

純(こいつ…やっぱり俺が見えてる!)

塩「な、なぁ!今の俺にはまったくもってサッパリ理解できねぇーけど、頼む!俺にあんたたちの力を貸してくれねぇーか!」

鏑「力を貸せって…お前は何を提供できるんだ?」

塩「え?」

鏑「その赤い亡霊ってのが異形でも何でもない奴だった場合、俺たちは何のメリットもない話だ。」

塩「…まあ。」

純(こんだけ色々起きてれば、幸太郎が縋(すが)るのもわかるけどな…。)

鏑「もう少し情報持ってこい。話はそれからだ。ちっ…何か手がかり掴めると思ったのに無駄足じゃねぇか。俺は帰るぜ。」

ナ「鏑矢 右京は少し苛立った様子で病室を出ようとした。」

阿「か、鏑矢さん…。」

鏑「あぁ?」

阿「あ、あの…。」

鏑「なんだよ、あんま苛つかせんなよ?」

阿「す、すみません。僕はその…赤い亡霊がもし異形だとすれば…。」

鏑「…。」

阿「優里香を…優里香を殺した異形の大本というか、異形が発生する元凶に辿り着くかも知れないとおもうんです。」

鏑「んなこたぁわかってんだよ!でもな!こっちは5年だぞ!たった数分ここで薄っぺらい情報だけで一喜一憂なんざしたくねぇーんだよ!」

阿「わかります…なので、僕が塩川さんと同行するのはどうですか…?」

ジ「…ん?」

塩「え?お前が…か?」

純(おいおい…こんなひょろっとしたのがか?)

阿「それで僕が鏑矢さんに報告する…と言うのはどうですか?」

ナ「鏑矢 右京の顔つきは苛つきながらも、スーツからウィスキーを取り出し三口飲んだ。」

鏑「阿久津…。お前がしたいようにしろ。」

阿「え?」

鏑「お前の考えなんだろ?それに俺にとってはその赤い亡霊がどっちだとしてもデメリットはねぇ。」

阿「それじゃ…。」

鏑「俺はお前の連絡を待つ。頼んだぞ。」

阿「あ、はい!」

鏑「それから、塩川。阿久津は腕力はねぇ。だから赤い亡霊とかいうふざけた奴が現れたら守ってやってくれ。」

塩「お…おう。わかった!とにかく手がかりは一つでも多い方がいい!阿久津!感謝する!」

純(…いやぁ、足手まといだろ…。どう見ても喧嘩したこともなさそうだぞ?)

阿「鏑矢さん…ありがとうございます!塩川さん、お願いします。」

鏑「なにかあったらすぐ連絡してこい。んじゃな。」

ナ「鏑矢 右京は阿久津 キョウの頭にそっと手を乗せそのまま病室を出て行った。その後を追うようにジュラが病室を出た。」

ジ「右京君。」

鏑「あ?」

ナ「鏑矢 右京は振り向きもせず立ち止まった。」

ジ「なぜ、キョウ君に任せたのですか?」

鏑「さぁな。気まぐれだ。」

ジ「そうですか。そういうことにしておきましょう。」

鏑「ちっ…嫌な奴だな。」

ジ「キョウ君も力を持っているので、何かあっても大丈夫でしょう。」

鏑「瀕死になってたらお前がなんとかしろよ。」

ジ「私は心療内科医なので直接は…」

鏑「じゃあな。」

ナ「鏑矢 右京は病院を去った。」

純(こいつら一体どういう関係なんだ?)

ナ「ジュラは病室に戻るとき、ドアに隠れるように様子を見ている浜屋 純の姿に気が付いた。」

ジ「さて…どうなりますかね。楽しみですね。」

ナ「ジュラはそう一言つぶやくと一瞬口角を上げ、部屋に入るときには冷静な表情に戻っていた。」

純(よくわかんねぇ奴だなこいつ…。)

ナ「ジュラが病室に戻ると、興奮気味の塩川 幸太郎と阿久津 キョウが会話をしていた。」

塩「お前が来てくれるだけでもまじで助かる!いつ行く!?」

阿「あ、いや…ちゃんと外出許可をもらわないと…。」

塩「点滴なんざしちゃいるが、動いても特にどこも痛くねぇし、俺は今夜にでも行けるぞ!」

阿「ただ…僕は喧嘩とかは…」

塩「んなこたぁ、わかってんよ!やばくなる前に安全なとこに運んでやっから!」

阿「はあ…。」

塩「じゃねぇーとあのおっさんに殺されっかもしれねぇーかんな!」

阿「わかりました。ただ…今の僕に出来ることは…」

塩「おう。」

阿「その赤い亡霊を確認して、鏑矢さんが戦った異形との相違点を探るくらいです。」

塩「それでいいんだよ!俺は赤い亡霊しか知らねぇ、でもお前は異形を知ってる。」

阿「はい。」

塩「即席かもしんねぇーけど、頼んだぜ!」

純(パートナーか…。)

阿「とにかく外出許可をもらえないと勝手に部屋を出るのは良くないです。明日まで…」

ジ「いいですよ?私がなんとかしましょう。」

塩「本当っすか!?」

ジ「ただし、0時までにしてくださいね?続きは明日、谷越先生に相談してみます。」

塩「まじ助かります!こうしちゃいらんねぇ!時間がねぇぞ!阿久津!」

阿「あ、待ってください。僕パジャマなんです。着替えさせてください。」

塩「あぁ?何言ってんだおめぇ!そのままで…」

ジ「君もですよ。塩川君。うちの病院の患者衣なんて着て外に出られたら困ります。それと点滴なども外しませんとね。」

ナ「阿久津 キョウと塩川 幸太郎はそれぞれ着替え準備を整えた。」

塩「よし!久しぶりに自由に動けるぞ!」

阿「あの…どうやって探しに行くんですか?」

ジ「私の車で…と言いたいところですが、君たちが抜けだしたときの為に残らなくてはなりません。なので、タクシーを手配しておきました。」

塩「はやっ!」

ジ「そろそろ病院へ着く頃でしょう。」

塩「助かります!行くぞ!阿久津!」

阿「はい!」

ナ「阿久津 キョウと塩川 幸太郎はジュラが用意したタクシーに乗り込んだ。」

塩「おっちゃん!灰川町3丁目12番の灰川小学校に向かって走ってくれ!」

純(…そこって幸太郎の家の方じゃね?何しに行くんだ?)

塩「さぁ!今夜こそ赤い亡霊をぶっ飛ばすぞ!」

続く

次回 「愛車」

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