第十三話 「赤と紅蓮」
阿久津 キョウ(縁)
塩川 幸太郎
浜屋 純
板敷 壮太(いたじき そうた):元炎帝のリーダー。赤い亡霊の一人。
山村 小夜子
尽「こいつをお前に渡す俺の覚悟と…」
塩「なっ…それって…。」
純(あ、兄貴!それ…!嘘だろ…)
尽「純の魂を背負う覚悟があるなら…持ってけ。純の乗ってた紅蓮のゼファーだ。」
純(…あ…にきぃ…ほんと…ごめん…涙止まんねぇよ…。ありがとう…。)
尽「それと阿久津!こいつは…幸太郎はバカだけどよ…仲良くしてやってくれな?
」
阿「は、はい!こちらこそ!」
尽「純…幸太郎を守ってやれ…。いってこい…。」
純(あぁ。兄貴。いってくるよ!)
第十三話 「赤と紅蓮」
ナ「7月1日 雨 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
「赤い亡霊」。正体不明のライダーを捕まえるべく、今夜一人の男が復活する。タイムリミットは午前0時。」
尽「エンジンかけてみろ。」
(排気音)
純(あぁ…この音…。)
塩「純の音だ…。」
(排気音)
塩「純…また会えたな…。」
純(あぁ。久しぶりだな幸太郎…。)
ナ「塩川 幸太郎はしばらくアクセルを吹かし、排気音に聞き入っていた。」
阿「…凄い…。」
尽「阿久津は…バイクに乗ったことなさそうだな。」
阿「…えぇ?なんですか?」
尽「あぁーくぅーつぅーはぁー!バァーイィークゥー…あーもう、うるせぇ!」
ナ「浜屋 尽はいつまでもアクセルを吹かす塩川 幸太郎の頭を殴った。」
塩「…つっつぅー…いてぇ!殴ることないじゃないっすか!」
尽「お前なぁ、何時だと思ってんだよ!流石にうるせぇだろうが!近所迷惑だ馬鹿野郎!」
塩「何時って… やばっ!もう10時半じゃん!」
阿「え?塩川さん、0時までに病院に戻らないと!」
ナ「ジュラから0時までに病院に戻るのを条件として外出していたため、残りの時間で赤い亡霊を探さなくてはならなかった。」
塩「最悪、時間なんてブッチすんぞ!」
阿「え!そんなことしたら白石先生に…。」
塩「お前はバカか!怒られるなんて1回だ!だけどもし赤い亡霊が人間を襲ってたらどうすんだ?」
阿「…た、確かに…でも…。」
塩「いいからケツに乗れ!いいか?国道飛ばすまでの間、カーブや細道多いからしっかり捕まってろよ!」
唯「幸太郎!」
ナ「塩川 幸太郎のアクセルを吹かす音に目が覚めた浜屋 唯が車庫に現れた。」
唯「幸太郎…無事だったんだ…。」
塩「唯、悪ぃ急いでんだ!話は今度すっから!あと、俺はもう元気だ!心配すんな!」
唯「…ねぇ…そのバイク…。」
尽「純のだ。」
唯「兄貴の…?」
尽「あぁ、コツコツ直してた。」
唯「お兄ちゃん…なんで教えてくれなかったの?」
尽「後で教えてやる。幸太郎!雨だから滑んなよ!」
塩「はい!あ、尽さん!すんません!ちと廃材でもいいんで鉄パイプもらえますか?」
尽「はぁ?お前その赤い亡霊を殺す気か?」
塩「いや、やられたことをやり返すだけっす。」
尽「ちっ…んじゃ…ちと細いけどこれ持ってけ。」
塩「あざーっす!」
尽「舐められた分しっかり返して来いよ!」
塩「はい!行くぞ阿久津!パイプ持ってろ!」
阿「はい!え?僕がこれ持っておくんですか?」
塩(行くぞ!純!)
純(おうよ!)
塩「…え?」
阿「え、ちょっと…。塩川さん!」
ナ「塩川 幸太郎には一瞬、浜屋 純の声がしたように聞こえた。浜屋 純のバイクに跨っているため気のせいだろうと、浜屋家を後にし、国道目掛けて走り始めた。」
塩「振り落されんなよ?」
(排気音)
阿「こ、怖いです!」
塩「しっかり捕まっておけ!あと少しで国道出っからよ!」
ナ「灰川街道を走り進め、国道の交差点に差し掛かった時、信号が変わり赤になった。」
塩「ちっ!大分時間食っちまってんのによぉ!」
阿「塩川さん、もし今夜、赤い亡霊が現れなかったらどうするんですか?」
塩「はぁ?決まってんだろ?現れるまで探すんだよ!」
(排気音)
阿「そんな無茶したら…」
塩「シッ!阿久津ちと黙れ…。」
(排気音)
塩「阿久津ぅ…来たぜ…クソ野郎がよ…。」
ナ「雨の中でもわかるほどの爆音で赤い亡霊が交差点へ近づいてきた。塩川 幸太郎の走った灰川街道は細道のため、国道からの左折車が通りやすいよう、信号の大分手前が停止線となっていた。国道からは灰川街道側の停止線に止まっている車を見るには、交差点へ侵入しないとわからないほどだった。だが赤い亡霊はそこにいるのを知っていたかのように、一瞬、塩川 幸太郎へ首を向け走り去った。」
純(あの野郎…タイミングよく現れやがった!幸太郎!先行くぜ!)
ナ「信号は赤のままだった。赤い亡霊を見失わないように浜屋 純が先行して赤い亡霊を追おうとした。だが。」
塩「ちっ!信号なんてブッチだ!行くぞ!」
阿「あ、危ないですよ!」
純(ちょっ…幸太郎!なにやっ…!?トラック!?)
ナ「交差点へ大型トラックが迫っていた。トラック側は信号が青のため、今から塩川 幸太郎が飛び出してくることなど知りはしない。」
塩「あの野郎!待ちやがれ!」
純(止まれ!幸太郎!トラックが来る!)
ナ「塩川 幸太郎はクラッチレバーを握りペダルに足をかけていた。」
純(バカ!幸太郎!トラックが来てんだよ!)
塩「捕まってろよ!」
純「止まれって言ってんだろ!幸太郎!トラックが来てんだよ!」
塩「え?トラック?」
純「そうだ!トラックが来てんだ!少し待て!って…あれ?」
塩「おい、阿久津。お前、今なにか言ったか?」
阿「危ないですって言いました!」
塩「いや、トラックって…。」
(トラック音)
ナ「塩川 幸太郎と阿久津 キョウが会話をしている間に、目の前をトラックが過ぎ去っていった。」
阿「あ、あぶなかった…。」
塩「お、おう…。今の声は一体…。」
ナ「トラックが過ぎ去り、ようやく信号が青に変わった。」
塩「まぁいい!四の五の考えたって今は赤い亡霊以外にどうだっていい!」
阿「わぁっ、ちょっと…!」
塩「赤い亡霊!てめぇーがどんだけ速かろうがかんけーねぇ!亡霊だっつうんだったらあの世に送り返してやんぜ!」
純(おい!幸太郎!雨降ってるし阿久津乗せてんだから気をつけろ!)
塩「流石、純のゼファーだ!阿久津!見えてきたぞ!亡霊のきたねぇ蛍がよ!」
純(おい!幸太郎!おい!)
阿(あ、雨で…手が冷えてきた…。)
ナ「赤い亡霊のテールランプが段々近づいてきた…かのように思えた。だが実際には赤い亡霊は速度を下げて塩川 幸太郎を誘っていた。」
塩「なんだあいつ…減速してねぇーか?」
純(おかしい…本気で幸太郎を殺すなら、赤い亡霊のことだ、逆走するくらいはしてくると思う…何が目的だ?)
塩「上等じゃねぇーか!」
ナ「塩川 幸太郎は赤い亡霊の背後を狙って更に加速した。だが、背後を取らせないように蛇行運転をし始めた。」
塩「なっ…こいつ!だったら真横から突っ込んでやるよ!」
阿(手が…滑りそうだ…。)
ナ「時間は既に23時を過ぎていた。とは言え、国道を利用する大型トラックや乗用車が全くいないわけではない。その合間を縫うように赤い亡霊は蛇行を続けた。」
純(ちっ…幸太郎の奴!完全に頭に血が昇ってやがる!つぅかトラックがいて前が見えにくい…先回りすっか!)
塩「おい!大丈夫か?阿久津!」
阿「塩川さん…一回止まれませんか?手が滑りそうです…」
塩「片手でシートの後ろにあるバンドを掴め!」
阿「振り落されそうで…怖くて手が離せないです…!」
塩「くそっ!今止まっちまったらあいつを見失いかねない!なんとかしろ!」
阿「なんとかって…(あ…なんだ…この…睡魔…)」
塩「おい!阿久津!聞いてんのか!?」
ナ「阿久津 キョウは眠る様に気を失った。」
塩「お、おい!あぶねーだろ!落ちるぞ!阿久津!阿久津!」
(排気音)
純(赤い亡霊の奴、トラックを抜けた後に急にスピードを上げやがった?なんだ?逃げる気か?)
塩「阿久津!おい!阿久津!」
ナ「塩川 幸太郎は阿久津 キョウがバイクから落ちないようスピードを下げたが、赤い亡霊を見失わないように停車はしなかった。走り続けながら阿久津 キョウへ呼びかけを続けていると、意識を取り戻し阿久津 キョウは起き上がった。」
塩「阿久津!起きたか!」
縁「あぁ、このバンド握ればいいんだな?」
塩「阿久津…?」
縁「いいから前を見ろ。赤い亡霊を見失うぞ?」
塩「お、おう…(こいつ…キレたのか?)まあいい!んじゃ飛ばすぞ!」
純(どんだけスピード出すんだあいつ…ん?後ろのポリタンク…なんだありゃ…。)
ナ「赤い亡霊は速度を上げ、塩川 幸太郎と距離を取った。大半の車を抜き去ったところで赤い亡霊は停車した。」
純(なにやってんだこいつ…ここで幸太郎を迎え撃つのか?)
ナ「次の瞬間、赤い亡霊はポリタンクの蓋を開け、道路にまき散らし、再び走り去り新灰川街道へ左折をした。」
純(ガソリン…いや、それなら火をつけるだろ。それにバシャバシャした感じじゃなかった…まさか!)
塩「くそ!どこ行ったあの野郎!」
縁「すまない、オレのせいで足を引っ張った。」
塩「話は後だ!とにかく追うぞ!(阿久津の奴、急にバランスが取れるようになってやがる…)」
ナ「阿久津 キョウが塩川 幸太郎の運転に合わせ体重移動をするようになり、塩川 幸太郎は走りやすくなった。だが、浜屋 純が慌てながら塩川 幸太郎の下へ戻ってきた。」
純(幸太郎!やばい!あいつオイルぶちまけやがった!おい!幸太郎!)
塩「なんだかしんねーけど走りやすくなった!これなら追い付くかも!」
純(おい!幸太郎!)
塩「純!力を貸してくれ!あいつをぜってぇーぶっ飛ばす!」
純「幸太郎!この先であいつがオイルぶちまけたんだ!止まれ!」
塩「あ?阿久津?今なんて…?」
純「幸太郎!止まれって!赤い亡霊が道路にオイル撒いたんだ!」
塩「なっ!オイル??」
純「そうだ!このまま行くと事故んぞ!止まれ!」
ナ「浜屋 純の呼びかけに戸惑いながら塩川 幸太郎は速度を下げた。」
縁「おい…速度落ちてないか?」
塩「あ、いや…。」
ナ「塩川 幸太郎は浜屋 純の言葉通りに路肩へ移動し停車した。その瞬間、目の前で次々と乗用車やトラックが玉突き事故を起こした。車が転倒したりトラックが乗用車を圧し潰すなど、至る所で衝突音が鳴り続けた。」
塩「ま、まじかよ…。」
縁「なんだこれは?」
塩「阿久津、お前が俺に教えたんじゃないのか?」
縁「なんのことだ?」
ナ「塩川 幸太郎は状況を飲み込めていなかった。」
塩「ちっと降りるぞ。頭の中を整理したい。」
縁「わかった。バイクなんて乗り慣れてないから少し疲れた。歩道で座ってるわ。」
塩「あぁ、そうしててくれ。」
ナ「阿久津 キョウは歩道に座り込むと、再び眠ってしまった。そんな様子を気にも止めず塩川 幸太郎はここまでの出来事を思い出していた。」
塩(尽さんの所を出発する時…交差点であいつを追おうとした時…、そして今。阿久津の様子が変わったのはついさっき。でもあいつは声のことがわかってなかった。)
純「聞こえるか!幸太郎!」
塩「え?誰だ!?どこにいる??」
純「ここだ!聞こえてるんだな?」
塩「もしかして…その声って…!?」
純「俺だ!浜屋 純だ!」
塩「どうなっちまったんだ俺…幻聴か?」
純「おおお!本当に俺の声が聞こえてるんだな!幸太郎!」
塩「純…なのか?」
純「あぁ、この前お前が墓参りに来てくれた時から、なんでかしんねぇーけど意識が戻ったんだ!」
塩「どういうことだ?」
純「説明は後ですっから、今は赤い亡霊を追うぞ!あいつは新灰川街道を左に向かった!」
塩「本当に純なのか…?」
純「今はいいからとにかく行くぞ!新灰川街道を左折してどこへ向かったかわからないが…」
塩「どうした?」
純「おい…この道…新灰川街道の脇道を通ったらどこに繫がる?」
塩「どこって…まさか!」
(排気音)
ナ「新灰川街道からの抜け道を辿ると、この国道へ戻ってくる。しかも今、塩川幸太郎がいる場所は、その脇道を抜け、国道へ戻ると塩川 幸太郎の背後に現れる場所だった。」
(排気音)
純「おい…やべぇーぞ!」
塩「あぁ。だが向こうからお出ましだ!阿久津!来たぞ!」
純「なぁ、阿久津っての寝てないか?」
塩「はぁ?おい!阿久津!起きろ!寝てる場合じゃねぇぞ!」
ナ「塩川 幸太郎は歩道へ移動し阿久津 キョウを起こしていた。」
阿「…ん…んん…塩…川さん?」
塩「寝ぼけてんな!赤い亡霊が来たぞ!」
(排気音)
塩「阿久津、パイプ寄越せ…。きっちりケジメつけてやんよ!」
阿「え!赤い亡霊!」
塩「あぁ、お前はあのおっさんに報告するんだろ?俺もお前を危険に晒さないと約束した!そこできっちり見とけよ!」
ナ「塩川 幸太郎はまだ意識がはっきりしていない阿久津 キョウから鉄パイプを取り上げ車道へ戻った。」
塩「全身真っ赤なクソ野郎!そのカタナおしゃかにしてやんよ!」
(排気音)
赤「…。」
純「タイミング…外すなよ?」
塩「あぁ…。」
ナ「赤い亡霊は前回同様にライダースの背中から鉄パイプを取り出した。」
純「今だ!後ろに飛べ!」
塩「え?」
純「あいつの動きは鉄パイプで殴る動きじゃねぇ!飛ばしてくるぞ!」
塩「わかった!」
ナ「塩川 幸太郎は考えることなく浜屋 純の声に従って背後へ飛び跳ねた。赤い亡霊は浜屋 純の言葉通り鉄パイプを投げてきた。寸での所で塩川 幸太郎は飛んできた鉄パイプを交わした。」
塩「あっぶねぇー!本当に飛ばしてきやがった!」
純「まだだ!幸太郎!」
塩「わかってんよ!どうせこいつ避けて逃げるか、ギリギリまで接近して蹴り入れるか、直接跳ねてくるか!」
純「わかってんじゃん!ならやることは!」
塩「ただ一つ!こっちから!」
純「突っ込む!」
(排気音)
ナ「塩川 幸太郎は持っていた鉄パイプを赤い亡霊の頭部へ目掛けてフルスイングで殴りつけた。赤い亡霊のフルフェイスのシールドは砕け、バイクから転げ落ち、そのまま失神していた。」
塩「阿久津!こっちこい!こいつが異形かどうか判断してくれ!」
阿「…あ、あ、は、はい…。」
ナ「阿久津 キョウは恐る恐る近づき、赤い亡霊の顔を覗き込んだ。」
塩「どうだ?異形か?」
阿「…ヘルメットを外さないと…よく見えないです。」
塩「わかった。おい!起きろ!鉄パイプでぶん殴ったとはいえメットしてんだから生きてんだろ!」
ナ「塩川 幸太郎は赤い亡霊のフルフェイスをはぎ取り、顔を露わにさせた。」
赤「うっ…ん…いってぇ…。」
塩「あ?これが異形なのか?なんだこいつ?」
純(こいつは赤い亡霊じゃない…あの時こんなにはっきり話さなかった…。)
ナ「浜屋 純は初めて塩川 幸太郎の前に現れた赤い亡霊の声を思い出していた。」
赤「…コ…ロス…。アノカタ…ノ…タメ…!」
赤「…シネヨ…シオカワ…コウタロウ…。」
阿「この顔の雰囲気だと…多分、異形じゃないです。」
塩「あ?じゃあこいつ一体なんで俺たちを狙ったんだ??」
赤「いてぇ…救急車呼んでくれよ…。」
塩「てめぇがしでかした事故のせいでそろそろ大量に救急車が来るだろうよ!だからその前に全部教えろ!なんで俺たちを狙った!」
赤「教えるかよ…。」
純「ちょっと待て、こいつ今、顔腫れてっけど…板敷じゃねぇか?」
塩「あ?…お前…板敷か?」
赤「今頃…気が付いたのかよ…。」
塩「てめぇーがなんで俺たちを狙うんだ!てか、てめぇーも昔、赤い亡霊にやられたんじゃねぇーのかよ!」
赤「くっ…くくくっ…。」
塩「なにがおかしいんだ!あぁ!?」
赤「お前…なにか勘違い…してんな…?」
塩「どういうことだ?」
赤「お前が追ってた…赤い亡霊…も、お前の…前を走って…た赤い亡霊も、全員…違う…。」
阿「他にもいるんですね…。」
純「赤い亡霊は一人じゃないってことか!?」
塩「どうやらそうらしいな。」
赤「一つだけ…教えてやるよ…。俺たちは…組織だ…。あの方の…ために…忠誠を…ちか…った…。」
ナ「板敷 壮太は意識を失った。塩川 幸太郎は困惑しながらも救急隊が駆け付けるのを待っていた。玉突き事故の救助に追われていて、現場は慌ただしかった。」
塩「組織ってなんだ?族じゃないのか?」
純「どうやら族なんて可愛いもんじゃなさそうだな。」
阿「一つわかったのは、この赤い亡霊は異形じゃないってことです。」
塩「そう…みたいだな。」
純「だとすると、阿久津もあの鏑矢っておっさんもこの件とは関係なくなるな。」
阿「なので、一先ず僕は鏑矢さんに今の出来事を説明しておきます。」
塩「そうだな。」
純「ところで阿久津はその異形ってのを追ってどうするんだ?お前、見た目からして喧嘩弱そうだけど。」
阿「塩川さん、最後までお付き合い出来ずすみません。」
純「いや、お前さ?俺の話し聞いてる?」
阿「ただ、まだ他の赤い亡霊が異形ではない確証はないので、何かわかったら教えてください。」
純「おい!阿久津!シカトしてんじゃねーよ!」
塩「わかった。そっちも何かわかったら情報をくれ。」
純「おい!」
(排気音)
ナ「阿久津 キョウと塩川 幸太郎が話し合いをしている最中(さなか)、二人に向かってくる数台のバイクが近づいてきた。」
(排気音)
塩「あぁ?なんだあいつら…野次馬か?」
純「おい…幸太郎…。あいつら…全身赤くてカタナ乗ってんぞ…?」
塩「なっ!まさか…!」
ナ「合計3台のバイクが近づいてきた。全身真っ赤に染まり、赤いカタナに乗って現れた。赤い亡霊の集団だった。」
塩「ちっ!流石に一人で3人相手は骨が折れるぞこりゃ…でもかんけーねぇ!かかってこいや!」
純「いや、今は退け!阿久津がいたんじゃ思うように動けないぞ!」
ナ「塩川 幸太郎は臨戦態勢に入っていたが、阿久津 キョウを守りながら戦うのはリスクが大きいと判断し、バイクに跨った。」
塩「ちっ!仕方ねぇ!阿久津!乗れ!」
阿「は、はい!」
ナ「赤い亡霊集団は、板敷 壮太を連れその場を去った。時間は深夜1時を回るところだった。病院までの道中、阿久津 キョウと塩川 幸太郎は何も語らなかった。病院に到着すると、見知らぬ女が裏口に立っていた。」
塩(なんだこの女…薄気味悪いな…。)
純「…この女!阿久津!お前は先に病室に戻ってろ!」
阿「…塩川さん。あの女性は知り合いですか?」
純「早く戻れって言ってんのがわかんねぇーのか!」
塩「あぁ、阿久津。悪いけど先に戻って白石先生に帰ってきたことを報告してきてくれ。」
阿「え?塩川さんは?」
塩「俺はバイクを駐輪所に停めてから戻る。」
阿「わかりました…。」
ナ「阿久津 キョウは塩川 幸太郎の言うままに裏口から病院内へ戻った。」
塩「純、こいつ誰だ?」
山「ふーん、先に目覚めたのは君の方なのね。」
純「気をつけろ、こいつ俺が見えるみたいだ。」
塩「あ?何者なんだ?」
山「何者…何者ねぇ…。」
純「なにが目的なんだ!いい加減教えろよ!」
山「先ず、実態のないお前。今のお前に話すことはない。力をつけてからにしろ。」
純「な、なんだと!」
山「こっちの男が察して行動してたことに気が付かなかっただろ?」
純「はぁ?幸太郎!どういうことだよ!」
塩「この女の言う通りだ。」
純「それじゃ説明になってないだろ!」
塩「純、阿久津にはお前の声が聞こえてなかったんだよ。」
純「は、はぁ??だって俺はお前と話せてるぞ!」
塩「だが現に、阿久津はお前の呼びかけに答えなかっただろ?」
純「そ、そうなのか?シカトじゃなく…。」
塩「聞こえなかったんだ。」
純「そっか…。」
山「そお…君はこの子の声は聞こえても姿は見えないようね。」
塩「なんでわかんだよ。」
山「だってさっきからこの子の方を向いて話してないもの。」
純「…。」
山「あんた達、あの赤いの倒したいんでしょ?」
塩「あぁ。純の妹を襲ったりするからな。」
純「でもこっちも数揃えりゃ、あんな連中ひねり潰せんだろ!」
山「さて…それはどうでしょ。だって、赤い亡霊には異形も混じってるんだから…。」
塩「なっ…それってどういうことだよ!」
純「人間と異形が共存して組織?わけわかんねぇな…。」
山「あんたたちだって共存してるじゃない。先に病室に戻らせた彼…異形の力を持ってるでしょ?」
純「なっ、なんでそれ知ってんだよ!」
塩「あんた本当に何もなんだよ!あんたも異形か!?」
山「はぁ…。あんなのと一緒にしないで。私は異形を追う者…山村 小夜子よ。」
塩「異形を追う者!?」
山「そっ。私には異形の力はない。」
純「それじゃあんたどうやって異形と対峙すんだよ!」
山「そうね…塩川君だったわね。もう病室に戻らなくていいわ。ついてきなさい。」
純「ちょっと待てよ!」
山「純君…?ついて来るなと言ってもついて来るだろうから、まっ、オマケってことで一緒に来なさい。」
塩「勝手に病院抜け出したら拙(まず)いだろ…。」
山「そお?まぁ、何とかしてくれる人がいるから大丈夫じゃない?」
塩「大丈夫って…?」
山「さ、行くわよ。」
純「どこに!」
山「無眼寺よ…。」
ナ「山村 小夜子は塩川 幸太郎のバイクに跨り無眼寺への道案内をした。ジュラは病棟の窓からバイクで走り去る二人の姿をただ見送っていた。」
ジ「小夜子君…君も動き出すんですね…ふふふ。」
ナ「先に病室に戻り、死んだように眠った阿久津 キョウは塩川 幸太郎が病室へ戻らなかった事を知ったのは翌朝ジュラから説明を受けてからだった。」
第一章 完
次回 第二章
ナ「山村 小夜子に連れられ、無眼寺にて霊力を体得するため修行に出る。一方、阿久津 キョウと鏑矢 右京も異形の力を使わずとも戦えるように、それぞれジュラより紹介された師範により戦闘力を身に着ける。次回 「ambition」」