第16話 「growth」

2024年07月11日

阿久津 キョウ
代(キョウの中の人格)かわる
虐(キョウの中の人格)シイタ
巳堂 泰斗 
鏑矢 右京
唐岩 健


ジ「さて…、これで顔合わせが済みましたね。私はちょっとパーティに呼ばれているのでこの辺で。唐沢君、巳堂さん。後は頼みますね。」

唐「右京、お前は今夜からうちの事務所に居候だ。カンヅメにしてボッコボコにしてやんよ!」

鏑「ちっ…。」

巳「君はうちの道場に来てもらおう。」

阿「はい…。」

神「今夜は一部の人間にだけ会わせたい人がいる。だがこのことについては信頼のおけるメンバーだとしても緘口令(かんこうれい)を敷かせてもらう。」

立「会わせたい人?私にも隠していたのですか?」

神「あ、赤い…亡霊…?」

立「神喰さん!奥へ逃げてください!」

立「破ぁぁぁぁあ!刃弓弾(じんきゅうだん)!」 

神「バックドラフトであいつら全員焼き尽くすぞ!」

第十六話  「growth」


ナ「7月5日 雨 灰川市灰川町。20年前の未解決事件を皮切りに、不可解な事件が巻き起こる。4~5年前、平穏だった灰川町にて再び現れた謎の正体「異形」と「赤い亡霊」。何一つ正体がわからないまま現実と向き合う人間たち。ジュラの提案により、異形と対立するため、肉体強化を図る修行を受け入れた阿久津 キョウと鏑矢 右京。その2人を待ち受けるのは師範と呼ばれる者たちだった。ジュラ達とは別に、この日ある組織が活動を始めた。【ERORRS】(エラーズ)と呼称する集団。ここから灰川市の混迷が始まる。」 

巳「準備は出来たか。阿久津。」

阿「はい。」

巳「君の武力というか…強さはきっと子供にも敵わないだろう。だからこそと言うべきか、先ずは逃げることを覚えてもらう。」

阿「逃げる…こと?」

巳「戦場は一辺倒では成り立たない。そこで訓練方法だが、不規則に発射するようにピッチングマシーンを改良した。君はその3本の白線を踏まないようにボールを避けるんだ。」

阿「反復横跳び…っですか?」

巳「いや、そこに背筋を崩さずに行うことを付け足す。」

阿「姿勢を良くしたまま…難しそうですね。」

巳「約18mの距離から発射される球は硬式のものだ。当たれば痛いが、スタミナが切れ、当たり続ければ重い怪我に繫がる。」

阿「はい。」

巳「さて、今夜はもう遅いから…。」

阿「明日の朝からですか?」

巳「いや?今から 1時間だな。」

阿「え?今から??」

巳「今、君の目の前に異形が現れたら明日にしてくれと説得できるのか?」

阿「あ、いや…それは極論というか…。」

ナ「阿久津 キョウがピッチングマシーンから目を反らしている間に白球が顔面目掛けて発射されていた。」

阿「あ!あぶっ…!ふぅー避けられた。」

巳「いい反射神経だな。だが背筋を伸ばしたまま姿勢を崩すな、」

阿「は、はい!」

巳「なぁ、阿久津…。」

阿「はい?」

ナ「阿久津 キョウが巳堂 泰斗の呼びかけに目を反らしてしまい、白球は阿久津 キョウの顔面を打ち抜いた。」

阿「あ、あごが…。」

巳「今の敵はそのピッチングマシーンだ。もっと真剣に挑め。」

阿「わ、わかりました…。」

巳「敵をイメージしろ。自分が殺されるかもしれないギリギリの恐怖を思い出せ。」

阿「ギリギリの…恐怖?」

巳「ジュラから聞いている。死線をくぐり今がある。そんなお前だからこそ、お前の力を引き出し、出来るだけ活かして、この問題を片づけたいと思ってる。」

阿「わ…あかりました…。」

巳「続けるぞ。構えろ。」

ナ「無造作に飛び交う白球。一発、二発程度なら痛みに耐えられるであろう。だが阿久津 キョウは既に10数発の白球を受けていた。」

阿(怖い…怖い…痛い…ごめ…ごめんなさい…ごめんなさい…もう嫌だ…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…ごめ…)

巳「目を瞑(つぶ)るな!球をよく見て姿勢を正したまま避けるんだ!」

代「ごめんなさい!ごめんなさい!」

巳(ん…。動きが変わった…?)

代「もうしません!ごめんなさい!ごめんなさい!」

巳(さっきまで目を瞑っていたのに、球を見ている…?それどころか受け流している…。)

ナ「巳堂 泰斗はピッチングマシーンを止めた。」

巳「おい。」

代「は、はい…ごめんなさい。」

巳「お前は阿久津 キョウじゃないな?」

代「な…。」

巳「お前は誰だ?」

代「僕は…阿久津 キョウです。」

巳「違うな。阿久津 キョウについては色々聞いている。縁という人格がいるのも知っている。だが聞いている話とは明らかに違う。」

代「…。」

巳「誰だ?」

代「僕は代(かわる)身代わりの代(かわる)。この人の代わりに痛みを引き受けてます。」

巳「それじゃ訓練にならんだろう。全く…。」

代「すみません。でもこの人の精神が持たなくなりそうだったので…。」

巳「しょうがない。んで、代…だったか。お前は白球を目で追い衝撃をかわしていたな?」

代「身体の負担が大きかったので、本当なら避けるつもりでしたが、この人じゃないのもバレてしまうので…。結局バレましたけど。」

巳「はぁ…。反射神経や動体視力、その他もろもろ誰が鍛えても体が覚えれば、もしかしたら本人にもそれが出来るかも知れない。」

代「そんなことが出来るんですか??」

巳「知らん。俺は医学者じゃない。ただ体は一つだ。無意識に体に馴染むかもしれないだろ。」

代「でもこの人は僕みたく出来ません。」

巳「それはお前がその体を客観的に感じてるからじゃないか?代としてもう一度白球を避けてみろ。」

代「避けていいんですか?ならやってみます。」

ナ「巳堂 泰斗は再びピッチングマシーンを起動した。」

巳「胸を張れ!背を曲げるな!直立の姿勢で跳躍だけで避けるんだ!」

代「は、はい!ってこんなの背中がつりそうです!」

巳「今度は2方向から行くぞ!」

代「え!痛っ!」

巳「姿勢を崩すな!後100球!」

代「ひゃっ…100!?」

ナ「あらゆる角度から投げられる白球を代は100球の内、23発を身体に受けピッチングマシーンは止まった。」

代「ぜぇ…ぜぇ…はぁ…疲れた。」

巳「まだ動きに無駄がある。スタミナもない。」

代「スタミナならこの人に言ってくださいよ…あぁ…もう疲れた…。」

巳「明日から本格的に訓練に入る。」

代「え!刀なんて握ったことないですよ?」

巳「馬鹿者、そんないきなり持たせられるか。筋トレをメインとして身体づくりをする。」

代「あ、それならこの人に任せよう。じゃないと縁じゃオーバーワークしそうだし。」

巳「お前…たち?はどういう存在なんだ。白石からはざっくりとしか聞いてないが阿久津 キョウのなんなんだ?」

代「何って…うーん。半身でもあり他人でもあるって感じかな。僕はキョウが受ける身体的な痛みを引き受けてる。」

巳「そうか。それでこの訓練中に現れたんだな。」

代「そう、でも痛いのは僕も辛いから受け流しを覚えたってところです。」

巳「わかった。さて、地べたで寝転がってないで屋敷に入るぞ。」

ナ「巳堂 泰斗は代に手を差し伸べた。」

代「あ、すみません。」

巳(か細(ぼそ)い手だ。出来る限りの訓練をしても果たしてバケモノ相手に戦えるのか…。)

ナ「巳堂 泰斗は代を部屋に案内した。」

代「ここは…?」

巳「息子が使ってた部屋だ。生きていればお前と同じくらいだっただろう。」

代「…そうですか。」

巳「なにも考えず今日は寝ろ。朝5時に起きるからな。」

代「ご!5時!?」

巳「朝の鍛錬だ。」

代「僕は寝てるのでこの人を起こしてください!それじゃ!」

ナ「代は巳堂 泰斗の息子の事には触れず意識を失う様に布団に倒れた。巳堂 泰斗が部屋を後にしようとした時、阿久津 キョウが起き上がった。」

阿「…ここは…痛っ…。体中痛い…。」

巳「お前は阿久津 キョウか?」

阿「はい…誰か出てきたんですか?」

巳「あぁ。代という人間が出てきた。」

阿「そうですか。」

巳「覚えてはいないんだな?」

阿「はい…。」

巳「わかった。毎朝5時起きだ。寝坊してもおこさないから、自分で起きて道場へ来るように。場所は部屋をでて中庭を通ったところにある。ゆっくり休め。」

阿「はい…。巳堂…先生?…いや、師匠かな。」

巳「お前の呼びたいように呼べ。」

阿「わかりました。おやすみなさい…。」

ナ「阿久津 キョウは静かに眠りについた。が、翌朝、異変が起きていた。」


阿「こ、これは…!?」

ナ「加熱式たばこの吸い殻が枕元にあった。そしてカバンのポケットが開かれた状態になっていた。」

阿「僕は一体…そうだ、昨夜は巳堂さんに連れられて…。…ピッチンングマシーンからの球を避けていたまでは覚えてる。そこから記憶がない…。このたばこは僕が吸ったのだろうか?」

ナ「阿久津 キョウは吸い殻をカバンのポケットにしまい部屋を出た。部屋を出たところで巳堂 泰斗 が立っていた。」

巳「時間通りに起きたな。」

阿「おはよう…ございます。時間ってなんですか?」

巳「やはり記憶がないか。昨晩は別の人間が現れた。」

阿「別の人間…?」

巳「その人間に道場に来るように指示したが、お前が起きてくる可能性もあって迎えに来たまでだ。」

阿「…縁と呼ばれる人でしょうか?」

巳「いや、代と名乗っていた。」

阿「そうですか。」

巳「昨晩の練習でお前にはスタミナや筋力をつける必要があることがわかった。今日からの訓練は基礎トレーニングだ。道場の床磨きを毎朝行うこと。」

阿「はい…。」

巳「その後は学校へ通うこと。」

阿「が、学校ですか?」

巳「しばらく休学していたみたいだが、白石が学校へ話をつけ、きちんと授業を受けるなら通学を受け入れるとのことだ。事件の影響もあるだろうから少しずつ通う様にとのことだ。」

阿「わ、わかりました。」

巳「じゃあ道場へ行くぞ。」

阿「あ、あの…。」

巳「なんだ?」

阿「その…筋肉痛で動くのがやっとなんですけど…。」

ナ「巳堂 泰斗は阿久津 キョウを一瞥した後、少し呆けた顔をしていた。」

巳「昨日は夜遅かったから朝風呂に入ってこい。その後、湿布をはって学校へ行け。それと…。」

阿「はい。」

巳「剣道部に入部しろ。基礎の足しになる。」

阿「剣道部ですか?」

巳「門下生を訓練しながらお前を鍛えるのは手に余る」

阿「わかりました。」

巳「これだけは忘れるな。」

阿「はい?」

巳「この馬鹿げた状況を終わらせ、お前はどこにでもいる高校生に戻れ。」

阿「はい。」

巳「わかったら風呂へ行け。」

阿「あの…一つ聞いていいですか?」

巳「なんだ?」

阿「昨日現れた…代というのはその…たばこを吸ったりしてませんでしたか?」

巳「いや、そんなことはしてなかったな。なんでだ?」

阿「あ、いや…何でもないです。」

巳「そうか。風呂場はここを真っ直ぐ行って右に曲がったところだ。」

阿「はい、いってきます。」


ナ「阿久津 キョウは昨晩の汚れを落とすために風呂場へ向かった。シャワーを浴びている途中で突然意識を失くした。浴室で目覚めるが、それは阿久津 キョウではなかった。」

虐「あぁー久しぶりの風呂だ。どんくらい俺は寝てたんだか。それにしてもコイツ、調子こきやがって。腕の傷もなくなってやがる。俺がまたお前を恐怖に引きずり込んでやるよ…くくくっ…。」

ナ「虐は浴室にあったカミソリを使いリストカットをした。風呂場にしたたる鮮血。床は赤く滲んでいた。虐は高笑いをしていた。」

虐「じゃあな!俺はお前が生きている以上、何度でも現れるからよ!はははっ!」

ナ「虐は壁にもたれ、意識を失くした。その後、阿久津 キョウが腕の痛みで目が覚めた。」

阿「うっ…ううっ…うわぁぁぁぁぁぁあ!!」

ナ「巳堂 泰斗は阿久津 キョウの悲鳴を聞き浴室へ向かうと、左腕から出血しているのを発見した。」

巳「これは一体…。」

阿「巳堂さん…わかりません。意識が遠のいて気が付いたら腕が…。」

巳「わかった。とにかくタオルで腕を抑えてろ。今、救急箱を取ってくる。」

ナ「阿久津 キョウは巳堂 泰斗に傷の手当てをしてもらった。だが、阿久津 キョウは恐怖で気分が沈んでいた。やはり自分は存在してはならないのだとネガティブな思考に陥っていた。」

巳「阿久津。お前は異形と戦い、そして自分の過去と戦うことになる。白石に託されただけではなく、責任もって俺がお前を鍛えてやるから安心しろ。」

ナ「巳堂 泰斗は阿久津 キョウの心を見抜くように言葉を発した。」

巳「だからお前はお前自身が内なる者たちと対峙できるよう強くなれ。異形から身を守れるほど強くなれ。」

阿「僕は一体何のために生きているんでしょう。」

巳「お前の場合は自分で死ぬのが怖い、そして生きる目的もない。だからそう考えるのかもしれないな。その心身を鍛えいずれ自ずと結果が生まれるかも知れない。俺はその手伝いしかできない。あとは自分で探せ。」

阿「よくわかりませんが、やれるだけやってみます。」

巳(俺にはわからない事柄だが、どうやって接するべきか…。)

阿「あの…道場の掃除は…。」

巳「今朝はいい。遅刻しないよう学校にいきなさい。」

ナ「巳堂 泰斗は阿久津 キョウを見送り、白石 朧へ連絡をした。」

巳「新しい人格が現れたがどうすればいいんだ?」


続く

次回 第17話「practice」












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