人生のてんき
片山 恭介(かたやま きょうすけ):20代後半 気が弱いところがあるが時として強気な面あり
吹雪 美咲(ふぶき みさき):20代半ば マイペース 行動力あり
片「この後、なにかビデオでも借りて帰る?」
美「うーん、ん?あー、いいよ。」
片「なに観ようか?」
美「えー、なんでもいいよー。」
片「あ!そうだ!美咲…ちゃん。こないだ観たい映画あるって言ってたじゃん?それにする?」
美「ちょっ!まじウケんだけど!見てこれ、ワタルの動画!」
片「え?あ、うん。あはは、面白いね…。」
美「でしょでしょ!あいつバカだよねぇー!ありえなくない?実家の錦鯉と一緒に風呂入るとか!」
片「あ、うん。で、どうする?前に観たいって言ってたダイハード借りる?」
美「きゃはは!ワタルのオヤジめっちゃキレてんじゃん!」
片「ねぇ、美咲…ちゃん。どうする?」
美「え?あー、それ?こないだ飲み会の帰りに、コウタの家でみんなで観たからいいや。」
片「あ…そ、そうなんだ。楽しみにしてたんだけどな…。」
美「え?」
片「あ、ううん。じゃあどうしよっか?」
美「なにが?」
片「いや、何借りるかなって…。」
美「なんでもいいよー。」
片「あ、じゃあさ!俺、観てみたいのあるんだけど…。」
美「なにー?」
片「マトリックス!こないだ友達に勧められてすげー面白かったって!」
美「ふーん。」
片「それでいい?」
美「あはは!まじちょーやばいこれ!見て見て!」
片「あの…。」
美「ワタルってヤバくない?妹の制服着て踊ってんだけど!」
片「そ、そうだね…。」
美「まじ、すね毛ボーボーじゃん!」
片「美咲…ちゃん。聞いてる?」
美「妹めっちゃキレてる!ウケるぅー!フルスイングで回し蹴りとかこの妹もヤバいよね!」
片「なぁ!美咲…ちゃん!」
美「ん?どうしたの?」
片「俺の話聞いてた?」
美「え?あぁ。なんだっけ?えーっと…トップガンだっけ?」
片「ちげーよっ!一文字もかすってねーよ!」
美「はぁ…。タカヤマ。レストランででかい声出すなよ。」
片「いや俺、「片山」な?いつになったら覚えるんだよ!」
美「あ、ショウヤからラインだ。」
片「人の話聞けよ!いつもそうだよ!俺の話なんて聞かなくてさ!」
美「もぉー怒んないでよ。」
片「それにだ!男友達には下の名前で呼ぶのに、なんで俺はいつまでも間違った苗字で呼ばれるんだよ!」
美「ごめんてぇ。」
片「まじ何なの?いつも美咲…ちゃんのわがままに振り回されてさ!こっちの気持ち考えたことあんのかよ!」
美「はぁ…。」
片「すげー惨めだよ。いつもさ…。」
美「タカヤマ…なんかごめんね?」
片「いやだから「片山」だってば!」
美「あ、そっか。」
片「今まで一年間付き合ってきたけど、もう別れよ!」
美「え?」
片「こんなの嫌だよ俺。いつもいつも男友達の動画見せられたり、男友達の家で飲み会やったりって聞かされてさ…。なんだよもう…。」
美「…ごめん。」
片「いまさら謝られても辛いよ!」
美「いや、あたし達…付き合ってたの?」
片「え?」
美「だってコクられてないからさ…。」
片「ジーザス!あーもう!ジーザス」
美「ジーザスってそれどういう意味?」
片「あ、いや、俺もよくわかんない。たまに洋画で悔しがって言ってるの観たからそんな感じかな?じゃなくて!」
美「はぁ…うるさっ。」
片「こうなったら今から美咲…ちゃんに告白する!んで、ちゃんと付き合ってから別れる!」
美「はぁ?何言ってんの?」
片「だって今日なんの日か知ってる?今日は俺の…。」
美「あーもう。ほらっ。」
片「あぁん?なんだこの封筒!」
美「開けて見なよ。」
片「…え?これって…。」
美「誕生日おめでと…。」
片「美咲…ちゃん。」
美「いらないなら返してくれる?」
片「いや、だって…これって…。婚姻届けじゃん…。」
美「そりゃちゃんとコクられてないけどさ、タカヤマがあたしのこと好きなの解ってるし…。」
片「美咲…。」
美「それに一緒にいると安心するからさ。さっきはちょっと意地悪したくなってあんなこと言ったけど、あたしの中では…この人ならずっと一緒にいてもいいかな…って…。」
片「…ほ、本当に?」
美「あ、でもあれだよね?あたしにコクってからフルんだよね。ごめんね。」
片「え!いや、ちょっと待って!」
美「返してくれる?」
片「返さない!」
美「え?」
片「返さないよ!」
美「…いいの?」
片「美咲!本当にごめん!俺いつもヤキモチ妬いてばかりでいたよ。」
美「タカヤマ…。」
片「「片山」な。でもさ、やっぱ俺、美咲のこと大好きなんだ!さっきは酷い事言って本当にごめん!」
美「…ううん。」
片「最高の誕生日プレゼントだよ!へへっ…あれ?なんか…涙止まらないや…。」
美「ちょっ…ここレストランだよ!周りの人が見て…。」
片「本当にうれしい…ありがとう…。」
美「はぁ…。」
片「美咲はやっぱ最高だよ!」
美「ほら、これで拭きな。もー鼻水とかもすごいよ?」
片「へへっ…レストランの紙ナプキンで鼻拭くと痛いね…。」
美「じゃあ…とりあえず、それ、早めに市役所に出しといてね!」
片「はいっ!」
美「それから、あたし、恭介の家に住むから!」
片「はいっ!…え?」
美「だーかーらー、恭介の家に住むって言ったの!」
片「いや、今…恭介って…。」
美「そりゃ当然でしょ!何言ってるの?」
片「へへっ…はいっ!」
美「あと、キャバクラの「ルカ」ちゃんと、職場の後輩の女の子、ちゃんと縁切っておいてね?」
片「はいっ!…え?」
美「…知らないとでも思ってたぁ?」
片「あ、いや…そのぉ…。はい。」
美「今夜中にね!」
片「いや、それは…。」
美「なに?」
片「はいっ!」
美「結婚してから浮気したら…慰謝料がっつりもらって捨てるからね?」
片「はいっ!」
美「ちゃんとケジメつけたら、一緒にマトリックス観よ?」
片「わかった!」
美「ちょっ…いきなり立ち上がったら危ない…!」
片「え?うわっ…うわあああああ…!」
(間)
片「う、うーん…はぁ…。夢か。随分と古い夢を見たな…。」
美「ねぇ!」
片「あの頃の美咲…懐かしいな…。」
美「ねぇってば!」
片「はぁ…今も変わらず…可愛いな…。」
美「背広のポケットから、またキャバクラの名刺出てきたんだけど!」
片「あぁ…今日は日曜日か…もう少し寝よ…。」
美「なに現実逃避してんの!今日中にケジメつけないと、慰謝料たっぷりとって離婚だからね!」
片「はいっ!」
美「まったく…いい歳した妻子持ちのおじさんが!どーせ若い子にデレデレしてんでしょ!」
片「いい天気だな…。なんか…家族がいるって…幸せなんだな…。」
美「本気で前歯折れるまで殴るよ?」
片「はいっ!すみません!」
おしまい