不思議の奇跡

2024年05月26日

佐藤 純太:男 20代半ば 結婚後、交通事故により他界

佐藤 杏奈:女 20代前半 母子家庭に育ち、素行不良が原因で刺殺される


N純(ん…。ここは…?辺り一面真っ白だ…これって霧か…?はぁ…どうなってんだ?なんか…いい匂いのする枕だな…。ん?)

純 「じゃねぇ!ここどこだ!あれ?俺、居酒屋で飲んで…ってみんないねぇーぞ?」

杏「寝息)すぅ…すぅ…。」

純「まじでここどこだ??…灰川町にこんなとこあったか?」

杏「うーん…すぅ…すぅ…。」

純「え?えぇ?誰この子?え?ちょ…おい…!おい!…って…腹に…ナイフ!?うわぁぁぁあ!…死んでる…のか?」

杏「ん…。ふぁー…(あくび)。あーよく寝た。ん?んん?ここどこ。」

純「いや、どことかより前に…あんた痛くねぇーのか!?」

杏「なぁに?もぉ近くで叫ばないで!こっちは飲みすぎてだるいし寝起きなの!それより痛くないかって私のどこがよ。頭なら二日酔いで痛いけど、」

純「いや、腹だよ!腹!」

杏「お腹…?へっ?えぇ!なに…これ?ほ、包丁??」

純「血まみれじゃねぇーか!じっとしとけよ?なにか血を止める方法…。」

杏「ねぇ、ちょっと待って!…あのさ、これ全然痛くないんだけど?」

純「はぁ?お前それ感覚なくなってんじゃねぇーか!」

杏「うーん、そうみたい。でも痛くないならいいや!あはは!」

純「笑ってる場合かよ!とにかく手当するにも何にもねぇーし、ここがどこかもわかんねぇーし、大体俺たちどうやってここに来たかもわからねぇーし!」

杏「あーもう!うるさい!うるさい!うるさぁーい!とにかく私は痛くないし元気!なんでか解らないけどね!」

純「え?…どういうことだよ…。」

杏「ほら!よっ…と!立てるし!歩けるし!走れるよ!」

純「ばっ…ばかか!じっとしとけよ!」

杏「あーもう!あんたうるさい!なんでかわからないけどここにいても仕方ないし、とにかく人気(ひとけ)のある所まで移動しよ!」

純「あぁ…お、俺は一体…今なにを見てるんだ?」

杏「あれぇ?どこだろ…私カバンごと見当たらないんだけど…。 ねぇねぇ、スマホ持ってる?」

純「スマ…ホ?なんだそれ?」

杏「え?知らないの?」 

純「…スマホ?スマホ…やっぱ知らないなぁ。」 

杏「はぁ?信じらんない。バカにしてんの?スマホよスマホ!」

純「バカにしてるわけじゃないけど…そのスマホってなんだ?」

杏「はぁ?…あーもう!携帯よ!」

純「あ、携帯?それなら…ポケットにある!そっか、それで警察か消防に…ってあれ?圏外かよ!」

杏「ねぇ、あんた持ってるのってさ、ガラケーじゃない?」

純「ガラケー?なんだそりゃ。俺が持ってるのはFOME(フォーメ)の最新機種なんだけどな。テレビ電話!B2102Vって奴だ!やっと手に入ったけど…圏外じゃ使えないなぁ。」

杏「なにそれ?ねぇ今でもガラケーって売ってるんだね?そのストラップもダサいよ?」

純「このストラップはお守りなんだよ!それにお前さっきから何言ってんだ?スマホとかガラケーとか、それって専門用語かなにかか?」

杏「ねぇ…それ本気で言ってるの?」

純「それはこっちのセリフだよ。お前の言ってる言葉がわからん。」

杏「もう令和になって6年も経つって言うのにそんな古い携帯使ってるとか…あんた友達少ないでしょ?」

純「ダチなんていっぱいいりゃいいってもんじゃねぇーよ。てか、れいわ?ってなんだ?」

杏「はぁ?まじこいつキモイ!流石にそれはキモイから!」

純「あのなぁ、初対面にキモイとか失礼すぎだろ?俺からしたらお前の方が頭おかしいぞ?
腹に包丁刺さってるのに痛くないどころか歩いてるし、何言ってるかわけわかんねぇーし!」

杏「それ本気で言ってる?だとしたらまじでやめな?モテないどころか空気読めなさ過ぎてひくわ。」

純「別に彼女いっからモテなくてもいいわ!」

杏「まじなんなのこいつ…スマホどころか令和もわかんないとか…ん?」

純「はぁ…早く帰りてぇ…まじでここどこだよ…。」

杏「ね、ねぇ…今って…何年何月何日?」

純「何年?やっぱお前どっか頭打ってんじゃね?」

杏「いいから教えてよ!」

純「はぁ…今は2002年の4月15日だ。」

杏「え?」

純「2002年だっつってんだろ?」

杏「ねぇ、それ本当…?」

純「なんだこいつ。嘘ついてどうすんだよ。」

杏「え?え?…どういうこと??私一体…今、夢でも見てる…?」

純「なぁ、それよりお前、大丈夫か?それより腹に刺さってる刃物怖いんだけど、本当に痛くないのか?」

杏「うん…痛くない。」

純「んー?見た感じ、刺されてる割にはあんま血が出てないような…気がすんだけど?」

杏「そういわれれば…。」

純「まぁ、無理すんなよ?」

杏「ねぇ…。」

純「うん?」

杏「本当に2002年?」

純「まだそれ言ってるのかよ。」

杏「あのね…私の記憶だと…今日は2024年の4月15日なの…。」

純「はぁ?刺されたショックで記憶が混乱してるのか?」

杏「ううん、混乱はしてない。でも事態を把握できてないのは事実。」

純「ま、まぁ…何があったかわかんねぇーけど、とにかくここがどこで、どうやって戻るかを考えよう。」

杏「うん。ところでさ、名前なんていうの?私の名前は佐藤 杏奈。あなたって呼び方好きじゃないから教えて?」

純「あぁ、いいけど…佐藤っていうのか。俺も佐藤なんだよ!佐藤 純太!よろしくな!」

杏「同じ苗字だ!佐藤っていっぱいいるもんね!」

純「んじゃお互い同じ苗字だし、名前で呼び合うか!」

杏「うん!純太はさ、私が2024年だって話したけど…信じてくれる?」

純「信じるとは違うかもだけど、こんな所にいる時点で俺の日常ではないからな。おそらく、不思議なことでも起きてるんだろ。」

杏「順応力高くない?」

純「そもそも杏奈の腹に刃物が刺さってるのに、普通に歩ける方が異常だろ?」

杏「まぁ、そうなんだけど…。え?あれ!?嘘!!」

純「おい、どうしたんだよ?!」

杏「あれ?ねぇ、純太…これ取れたよ?」

純「あん?え!?杏奈…お前それどうやって取ったんだよ!てか刃物抜いたのに全然血が出てないんだけど?」

杏「なんかいじってたら取れた。でもね?全然痛くないの…なんでだろ?」

純「…杏奈お前、よく見たら顔面真っ白じゃねぇーか!ちゃんと脈あんのか?」

杏「脈?ちょっと待って?…え?…あれ?ねぇ、脈ないんだけど…。」

純「はぁ?ちと触るぞ…おい…おいおいおいおい!手首も頸動脈もどこも反応ねぇんだけど…。」

杏「これ…どういうこと?」

純「ちと胸に耳当てるぞ?」

杏「きゃっ!ちょっと!なにすんのよ!」

純「いいからジッとしてろ…おい…杏奈…」

杏「な、なに…?」

純「お前…そんなに細いのに胸デカイからなのかわかんねぇけど…」

杏「ちょっと!最低!」

純「…心音しねぇ。」

杏「え?じゃあ私…死んでるの?」

純「いや、わかんねぇ…なんだこれ?この状態を生きてるとは言わないだろう…。」

杏「じゃあ私死んでるんじゃん!」

純「ちょっと待て…ほら、俺の手首触ってみろ。」

杏「…純太の…脈ある…。」

純「いや、待て待て待て待て!落ち着け俺!どういうことなんだこれは!」

杏「もしかしてなんだけどさ…」

純「お前、ここに来る前に何があった?」

杏「え?なにがって…昨日の夜、京香(きょうか)とBARに行って…ナンパされて…」

純「そんなボディコンみてぇなの着てたらナンパされるわな。」

杏「ボディ…コン?なにそれ?」

純「杏奈の着てる、そういう服だよ。」

杏「これ?これはニットのワンピースだよ?」

純「ニット…?あぁ!セーターとかのやつか!」

杏「ねぇ、すっごく可愛いでしょ?」 

純「…う、うん。目のやり場に困るけど、まぁいいや。それで?」

杏「それで?じゃないよ!もうちょっと聞いて欲しかったのに…」 

純「それは、ここ出られたらゆっくり聞いてやっから。

杏「ふんっ!」 

純「それで、友達とそれ着て、ナンパされて?」 

杏「あー、えっと…結構飲まされて…京香とはぐれて…あ!私、嫌な予感がしたから帰ろうとしたら、そのナンパした男に車でホテル連れてかれそうになった!」

純「お、おう、危ねぇ奴だな…んで?」

杏「抵抗したら…その人…あ!思い出した!私…その男に刺されたんだった…。」

純「…その後は?」

杏「目が覚めたらここだった…。」

純「そっか…。」

杏「ねぇ、私死んじゃったの?やだ…まだ死にたくないよ…!」

純「…。」

杏「純太!私どうなるの!?はぁ、はぁ、はぁ、急に怖くなってきた…いや…いや…いやぁぁぁあ!!」

純「杏奈!おい!落ち着け!…って言って落ち着くわけねぇよな…。」

杏「いやぁあ!怖い!なんで?なんでここ2002年なの!なんで私刺されてるの!なんでこんな白い霧に囲まれたところにいるの!私こんなところ で死にたくないよ!」 

純「ちと抱きしめるけど我慢しろよ?」

杏「死にたくない…、まだやりたいこと、たくさんあるの…!!」

純「わかった!わかったから!暴れるな!今は俺がここにいる!」

杏「いやぁぁぁあ!怖い!助けて!」

純「…杏奈…俺がこうして抱きしめてる感覚わかるか?」

杏「死にたくない…怖いよ…。」

純「俺の声、聞こえるか?」

杏「…うん。」

純「俺が誰かわかるか?」

杏「…純太。」

純「その通りだ。あのな、本当に死んじまったら喋れないし触られてもわからない。」

杏「…。」

純「だからまだ、死んでるていうのは確定してる訳じゃない。俺たちがここに来た理由や、なにか方法があるはずなんだ。」

杏「…でもさ」

純「それを一緒に考えてここから出よう。」

杏「…でも…純太も死んでるのかしれないじゃん…。」

純「はぁ?俺、脈あったろうが!」

杏「ふふつ…あはっ、あはははっ!わかんないよぉー?ここ死後の世界なのかもしれないじゃん!」

純「え?そうなの?」

杏「あはは!そしたら私たち、お互い死人だね!」

純「はぁ…ま、この状況じゃそれが一番答えに近いのかもな。取り合えず落ち着いたみたいでよかった。抱きしめてごめんな?」

杏「やだ!」

純「やだって…。」

杏「もう少しこのまま…本当はまだ怖いんだから…。」

純「…わかった。」

杏「ママ…心配してるかな…。」

純「心配しない親はいないだろ。父親は?」

杏「あのね、私ん家、母子家庭なの。」

純「そっか。」

杏「パパは私が生まれる前に死んじゃったんだって。」

純「あ…なんか、ごめん。」

杏「ううん。私生まれる前だし。ママはいつもパパの話をするとき、嬉しそうな寂しそうな顔してた。」

純「そっか…。」

杏「うん…。」

純「…上手い言葉が浮かばないけど、なんとかしてここから出ような。」

杏「うん。そうだね。はぁー…純太がいてよかった。私一人だったらって考えたらそっちの方が怖くなってきた!」

純「そっか。よし、そろそろ動くか!」

杏「うん!純太…ありがとね。」

純「お礼はここを出た時にな!」

杏「うんっ!そうだね」

 純「…よしよし!」

 杏「ちょっ、やめてよ〜!髪乱れるじゃん」

 純「いいから撫でられとけ!」 

杏「…ねぇ、純太。私ね。本当に2024年に生きてたの。」

純「うーん。」

杏「私が生きてる時間?時代?はね、純太の使ってる携帯電話はほとんど使われてなくて、なんて言うのかな…画面しかない携帯電話を操作するの。」

純「やっぱよくわかんねーわ。」

杏「だよね?」

純「あー!なんか霧がかかってるせいか見通し悪いし、今が何時かわからないから、あちこちふらつかずに真っ直ぐ進むぞ?…迷子になると困るからな。手、繋ぐか?」

杏「うん。」

純「じゃあしっかり握ってろよ?」


(間)

純「まともな道が見当たらないな…。」

杏「ねぇ、純太。」

純「ん?」

杏「私ね、もし死んでるとしたらだよ?」

純「…。」

杏「お母さんに謝りたい。」

純「喧嘩でもしたのか?」

杏「喧嘩…うん。そんな感じ。」

純「そんな感じ?」

杏「さっき話したけど母子家庭だったからさ、お母さんが厳しくて…過干渉だったの。」

純「そっかぁ…。」

杏「私だってもう大人だし自由にしたいけど…。」

純「俺が言うのもなんだが、お父さん亡くして、お母さんは杏奈しかいないし不安なんだろうな。」

杏「お父さんね、バイクの事故で亡くなったんだって。私、車の免許取りたかったけど許してもらえなくてさ。」

純「そっかぁ…。」

杏「お父さん、2004年の春に死んじゃって、お母さんはそれっきり写真とかも閉まったまま。私は全く知らないから色々聞くんだけど、薄暗い表情で教えてもらえないの。」

純「思い出したくないんだろうな。」

杏「唯一教えてもらったのが、バイクで帰宅途中にトラックで跳ねられたんだって。」

純「そかぁ…想像するだけで悲惨な状況だったんだろうな。」

杏「ねえ純太?もしここが死後の世界だったら…お父さんに会えるかな?」

純「馬鹿なこと言ってんじゃねぇーよ。早く帰ってお母さんに安心させてやれ。」

杏「うん…。そうだね。」

純「結構歩いたけど灰川のどこだここは。」

杏「あ!ねぇ!純太!」

純「あ?」

杏「あっち…!あっちに何か明るいところあるよ!」

純「え…明かり?あ、本当だ!」

杏「誰かいるかもよ!」

純「もし電気だったら電線を伝えば街に行けるかもしれねぇーな!」

杏「いってみよ!」

純「…??」

杏「純太?どうしたの?」

純「いや…あの明かり…こっちに近づいてこないか?」

杏「うん、ゆっくりだけど…。」

純「おーい!誰かいるのかー?」

杏「ね、ねぇ純太!明かりが大きくなってく!」

純「ここから出られる出口かなにかか?」

杏「ねぇ、純太…また怖くなってきた。ここから出たら私、本当に死んじゃう気がする。」

純「馬鹿かお前は!今ここで不思議なことが起きてるってことは、この不思議が解けたら杏奈は死んでない可能性だってあるだろ?」

杏「でも純太…。」

純「ったく…しょうがねぇな。ちと待ってろ。」

杏「何してるの?明かりがどんどん近づいて来る!」

純「…よし、取れた!」

杏「取れたってなに?ねぇ!純太!」

純「杏奈、これ持ってろ。」

杏「これって…。」

純「お守りだ。こいつがお前を助けてくれる!そう信じろ!」

杏「あ、ありがと…。」

純「お、おい…なんかお前、少しづつ光のせいか薄くなってってないか?」

杏「え…純太も透けてきてる!」

純「う、うわぁ…!!杏奈ぁあ!」

杏「やだ…消えちゃう…!こわい、こわいよぉ!」

純「杏奈!そのお守り、いつでもいいから返しに来いよ!大事なものだからな!」

杏「わかった!私、絶対に純太を探し出してちゃんと返すね!」

純「やべっ…もう…限界だ…意識が…。」

杏「純太ぁあ…。」

純「う、うわぁ…!!」 

杏「きゃぁー!!」 


(間)

【2024年】

純「うわぁぁあ!はぁ…はぁ…はぁ…。ゆ…夢か。」

純N「俺は光に包まれた後、目が覚めたら居酒屋でも道端でもなく、自分の部屋にいた。彼女からの鬼電で目が覚め、デートの待ち合わせ時間に大幅に遅れ彼女は激怒していた。
更には彼女からもらったストラップも消えいた。」

純「いや、待て!今日は…2002年の4月16日…。ってあれ?なんで日付を確認してんだ?」

純N「彼女の機嫌を必死に取っている内に俺は夢のことを忘れて行った。
それから程なくして、俺は彼女と結婚をした。直ぐには子供に恵まれなかったが、2年後、長女が誕生した。

俺は嬉しくてバイクで病院に向かおうと思ったが、なぜかモヤモヤした気持ちが沸き上がり、バスで病
院に向かった。
長女を出産し疲れ切った彼女に名前を決めてほしいと言われ、思い浮かんだのが「杏奈」だった。月日は流れ、杏奈もスクスクと育ち、中学校へ上がる頃、彼女は倒れた。末期がんだった。
それからというもの、杏奈が寝静まった時にこっそり酒を飲み、悲しみに打ちひしがれていた。杏奈は家事をしながらお互い支え合う様に生きてきた。そんな杏奈も今日で20歳を迎えた。」


(間)

【2024年 杏奈の部屋】

純「おい!杏奈!いつまで寝てんだ?二十歳にもなって…まったく…。」

杏「うっ…うーん…。おはよ。」

純「おまっ!なんてカッコで寝てたんだ??」

杏「ニットのワンピだよ…。え?」

純「そんなボディコンみたいな服着てどこ遊び行ってたんだ!」

杏「ん?んー?…っ!!ね、ねぇ…。」

純「なんだよ。お母さんが見たら泣くぞ?」

杏「今、何年何月何日?」

純「はぁ?2024年4月16日。お前の誕生日だろ?」

杏「も、もしかして…純太?」

純「お前!父親を呼び捨てにするな!馬鹿たれが!」

杏「帰ってきてる…あの場所から…。あ!傷!ねぇ!純太!お腹に傷がないか見て!」

純「おまっ!裾をめくるな!なんつぅーパンツはいてんだ!」

杏「もぉそんなこといいから!」

純「お母さんに似てすべすべだぞ?」

杏「なに触ってんのよ!変態!」

純「何言ってんだ?お前が…。」

杏「傷が…ない!?いき…てる?」

純「お前飲みすぎか?っていうか手に何持ってるんだ?」

杏「あれ…これ…ストラップ…?」

純「お、お前…それ!それどこで…!うっ…なんだこれ…頭の中が…!」

杏「お、お父さん…私も気分悪い…。」

純N「二人してそのまま意識を失った。目が覚めたら昼を回っていた。」


(間)

杏「うーん…すぅ…すぅ…。」 

純(ん…。ここは…?リビングか…?なんか…いい匂いのする枕だな…。ん?)

杏「ん…んん…お、おーもーいー…って!お父さん!なんで私の胸で寝てるのよ!」

純「うるさいな…ってあれ?こんなこと前にも…。」

杏「ねえ!純…あ、お父さん!聞きたいことがあったの!白い霧って覚えてる?」

純「え?…あ…ああ…!あの不思議の場所…杏奈…お前…。」

杏「今はっきりと思い出した!あの霧の場所でお父さんに会う前は、お父さんは私が生まれる前に死んでいたの!」

純「…お父さんも思い出した。あの時の杏奈は刃物で刺されて死んでた…。」

杏「そう!でも今日私が起きたらお父さんは生きていてお母さんが死んでるの。」

純「あの時お前に会った俺は、その後バイクの事故で死んでいたってことか?なぜ俺は生きているんだ?」

杏「それは私にもわからないよぉ。でも今こうしてお互い生きて再会できているのが現実なの!」

純「もしかして…!このストラップが引き合わせたのか?ふん…まさか、そんなオカルトめいた話が…。」

杏「でもお父さんも覚えてるんでしょ!なぜあの場所にいたのか、どうやって行けたのかわからないけど、私は初めてお父さんに会えた!」

純「…!うーん、なんか記憶がこんがらがっているけど、俺は杏奈が無事でよかった。」

杏「ねぇお父さん。」

純「お前が無事で本当によかった!」

杏「ちょっ、抱きしめるのは後にしてよ!」

純「あ、ああ。」

杏「今から「もしも」の話をするね?」

純「もしも?」

杏「私はナイフで刺されたことであの霧の場所に行けたとする。」

純「…。」

杏「お父さんは友達とお酒を飲んでたんだよね?」

純「あぁ。」

杏「お母さんは病気になる前…その半年くらい前から具合が悪かったでしょ?」

純「…お前まさか!」

杏「同じ状況を再現すればお母さんを助けられるかも知れないじゃん!」

純「ダメだ!」

杏「なんでよ!だからもしもだよ。」

純「ダメだ!絶対にダメだ!」

杏「でも!」

純「あれは夢だったんだ。とてもリアルな夢だったんだ!それに…お父さんはお母さんのことがとても好きだった。今でも変わらない!」

杏「だったら!」

純「そんな最愛のお母さんから生まれたお前が一番大事だ!もしも!もしもお前がそれを再現するような真似でもしてみろ!最悪の結果になってみろ!…お父さんはもう…家族を失いたくないんだ。」

杏「…わかった。」

純「…」 

杏「…」

純「…すまない 。」

杏「ううん。ごめん。」

純「あのな、そのストラップに書かれた文字はお母さんのイニシャルなんだ。」

杏「え?あ、本当だ。」

純「一旦お父さんに返してくれ。」

杏「う、うん。」

純「…ありがとう。そして、このストラップは杏奈にプレゼントする。」

杏「え?う、うん、ありがと。」

純「ちょっと待ってろ。お母さんの形見を持ってくる。」

杏「うん。」

(間)

純「このストラップ。これは俺のイニシャルが書かれてて、ストラップ同士を一つのプレートにもなるんだ。」

杏「え!素敵!」

純「杏奈。…ちょっとお母さんの仏壇へ行こう。」

杏「うん。」


(間)

純「お母さん、あの日失くしたストラップ…出てきたよ。杏奈と俺を守ってくれてありがとう。不思議な話だけど、あのストラップは杏奈が持ってたよ。」

杏「…。」

純「生前に結婚する時はこのストラップを繋げて飾ろうって約束してたね。デートとか色々いつも待たせてばかりでごめん。」

杏「…。」

純「具合が悪いのに気付くのが遅くなってごめん。」

杏「お父さん…。」

純「君からもらったお守りは22年ぶりに手元に戻ってきたよ。2人のストラップを繋ぎ合わせて杏奈に送るね。」

杏「泣き声)うっ…ううっ…。」

純「本当にごめん。でもたった10数年でも君といられたこと、杏奈と一緒に暮らせたこと、君の優しさや怒った顔、温もりも全部、俺の大事な宝物だよ。」

杏「お母さん…本当に不思議なんだけど…生きてるお父さんに会えたよ。。純太って、うるさい し、強引だけど…優しくてお母さんの事大好き過ぎてほんと…本当に…最高のお父さんだね!」

純「…さぁ、今夜はお母さんが好きだったロールキャベツでも作ろうかな。」

杏「ちょっ、まっ!お父さん料理下手だから私が作るよ!」

純「そっか。なぁ、お母さん。杏奈は今日で二十歳になったよ。」

杏「もうお酒も飲めるよ!」

純「あー!そうだな!はははっ!…さてと、気づけばこんな時間だ。このストラップ、大事にするんだぞ?」

杏「ねぇお父さん、これどうやって繋ぐの?」

純「お前、知恵の輪、苦手だろ?貸してみ?」

杏「なんかムカつくんだけど。」

純「…よっと…ほら!この通り!」

杏「わぁ本当だ!一枚のプレートみたくなる!」

純「失くすなよ?」

杏「失くさないよ!お母さんの遺影の前に飾るんだもん!」

純「それが一番いいか!ははは!」

杏N「ストラップを遺影の前にかざした瞬間、突然、スモークを焚いたような霧と共に光が広がった。」

純「うわっ…なんだこれ!」

杏「お父さーん!」

純「光に…吸い込まれる!」

杏「お父さんっ!助けて!」

純「杏奈ぁぁぁぁぁあ!」

杏「…あ!これってもしかして…。」


(間)

【2014年 杏奈の部屋】

杏「んっんん…。ここは?…私の部屋?…はっ!今は何年何月何日?…2014年?それって…」 

純「杏奈!部屋に入るぞー。いつまで寝てるんだ?今日お母さん退院の日だぞ!」

杏「お父さん?!大丈夫だったの?」

 純「あぁ、大丈夫だ!」

 杏「よかったぁ」 

純「それよりも、支度早くしろよ!母さん似合いに行くんだらからな!お前も楽しみだろ?」 

杏「うん!わかった!急いで支度するから!!」

(間)

純「忘れ物ないか?」

杏「うん!だいじょう…あ!ちょっと待ってて!」

純「ったく、誰に似たんだか。」

杏「…お・ま・た・せ!」

純「何を取りに行ってたんだよ。」

杏「へへーん!お守り!」

純「退院するのにお守りって…。」

杏「いいの!手術は成功したけど念には念をってね!」

純「お前!そのストラップ!どっから持ってきたんだよ!」

杏「ないしょー!」

純「中学生にもなって、ないしょーって子供か!」

杏「こーどーもーでーすぅー!」

純「はいはい。大人になったり子供になったり大変だなお前。」

杏「私が将来、遊び歩かないようにちゃーんと育ててね?純太!」

純「お父さんだろ!」

杏「へへへ。」


純(あの不思議な体験は一体なんだったのだろうか。俗にいうタイムリープだったのだろうか。灰川町では不思議なことが起きると噂をされているが、なんにせよ、また家族3人で元気に暮らせてよかった。)

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