異次元合コン(A)

2024年04月21日

全員同じ会社勤務:男は営業部、女は総務部
風見 秀平(かざみ しゅうへい):28歳。合コン主催者。東京都墨田区在住。眼鏡男子。
坂下 隆貴(さかした りゅうき):28歳。東京都江東区在住。
川城 観月(かわしろ みづき):23歳。OL。千葉県柏市在住。
井上 涼香(いのうえ りょうか):24歳。川城 観月とは大学からの友達。千葉県松戸市在住。


坂「なぁ、風見!合コンをセッティングしてくれて本当にありがとな!」

風「水臭いこと言ってんなよ!お前が総務に可愛い子がいるって教えてくれたから頑張ったんだよ!」

坂「でもよ?くっそ可愛くなかったか??」

風「いや、まじでくっそ可愛い子だな!」

坂「だろ?」

風「お前どっち狙ってんの?」

坂「いや、まだ決まってねぇんだよ。」

風「んじゃ、被らないようにしねぇーとな!」

坂「んで、気に入ったら…。」

風「お持ち帰りしますか!」

坂「まじほんと最近ストレス溜まってっからなぁー…たまにはいい女抱きてぇしなぁ!」

風「実はよ…俺こんなの持ってんだけど!」

坂「なにこれ!?お前これって…。」

風「第二営業部の田山いただろ?」

坂「え?田山って確か事件起こして首になったろ?」

風「そそそ!女の子眠らせて…」

坂「ば、ばか!お前そういうのは流石によくねぇーよ!」

風「大丈夫だって!実はな?自分で試してみたんだよ!」

坂「え?どうなった?」

風「それがよ、まぁ酔いの周りは早いかなぁーって程度で、あんま効かないけど、二袋入れて飲んだら爆睡!」

坂「んじゃ、調整出来るってことか?」

風「あぁ、任せろ!」

坂「頼りになるなブラザー!」

風「そいつは一夜を過ごした後に言えよ…相棒。」

坂「そいつも握らせてから言えよ…ふふっ。」


井「ねぇねぇ、今日の飲み会ってさ、営業の人達なんでしょ?」

川「そーなんだけどねぇ…。」

井「なに?なんかあんの?」

川「なんかさぁ…パッとしない店なんだよねぇ。」

井「え?どこ?」

川「鳥道楽。」

井「焼き鳥?いいじゃん。美味しいし!」

川「まぁ、フレンチとかって堅苦しいわけじゃないけどさぁ、なんか飲ませる気満々みたいでさぁ。」

井「えぇー、私明日も合コンなんだよねぇー。」

川「え?なにそれ?聞いてないんだけど?」

井「だって観月の知らない人達だもん。」

川「そっかぁ…で?どんな人?」

井「証券会社の営業だったかな?」

川「今日の合コンよりレベル高いじゃん!」

井「あ!そだ!そんなことより今日の合コンって坂下さん来るんでしょ?」

川「え?うん、来るみたいだよ?」

井「あの人さ、いっつも同じネクタイだよね?」

川「そうなの?」

井「そぉそぉ!今時、営業でペイズリーは中々いないよ?」

川「あー、私ペイズリー苦手!」

井「あ、そろそろ鳥道楽だね!取り合えず今夜はご飯中心にしよーっと!」

川「ちょっと待ってよ!涼香!」


(自動ドアの開閉音)

風「あ、おい!坂下!来たぞ!」

坂「お!どれどれ…やっば私服もめっちゃ可愛いじゃん!」

川「お待たせしましたぁー!ちょっと仕事長引いちゃってぇー!」

井「初めましてこんばんはぁ!」

坂(お、おい!俺…川城ちゃんがいいんだけど席変われよ!)

風(待て、今変わったら下心丸出しなのバレんぞ?あとでトイレ行ったら変わるから!)

川「あのぉー…。」

風「え?あ!ごめんごめん!俺たちも今さっき来たところなんだよ!なぁ?」

坂「え?30分前からいただろ?」

井「えぇー!お待たせしちゃいましたかぁー?」

風「(バッカ!おめぇー!変なこと言うなよ!)き、今日は取引先回りがこの辺だったから早めに来たんだよな?ははは。」

坂「え?あ…おおお!そうそう!ちょうど日本橋にある商社で打ち合わせでこの辺いたんだよな!」

川「は、はぁ…。」

風「えっと…取り合えずお酒頼もう!ここ飲み放題だから何でも好きなの選んで!」

川(ちょっ…飲み放題って…。)

井「えっとぉ、私これ飲みたいんだけどいいですかぁー?」

風「え?どれどれ?朝摘みオレンジの生絞りミモザ…。」

川「飲み放題じゃないんですけど…ダメですかぁ?」

坂「いや!全然いいよ!じゃんじゃん!飲んじゃって!」

風「お、おん!飲みたいの頼んで!」

川「じゃあ私はこれかなぁ…レッドアイで!」

風「そしたら俺たちは生でいいよな?坂下?」

坂「え?ゴム持ってきたぞ?」

井「え?」

風「(ちょっとお前黙ってろ!素人童貞!)えっとぉ、あと二人とも何食べる?」

川「じゃあ…(ってほとんどカロリー高そうなもんばっかじゃんか…)」

風「え?」

井「あ、いやなんでもないよね!観月?」

川「先ずは漬物の盛り合わせと…お刺身がいいな!」

坂「ここの焼き鳥も美味しいんだよ!特にタレ!」

風「そそ!ここのタレは美味いよな!」

井「(タレもいいけど…あ!)私はこれがいいなぁ…鳥刺し!」

風「鳥刺しもいいねぇ…んじゃ後はこの串盛りと鶏の唐揚げと…坂下、お前は?」

坂(川城ちゃん…可愛いなぁ…)

風「おい、坂下!」

坂「え?あぁ、俺あれ、ポテトフライ。」

川(高校生か!)

井(待って観月!高校生は居酒屋に入れないからそこは「大学生か!」よっ!)

川(いや、そこじゃなくて…。)

風「じゃあ注文を送信して…。それじゃお酒が届く前だけどそれぞれ自己紹介でもしますか!んじゃ坂下から!」

坂「え?俺?あーえっと…坂下 隆貴(さかした りゅうき)、第一営業部で得意先を回ってます!住んでるところは江東区で、大学時代はラグビーやってました!同じ会社なのでこれからよろしくお願いします!」

(拍手)

風「じゃあ次は…川城さんからお願いします!」

川「あ、はい。えっと、川城 観月(かわしろ みづき)と言います。総務部で事務仕事を主にやってます。趣味は料理とお出かけです。最近ハマってる料理は自家製のパンチェッタで、カルボナーラを作ったり、休みの日はチーズタルト作ったりします!いつか誰かに食べてもらいたいなって思ってます!へへっ。」

(拍手)

坂「か、かわいい…。」

風「じゃあ次は…。」

井「はい!井上 涼香(いのうえ りょうか)です!観月とは同じ大学で、同じ会社に入社できると思いませんでした!私の趣味は、フラワーアレンジメントやハンドメイドです!このポーチも自分で作りました!いつか「お財布」が作れたらいいなぁーなんて夢見てます!」

(拍手)

風「はい、じゃあ3人とも自己紹介が終わったところで、最後にわたくしが自己紹介をさせていただきます!」

坂「よっ!ヒューヒュー!」

風「(ヒューヒューって古いなコイツ)ごほん。えー、わたくし、風見 秀平(かざみ しゅうへい)と言います。隣にいる坂下とは同期で、互いに営業成績を上げるべく切磋琢磨し…」

川「あ!お酒来ましたよ!風見さん!」

井「料理も美味しそう…!」

坂「取り合えず酒も来たし、乾杯しようぜ!風見!」

風「え…あ、うん…。じゃあかんぱーい…。」

川「かんぱーい!」

井「かんぱーい!」

坂「今夜の出会いに…乾杯…ふっ。」

風「だから一々古いんだよお前は!」


(一時間後)

坂(なぁ、そろそろ席変わってくれよ!)

風(え?あぁ、そうだな…んじゃトイレ行こうぜ?)

川「私ちょっと飲みすぎたのでお手洗いに行ってきます!」

井「えー!じゃあ私もいくぅー!」

風「あ、ちょっ、ちょっと待って!俺たちもちょうどトイレ行きたかったからさ!先にいいかな?」

井「えぇー!じゃあ先輩ですしぃー!お先にどーぞぉー!」

川「私たちは後輩だしねぇー!ここは先輩を立てないと!」

坂「え?立てる!?」

風「いいから行くぞ、素人童貞!」

坂「ちょっ、お前さぁ、それ言わなくてもいいじゃん!」

風「早く!ほら!あ、二人ともお酒足りる?頼んどくよ!」

川「ありがとうございます!いってらっしゃーい!」

(少し間を空けて)

井「行った?」

川「…うん、行った!」

井「見た?本当にペイズリーだったでしょ?」

川「うんうん!本当だった!」

井「それに風見先輩の胸ポケット見た?ボールペン刺さってたよ?」

川「あー、なんか営業マンって感じだよねぇー。」

井「じゃあ、そろそろ面倒臭くなってきたから、この薬、あの二人のお酒に入れちゃおうか!」

川「え?なにそれ!?」

井「睡眠薬!前に第二営業部の田山さんていたでしょ?」

川「田山さんって確か事件起こして首になった人でしょ??」

井「そぉそぉ!凄く効くんだって!」

川「なんでそんなの持ってるの??」

井「それはアヴァンチュールな大人の秘密!うふっ!」

川「うふっじゃなくて!」

井「田山が使ってた薬よ!効果覿面(こうかてきめん)なはず!」

川「えっ…じゃあそれを飲ませたら…帰れる?」

井「もちろん!まじで風見の話つまんないしさぁー、坂下はペイズリーだし。」

川「坂下の私を見る目がなんか蛇に睨(にら)まれてるみたいでちょっと…。」

井「じゃあ入れるよ!」

川「あ!早くして!戻ってくる!」

井「よし!完璧!」

風「お待たせ!」

坂「いやいやいやいや…お待たせ!観月ちゃん!」

川「え!目の前!」

井「じゃ、じゃあ私たちもトイレ行こうか!ね?観月!」

川「え?あ、う、うん!そうね!」

風「いってらっしゃい!」

坂「早く帰ってきてねー!」

風「…よし、行ったな。」

坂「やっと川城ちゃんの前に座れたよ!おせぇーよ!」

風「バカ!これはお前に対して席替えをしただけじゃなく…これを入れるタイミングを計ってたんだよ!」

坂「え?お前それ本当に使うのか??」

風「さっきからあの二人、アルコールの低い飲み物ばっか飲んでたからな、多少多く入れても酔いの周りが速いだけだ!」

坂「お前…なんか今めっちゃ悪い顔してるけど…頼れるな!!」

風「そして…俺の計算はまだ終わらない…。」

坂「え?なになに?」

風「あ、どうも…飲み物そこ置いといてください!」

坂「なに?新しいの頼んだの?」

風「あぁ、俺がトイレに行く前にな!」

坂「んで?どうすんだ?」

風「飲みかけのドリンクに薬を入れるんだよ!」

坂「え?なんで飲みかけ??」

風「ばっか!本当お前ばか!いいか?新しいドリンクが届いてる、席にグラスがいくつもあると邪魔、するとどうする?」

坂「…飲みかけを…飲み干す?」

風「ザッツライ!」

坂「でもそんなに上手くいくのかよ?」

風「あぁ…奴らは酔ったふりをしてる。冷静な判断が出来ないふりを演じさせるんだ。」

坂「…つまり?」

風「全員で飲みかけを一気するように持ち掛け、ノリで俺たちに合わせるように仕向けるんだ!」

坂「お前…天才かよ…。」

風「任せろ…あ、帰ってきた!」

井「お待たせしましたー!」

坂「あれ?そこ川城ちゃんの席だよ?」

川「あれー?酔ったのかなぁー?間違えちゃった!えへっ!でももうあまり動きたくないから私ここでいいやー!」

井「私もー!さぁ!先輩!飲みましょう!」

風「よぉーし!みんなそんなに残ってないよな?飲みかけを一気するぞー!かんぱーい!」

川(あ!飲むよ!)

井(シッ!怪しまれないように私たちも飲むよ!)

川「かんぱーい!」

井「かんぱーい!」

坂「君たちの…瞳の星空に…乾杯…ふっ。」

風「なんだこいつ。」

(4人とも飲み干す)

坂「ぷはーっ!くぅー…。」

風「ぶはぁ!」

川「おいしー!」

井「もぉー飲めない!」

坂(本当に…飲んだ!)

風(ふっ…計画と…お…あれ?)

坂「あ、あれ…?なんか…酔いが…。」

風「やばっ…ね、寝そう…。」

(風見、坂下のいびき)

川「…寝た?もしもーし…風見せんぱーい…?」

井「ふふふ…寝たようね!」

川「あー、やっと帰れるぅー!」

井「そうね!長居は無用だわ…でも、まだ料理とお酒残ってるし、頂いてから帰りましょ!」

川「まーじ、ほんとダルかったぁー!」

井「んじゃ、改めて!乾杯!」

川「かんぱ…あれ?」

井「え…なにこれ…?」

川「ね、眠くなって…きた…。」

井「ま、まさか…。」

(川城、井上の寝息)


(波の音)

風「う…うーん…。なんだ…この感触…。」

井「あん…ダメだってぇー…ゆうや…。」

風「柔らかい…なんだろ…。」

井「そんなとこ…触っちゃダメ…。」

風「…ん…ゆうや…?はっ!なんだこりゃ!」

井「手が…汚れちゃうでしょ…。」

風「く!くらげ!?」

井「家に帰ったら…ちゃんと洗おうね…むにゃむにゃ…。」

風「え!井上さん!?てかここどこ??海!?」

井「うーん…もう…うるさいなぁ…。ん?どこここ?」

風「あ!起きた!な、なぁ!俺たち鳥道楽にいたよな!?」

井「え?海…綺麗…。」

風「あぁ、綺麗だな…じゃなくて!どうなってんだ??俺は確か酔いつぶれて…え?覚えてない!」

井「私たちも先輩たちが寝た後に…え?なんにも覚えてない!」

風「あれ?坂下は?川城ちゃんは?」

井「ね、ねぇ!どういうこと!?」

風「いや、ちょっとよくわかんないけど…俺たちどうやってこの砂浜に来たんだ?」

井「え?わかんない…ていうかここどこなの!?あ!スマホ…ってカバンも何もない!」

風「俺もだ…。」

井「見渡す限り海と…林?」

風「…なぁ。」

井「え?」

風「見ろよ…砂浜…。それと俺たちの周りも。」

井「ちょっと何?景色に見惚(みと)れてるの??」

風「違う!おかしくないか?」

井「え?いや、もう既にこの状況がおかしいけど?」

風「そうじゃない。足跡が一つもないんだ。」

井「え?…ほんとだ…。」

風「なぁ…もしかするとだけどさ。」

井「え?なに?怖いんだけど!」

風「俺たち…無人島にいるんじゃないのか?」

井「ちょ…どういうこと?」

風「だってさ、おかしいだろ?見渡す限り砂浜に足跡一つないんだぜ?」

井「それは風や波が…」

風「だったら何故?俺たちの足跡もないんだ?波がさらってったなら、俺たちの服が濡れててもおかしくないだろ?」

井「あ、確かに…。」

風「人の気配もしない…。可能性は低いが、坂下たちを探そう。」

井「どうやって?」

風「先ずは、この島を探索からだな。」

井「え、やだ。」

風「は?」

井「だってこの靴まだ買ったばっかだし、歩きにくいもん。」

風「はぁ…んじゃそこにいろ。俺は探してくる。」

井「え、ちょっと!一人にしないでよ!」

風「はぁ?」

井「だってもし!もしだよ?ライオンとかいたら私、襲われちゃうじゃん!」

風「はぁ…いねぇよ動物も。」

井「なんでわかるの??」

風「砂浜になんの足跡もねぇーんだぞ?」

井「で、でも…。」

風「はぁ…わかったよ。お前それ脱げ。」

井「え!ちょ、ちょっと!何考えてるの!?変態!」

風「変態?何言ってんだ?靴だよ靴!」

井「え?靴?」

風「ちと履きづらいだろうけど、俺の靴履け。」

井「なによ!偉そうに!」

風「いいから!日が暮れる前に行くぞ!」

井「日が暮れる前?今何時?」

風「時計がないんだからわからねぇーよ!だから急いでるんだろ?」

井「…はい。ごめんなさい。」

風「あ、いや。ごめん。ちょっといきなりの事で気が立ってた。」

井「ううん…。これ…ブカブカ。」

風「ブカブカでも、林では痛くないだろうから。」

井「えっ…。」

風「さぁ、行こう。」

井「…うん。」

(林の中を探索中)

風「くそっ!蜘蛛の巣だ!…井上さん、大丈夫か?」

井「…ちょっと待って…歩きにくいし…疲れた。」

風「…参ったな…。確かにもう1時間くらい歩いてるけど、人の気配が全然ないもんな。」

井「少し休みたい。」

風「わかった、もう少しだけ頑張れるか?あの先に少し広い場所がある。そこまででいい。歩けるか?」

井「…うん。足の皮がめくれてるからゆっくり歩いてね?」

風「え?大丈夫か??」

井「…うん。」

風「俺の上に乗れ。」

井「え?」

風「あそこまでおんぶしてくから俺の背中に乗れって言ってんの!」

井「ちょちょちょ…ちょっとぉ…。は、恥ずかしい…。」

風「数分だけ我慢しろって、ほら!」

井「…わかった。」

風「せーの!よっ!」

井「わぁ!」

風「しっかり掴(つか)まっとけよ?」

井「えっと…あの…重くないですか?」

風「あぁ?スタイル良い奴が重いわけねぇーだろ!」

井(きゅん…やだ…なんかドキドキしてきた…)

風「あと少しの辛抱だからな?」

井「う、うん…。」

風「はぁ、はぁ、はぁ…はぁー---!着いたぁ!」

井「…え?もう?」

風「そこの岩に降ろすぞ…。」

井(もう少しこのままが良かったな…。)

風「足、見せてみ?」

井「え?」

風「擦りむいてんだろ?」

井「うん。」

風「あー、真っ赤だな。手当てするにも水がないな。」

井「うん、でも大丈夫。」

風「一晩、耐えられるか?」

井「うん、ただの靴擦れだし。でもなんで一晩?」

風「今が何時かわからない以上、今のうちに火を起こしておかないとと思ってさ。」

井「そっか…電気ないんだ。」

風「取り合えずポケットの中身は…不思議とあるな。先ずは枯草と湿ってなさそうな小枝を探してくる。」

井「一人はやだ!」

風「大丈夫だ、その辺のものを拾ってくる。でも一応なんかあったら大きな声を出せよ?」

井「うん…怖いから早く帰ってきてね?」

風「行ってくる。」

井(暑苦しい感じのタイプの男の人ってイメージだったのに…。え?なに?もうおんぶから降りてるのに…またドキドキしてきた…うそっ…。)

風「ただいま。」

井「わぁ!びっくりしたぁ!」

風「どうした?」

井「う、ううん!な、な、な、なんでもない!」

風「そっか、よくわかんないけど、火を起こすの手伝って欲しい。」

井「は、はい!」

風「俺の眼鏡で代用できるか不安だけど…。」

井「どうするんですか?」

風「偶然にもこの辺りは太陽を遮るものがない。だけどこの面積だとそんなに陽の当たる時間は長くない。だから眼鏡で火を起こす!」

井「そんなことできるの?」

風「光を集められれば出来なくない。虫眼鏡みたいなレンズじゃないけど…これでダメなら他の方法を考える。」

井「そんなことどこで覚えたの??」

風「知らん。でも可能性があればやってみる価値はあるだろ?」

井「ま、まぁ…確かに…。」

風「…おい…出てきた!煙出てきた…!この煙ら辺に息吹きかけて!」

井「え!は、はい!ふーふー!」

風「もっと!もっと強く吹いて!」

井「はい!ふぅー!ふぅー!」

風「あ、消えた…。」

井「ご、ごめんなさい!」

風「井上さんのせいじゃないよ。しかし困ったな…いい案だと思ったのに…。」

井「先輩…あの…。」

風「ん?」

井「その胸ポケットのボールペンで枯葉を黒くしたらどうですか?」

風「え?あ、ボールペンだ!流石じゃん!」

井「あ、いや…可能性…ですよね?」

風「あぁ!でもきっと上手くいくよ!ありがとう!」

井(あっ…またドキドキしてきた…。)

風「よし!これだけ黒くすれば大丈夫だろ…。お!今度は煙が出るのが早いぞ!」

井「わぁー!凄い凄い!」

風「じゃあ息吹きかけて!」

井「はい!ふぅー!ふぅー!ふぅー!」

風「その調子だ!」

井「はい!ふぅー!ふぅー!ふぅー!…ごほっごほっ…。」

風「大丈夫?俺が代わるから眼鏡持っててくれ。」

井「あ、はい。」

風「ふぅー!ふぅー!ふぅー!」

井「あ!先輩!少し火が点きました!」

風「よし!ふぅー!ふぅー!ふぅー!」

井「先輩!火が!火が点きました!」

風「うぉぉぉお!まじで燃えた!」

井「どんどん燃えてきました!」

風「いいか?そっと、それを…。」

井「枝の山に入れるんですか?」

風「…ふぅー!ふぅー!ふぅー!」

井「うわぁ!燃えてきた!」

風「やったぁぁぁぁあ!井上さん!やったよぉ!」

井「風見先輩!やりましたね!あはは!」

風「ありがとう!井上さん!」

井「あはは!すごーい!あっ!」

風「あっ!ごめん!嬉しくてつい抱きしめちゃった…。」

井「あ、いえ…それより先輩!これで夜も過ごせますね!」

風「お、おう…。でも木が心もとないな。もう少し拾ってくる。」

井「あ、私も行きます!」

風「ありがとう。でも火が消えたら大変だから見ててほしい。」

井「そ、そうですね…。」

風「またその辺で拾ってくるから、ちょっと火が消えないように頼むね?」

井「わかりました!頑張ります!」

風「じゃあ行ってくる。」

井(どうしよう…私…風見先輩のこと…好きになっちゃったかも…。っていうか遅いな…。早く帰ってこないかな…。)

風「ただいま。」

井「うわっ!びっくりしたぁー!」

風「ん?あぁ、後ろからごめん。」

井「あれ?ちょっと遅かったけど、あまり小枝とか落ちてなかったんですか?」

風「ん?いや?ついでに木の実を採ってきたんだ。」

井「え?それ食べられるんですか?」

風「一応、俺が食ってみた。多分だけど大丈夫。苦くなかった、むしろ甘くて美味かった。」

井「そ、そうなんですか?と言うかいきなり食べてみたんですか?」

風「おぉ。食ってみないとわかんないし、そんなもん食わせられないだろ?」

井「そ、そっか。」

風「はい、これは甘かった。こっちは甘酸っぱかった。食べてみな?」

井「はい…あ、美味しい!なんだろこの果物!」

風「わかんないけど、あっちにいっぱいあった。」

井「こっちも美味しい!」

風「段々、陽が落ちてきたな…。」

井「そうですね…。」

風「焚火を焚いといて正解だったな。」

井「そうですね。」

風「なぁ…ここってさ、本当に無人島みたいだね。」

井「そうなんですか?」

風「空…見て見て?」

井「空?…あ、星…。」

風「うん。どんどん暗くなるときっと星が沢山見えるんだろな…。」

井「ずっと都会にいたらこんな体験出来ないですよね…。」

風「そういやさ、最初に海で目が覚めた時、寝言言ってたんだけど…。」

井「え!?やだ!!私なんか言ってましたか??」

風「あー、ゆうやって言ってた。」

井「え!!ゆうやって言ってましたか!?は、恥ずかしい!!」

風「うーん、こんなこと俺が言うことじゃないかもしれないけどさ…。」

井「いやぁーもう本当恥ずかしい…。」

風「彼氏いんのに合コンとかはあまり…よくないと思うんだ。」

井「え?」

風「だってさ、言ってないんでしょ?今日の事。」

井「誰にですか?」

風「その、ゆうやって人。」

井「え?あー!あはは!勿論言ってきましたよ!」

風「え?怒られないの??」

井「うーん、帰りが遅いと凄く甘えてきますけどね!うちのゆうや君、まだ2歳の犬ですから!」

風「い、犬!?」

井「はい、飼い犬です!めっちゃ可愛いんですよ!トイプードル!見ます??」

風「ペットだったのね?どんな子なの??」

井「えっと…。あ、スマホ無かったんだ…。」

風「あー…。んじゃさ、戻ったら見せてよ!」

井「…もし、戻れなかったらどうするんですか?」

風「戻れなかったら…か。なんかピンと来ないな。」

井「帰れないかもしれなかったら…私たち一生ここにいるってことですよね?」

風「まぁ、そうなるな…。」

井「そしたら私たちどうなっちゃうんですか!?このまま帰れなかったら…ずっとここで暮らしていくんですよね!」

風「落ち着けって。」

井「急に怖くなってきた…。」

風「大丈夫だって、何とかなる!」

井「なんの根拠があるんですか!食べ物だって飲み水だってまともにないんですよ??」

風「俺たち、目が覚め時に海にいただろ?ってことは船が通る可能性がある。それに果実があった。動物だっているかも知れない。」

井「でもそんなのわかんないじゃん!」

風「わかるよ!さっき一匹だけクラゲいたし!」

井「クラゲ??」

風「うん、これ。」

井「え?え?ちょ…え?ない!あれ?ない!」

風「変わったクラゲでさ、食えるかなって思って…」

井「ちょ…え?それどこで拾ったの??」

風「目が覚めた時だから海だよ。」

井「あ、あのぉ…。」

風「ん?」

井「あのっ…それ…。」

風「中華クラゲくらいしか食ったことないしな…。」

井「あ、いや。なんでもないです。」

風「これ調理できるの?くんくん…特に匂いはしないなぁ。」

井「ちょっ!やめてバカ!」

風「え?なんだよ。」

井「これ!これね!私の!わた…しの…。」

風「え?なに?」

井「…ヌーブラ。」

風「ん?なに?」

井「もお!私のヌーブラ!」

風「ヌ!ヌーブラ!?」

井「なんで持ってんですか!あ!まさか…私が寝てる間に…?」

風「ちちちち違うって!まじで俺もなんで持ってるのかわかんねぇーしっ!」

井「本当ですかぁー?でも…風見先輩なら許します!」

風「いや、まじで俺なんも…し…」

井「は?」

風「なぁ、動物がいるかわからないけどさ、まだ薄暗いし罠張っておかね?」

井「罠?」

風「流石に果物だけで腹満たすのはキツいだろ?」

井「そうですね!」

風「今のうちに仕掛けよう!手伝ってくれるか?」

井「はい!なにすればいいですか??」

風「確か手が器用だったよね?ハンドメイド!ハンドメイドが趣味って言ってたよね!?」

井「あ、いやぁー…実はぁ…。」

風「もう夕暮れだし急いで罠を張りに行こう!」

井「あのぉ…風見先輩…。」

風「あ、ごめん。足痛いんだっけ。一人で行ってくるよ!」

井「…ごめんなさい。」

風「え?なに?」

井「実は私…ハンドメイドなんてできないです!」

風「あー…そぉ。」

井「ごめんなさい!」

風「おっけー!んじゃちょっと行ってくるから火を消さないように見ておいて?」

井「…はい。」

風「あ、罠仕掛けるにも餌がねぇな…。」

井「そうだね…さっきの果物とかは?」

風「それしかないか…んじゃ行ってくる!」

井(まさか私のヌーブラ持ってたなんて…。それにしてもご飯か…確かにここにいつまでいるのかわからないし、食べないと死んじゃうし…。
あれ?足跡がしなくなった?どこまで行ったんだろ。段々暗くなっていたな…。
私、今は火の当番してるけど、本当にこのままでいいのかな…。私に出来ることってなんだろ…。)

風「ふぅー、ただいま!」

井「うわっ!びっくりしたぁー!」

風「うをっ!そんな大声出したらこっちがびっくりするわ!」

井「ねぇ、もう夜だね。」

風「あぁ…。俺、火を見てるから眠くなったら寝な?」

井「え?風見先輩は?」

風「俺は火が消えて、もし野犬とかいたら襲われるから明るくなるまで起きとくよ。」

井「そんな…。」

風「明るくなったら俺も少し寝るよ。だから…」

井「私!!」

風「え?なに!?」

井「私…風見先輩の足手まといみたい。何にも出来ないし、風見先輩におんぶにだっこみたいでなんか…」

風「ははは!ばかだな!俺一人でこの島にいたら、多分一人で呆然として、こんな焚火どころか浜辺にずっといたと思う。」

井「…。」

風「でもさ、後輩の前でそんなカッコ悪いことできないだろ?むしろ井上さんがいてくれたことで俺はここまでやれたんだよ?」

井「先輩…。」

風「先ずはこの夜を無事に過ごすことに専念しよう。」

井「…はい。」

風「だーいぶ暗くなってき…あ!見てみなよ!空!」

井「…え?えぇー!凄ぉーい!プラネタリウムみたい!」

風「プラネタリウムなんてもんじゃないよ!もの凄い星だ…。」

井「都会にいると…こんなの見られないもんね…。」

風「なんかさ、今が何時かわかんないけどさ、多分、昨日の今頃みんなで乾杯してた時間なんだろな…。」

井「うん、不思議な感じ…。昨日初めてお話ししたのにこうして二人でどこだかわからない場所で過ごしてるなんて。」

風「でもなんで俺、昨日は突然眠くなったんだろ。」

井「え!?」

風「結構飲んでたとは言え、いきなり眠くなることなかったんだよなぁ。」

井(バレてないよね…大丈夫だよね…?)

風「疲れてたのかなぁ。あ!でも…。」

(少し間を空けて)

井(え!?なに??なんで沈黙??)

風「確か…。」

井(え?なになに??ちょっと!怖いんだけど!)

風「あーでもあれは眠くなると言うより酔いが回るのが早かっただけか…。」

井「な、なんか…過去に…そういう経験がおありなんですか?」

風「え?あーうん。前にさ、睡眠薬ってわけじゃないけどそれを自分で試したんだ。でも寝たりしなかったんだよなぁ。」

井「お医者さんの処方がよくなかったんですかね?」

風「それがさ、医者じゃなくて第二営業部の田山っていたじゃん?」

井「え?田山?」

風「そおそお、田山からもらった薬を自分で試したけど眠くならなかったんだよなぁ…。」

井「それ…なにに使おうと思ったんですか?」

風「え?あー、合コンとかで気に入った女の子…あ。」

井「へぇー、風見先輩ってそんなことしてるんですかぁー。ふーん。」

風「あ、いや、でもあのほら!えーっと…。」

井(あっぶねぇー!ちょー焦ったぁー!しかし風見先輩も田山から…ん?)

風「ちゃんと自分で試したわけだし!ちょっと酔いが回るの早いなってくらいだったんだよ!」

井(よし!このチャンスを活かすしかない!)

風「参ったな…内緒ね?」

井「へぇー!そうやって私たちを酔わせて持ち帰ろうとしたんですねぇー?」

風「あ、いや…そのぉ…でも結局、俺寝ちゃったし…ん?いや。そこだよ!」

井「なぁーにが「そこだよ!なのよ!サイテー!」

風「あの感覚さぁ…その薬を試した時より強かったんだよねぇ…。」

井「はぁ?何言ってるんですか?」

風「あの薬を倍くらい使うときっとあんな感じに寝てたんじゃないかなって…。」

井「まさか!私たちを疑ってます?」

風「う、疑っては…ないけど…。」

井「あーもう信じらんなーい!人を眠らせてホテル行こうとか考えてたり、ヌーブラを取ったり!」

風「それは…ごめん。」

井「でも今日はいっぱい頑張ってくれたし、許してあげます。」

風「ほ!ほんと!?」

井(ふぅー…先輩たちを眠らせて帰ろうとしたことバレなくてよかったぁー!)

風「なんか…ありがと。」

井「ただし今回だけですからね!あ、先輩…足に血がついてない?」

風「え?あ、ほんとだ。ずっと裸足だったからどっか切ったのかもな。」

井「あ…そっか…。あ!確かポケットにハンカチあった!先輩!足見せてください!」

風「あ、ちょっと!あぶねっ!後ろに倒れ…ん?」

井「やだっ!足の裏傷だらけ…。」

風「ねぇ。」

井「こんなに怪我してまで私の事…。」

風「ねぇ、聞いてる?」

井「今、傷の手当しますから!」

風「傷の手当の前にポケットからなんか落ちたぞ?」

井「ポケットから?…あ。」

風「それさ、田山の持ってた薬に似てんだけど?」

井「え?あー!えー…うーん…え?そうなの??やだぁーなんでこんなのがこんな所に落ちてるんだろ?あはは…。」

風「あ、仕込んだろ?」

井「な、なにを?」

風「それ。」

井「こ、こ、これは…あれ!そう!ビタミン剤!」

風「じゃあ飲んでみろ。」

井「あ、いやぁ…ごめんなさい!」

風「やっぱなぁー!あんな寝方しねぇーもん!俺ら寝かせてどうするつもりだったんだ!?」

井「え!?な、なに勘違いしてんのよ!そ、それはこっちの台詞でしょ!」

風「はぁ?いっぱい飲んで食ってしてそのまま帰ろうとしたんだろ!」

井「はぁ?本当だったら今夜はイタリアンで合コンだったんですぅ!だからそんな意地汚いマネするわけないじゃん!」

風「意地…、え?今夜も合コンだったんなら、なんで昨日の合コン来たの?」

井「そりゃ決まってるでしょ!いい男を見つけるためじゃん!」

風「てことはさ?いい男じゃなかったから眠らせて帰ろうとしたんだな!」

井「うっ…別に好きでもない女を眠らせてやらしいことをしようと考える男よりマシじゃないかしら!」

風「そ、それを言われえると…。」

井「結局男なんてそんなもんよ!」

風「ごめん。でも今夜は俺が火を見てるから寝てほしい。」

井「…。」

(悲鳴)

風「え!?」

井「なに今の!?…動物?」

風「かもしれない…罠にかかったのかな?」

井「ちょっ…どこいくの?」

風「罠見てくる!」

井「いや!」

風「いやって、逃げられちゃうかも知れないから!しがみつくなって!すぐ戻るから!」

井「一人にしないでよ!怖いもん!」

風「でも食料…ま、いいか。餓(う)えたら俺を引き留めたことを後悔すんなよ?」

井「ごめんなさい…ありがとう。」

(ガサガサと逃げていく音)

風「はぁ…。罠から逃げてったな…。」

井「怒ってる…よね?」

風「井上さんを振りほどいてでも行かなかったのは俺だしな。怒る理由はない。」

井「そんな言い方しなくてもいいじゃん!」

風「あーもう!夜遅いし寝ろ…よ…。え?」

井「あ!ちょっと!なんで頬拭くの!そんなに私のキス嫌だった!?」

風「いや、びっくりして…」

井「昨日はごめんなさい…。今日の先輩はカッコいいよ…。」

風「そんなに抱き着かれたら…。」

井「私…先輩のこと…」

風「待て待て待て待て!今はだめだ!」

井「なんで??私…先輩のタイプじゃないですか?」

風「そうじゃない!そういうことじゃなくて!」

井「じゃあなんでですか!?」

風「よくわかんねーけど…こんな「吊り橋効果」みたいなことで…。」

井「薬盛って持ち帰ろうとしたのに?ふーん。」

風「あ、いや…それは…。」

井「ふふっ…先輩って可愛いね!」

風「なっ!バカにしてんのか?」

井「…ううん。私のために色々頑張ってくれて、不安にさせないようにってしてくれてるの本当に嬉しい。」

風「お…おん。」

井「ねぇ!じゃあさ!先輩の事、名前で呼んでいい?」

風「名前?風見って?」

井「ううん、秀平君!」

風「好きに呼べばいいよ。」

井「あー!冷たい!…照れてるの?」

風「ばっ!ちげーよっ!」

井「ふふっ…可愛い!」

風「も、もういいから!早く寝ろ!」

井「うん、ありがと。」

風「…もし、帰れなくても、俺がなんとかすっからさ…。」

井「え?なに?」

風「なんでもない。」

井「じゃあ…寝るね。おやすみなさい。」

風「おやすみ…。」

井(やっぱり私、秀平君のこと好きみたい…。)

風(やっぱり…田山の薬って効かないのかな…。餌に混ぜといたから取り合えず明日罠を見に行くか…。)


(翌朝)

井「…うーん…ふぁー…。秀平君…おはよぉ…。」

風「お?起きたか。おはよう。」

井「ずっと起きてたの?」

風「あぁ、井上さんが起きたら罠行こうと思っててさ。」

井「ねぇ!なんで私が秀平君って呼んでるのに、私の事は井上さんなの!?」

風「え?いやだって…。」

井「ふふっ、冗談!私、火を見ておくね!だから秀平君は罠見てきて。」

風「わかった、じゃあ行ってくる。」

井(昨日は聞こえないフリしてたけど…嬉しかった。…あ!)

風「ただいま。やっぱ逃げられてた。」

井「おかえりー!そっかぁ、ごめんね?」

風「その辺にいないか見てきたんだけどさ、なんか高い山があって向こう側へ行く道を後で探してくる。」

井「じゃあ私も行く!」

風「じゃあ後で一緒に行こうか。」

井「うん!あ!そうだ!これ!」

風「ん?…なんだこの石?ガラス…?にしては丸っこいな。」

井「うん、そこに落ちててさ!2つ!」

風「そっか、研げばナイフになるかもな!」

井「えー、ダメだよ!形も似てるし、お互い持っておこ?」

風「う…うん。まぁ2つも落ちてたなら、探せばまだあるかもしれないしな。」

井「うん!ねぇ!この辺を探索するならさ、散歩と果物取りがてら、一緒に散歩しよ?」

風「え?いいけど…また靴擦れするぞ?」

井「大丈夫!私、自分の靴履くから!」

風「だってそれ新品なんだろ?」

井「いいの!さぁ!行こ?」

風「いいのかよそれ。」

井「いいの!秀平君の足の方が心配だもん!」

風「お、おう…じゃあ行くか。」

井「うん!」

風「足元気をつけろよ?」

井「うん…道じゃないから歩きにくいね…。」

風「んじゃほらっ、背中乗れよ。」

井「え!いいの?」

風「行きだけな?」

井「えー!いいもん!降りないから!」

風「うをっ…あぶねぇーな!飛び乗りやがって!」

井「あははっ!さぁ!秀平初号機!発進!」

風「なに?井上さんってアニメ見んの?」

井「うん!たまにね!」

風「んじゃ行きますか!」

井「ねね!見て!秀平君!」

風「ん?あれって…岬?」

井「なんか見晴らし良さそう!行こ!」

風「着いた…すっげぇー景色だな…。」

井「綺麗…。」

風「あぁ…水平線なんて初めて見た…。」

井「私は九十九里で見てるけど…こんな綺麗な海で見るの初めて…。」

風「なぁ…。」

井「ん?なに?」

風「もし…もしさ、帰れなかったら…。」

井「俺がなんとかするんでしょ?」

風「帰れるかも…。」

井「え?」

風「あそこ見ろよ!船だ!」

井「本当だ!手振ったら気づくかな!」

風「とにかくやってみるしかねぇ!」


坂「おーい!」

川「おーい!こっちぃー!」

風「え!お前らいたの?」

井「観月!」

坂「え?おおお!風見ぃー!これは一体なんなんだよ!」

川「いいからアンタはとにかく手を振って叫びなさいよ!」

風「あ、あんた!?」

井「秀平君もほら!手を振って!おーい!」

川「秀平君!?」

坂「あ!こっち向かってくる!どっか降りるところないかな…。」

風「おい、坂下!あっちに降りるところあるぞ!」

井「いこ!秀平君!」

川「なによあんたたち!デキちゃったの!?」

坂「観月様!俺たちも!」

川「はぁ?あんたは下僕!」

風「なんだかわかんないけど、あと少しで船に着くぞ!」

井「海賊船とかじゃないよね??」

川「もうなんだっていいから!私トイレ行きたいの!」

坂「乗せてくれるみたいだ!」

風「よし、これで帰れる!」

川「揺れると…あ、漏れる!」

坂「その時は海にしちゃえばいいと思うよ!」

井「ペイズリーのネクタイは手放さないんだ?」

風「あれな…あれは…。」

坂「おい!船のトラップ降ろしてくれてるぞ!」

川「トラップはあんたが昨日引っかかったヤツ!」

風「井上さん、足元気をつけろよ?タラップ揺れるから!」

井「うん、秀平君…手を繋いでて?」

川「やっと乗れた!船員さんありがとう!トイレどこ!?ちょっと私トイレ行ってくる!」

坂「おい!白石さんっていう船員さんがみんなにって飲み物くれたぞ!」

風「助かったぁー!昨日から何にも飲んでなかったからな!」

井「くぅー!染みわたるぅー!」

坂「いやぁー!なんだこの飲み物!めっちゃ美味…あれ?」

風「おい…この感覚って…。」

井「おかしいな…昨日ちゃんと寝た…のに…。」

川「あー!すっきりしたぁー!ってあれ?なんでみんな寝てるの?まぁ無理もないか…とんだ目に遭ったもんね。え?これ飲んでいいの?うわぁー!助かりますぅー!船員さん!ありがとうございますぅー!いただきまぁーすっ!ごくっ…ごくっ…ごくっ…ぷはぁー!あー!美味しい!ってあれ…す、凄く…眠い…。」


風「う…うーん。あれ?今何時だ…?」

坂「…ぐぅー…ぐぅー…。」

風「起きろよ、坂下…。」

井「ん…あれぇ…ここどこぉー?」

川「…やだ…私、寝ちゃってた…。」

風「なんか変な夢を見てた気がする…。」

坂「ふぁーあ…あー!よく寝たぁー…あれ?俺のネクタイ…。」

川「え!?ちょっと!なんで私、ネクタイ持ってるの!?」

井「居酒屋…?」

風「みんなして酔いつぶれてたのか…。」

坂「おい!もう閉店時間じゃないか??」

川「やだ!終電なくなる!」

井「観月、急げばまだ間に合うよ!」

風「んじゃ今日はここで解散だな。」

井「そうだね、秀平君…。」

川「え?」

坂「秀平君?」

風「みんな気を付けて帰ってねー。あー頭ぼーっとする。」

川「あ、ネクタイありがと。これあんたに返しておく。」

風「は?」

井「あんた??」

坂「あ、はい!ありがとうございます!…あれ?」

井「なんか思い出せないんだけど…。」

川「変な夢見てたんだよね…。」

坂「俺、なんか真っ暗いところをくぐった気がする…。」

風「俺もだけど…まぁ、みんなで同じ夢を見るなんて事ないか!じゃあ川城さんに井上さん、また会社で!」

井「はーい。」

川「あ、はい…。」

坂「なんか気持ち悪くなってきた…。」

風「お、おい!坂下!大丈夫かよ!二人ともまたねー!」


川「ふぅー、ギリギリセーフ!」

井「なんとか電車に間に合ったねぇー。」

川「あーもう!まさか寝るとは思わなかった!」

井「いつの間に寝たかも覚えてないし最悪!明日の合コンは飲みすぎないように気をつけよ。」

川「明日の合コンいいなぁー!いい男いたら紹介して?ね?」

井「はいはい、わかりました…ん?」

川「どうしたの?なにそれ?ガラス?」

井「どこで拾ったんだろ…でも綺麗…。」

川「あれ?私もなんか持ってる…なにこれ、なんで私も持ってるの?」

井「え?わかんないよ…でも、なんかあったかい…。」

川「私はなんかイライラしてくるけど…なんだろ。仕方ないからカバンに入れとこ。」

井「あのさ、なんで私たち寝ちゃってたんだろ?」

川「それは…あ!」

風「おい!坂下!大丈夫か??」

坂「うっ…おえぇー…わりぃ…風見…後ろのポケットからハンカチだしてく…うっ…おえぇー…。」

風「仕方ねぇーな…ん?なんだこのガラス玉?」

坂「…ガラス玉…うっ…。」

風「お前のポケットに入ってたぞ?」

坂「なんだこれ?いつ拾ったんだろ?」

風「しっかりしろよ…まったく。今何時だ?…あれ?」

坂「ふぅー、少し楽になった。」

風「俺のポケットにも入ってる…。」

坂「どういうことだ?」

風「わかんねぇ。まっ、いっか。家にでも飾っておこ。」

坂「俺も部屋にでも置いておくか…。あのさ?」

風「お?」

坂「俺たちなんで寝てたんだろうな?」

風「しらねぇーよ。あ…思い出した!」

川「あんたがあの二人に眠剤盛ったでしょ?」

坂「俺も思い出した!お前があの二人に眠剤盛ったよな?」

井「そうだ!んで、あの二人も同じように…」

風「俺たちの酒に眠剤盛ってたんだよ!」

坂「んだそれ?んじゃお互いに…」

川「潰し合いをしてたってこと?」

井「はぁー、してやられたぁー。」

風「まぁ、なんだかわかんねぇーけどよ」

井「内容は忘れたけど」

坂「なんかいい夢見た気がするし」

川「また週明けから頑張って働こーっと。」

おしまい

無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう