第18話 「sparring」
鏑矢 右京
唐岩 健
カエデ (Barダリアのママ(性別不問)
円 沙千恵(まどか さちえ)唐岩 健の事務所のマネージャー
山「強力な電磁場…すなわちあの土地自体がメモリーチップだとして、人間の強い思念を書き込んでいるとしたら、その磁場と波長が合った際に現れた人物が「幽霊」として認識されるということだ。」
塩「となると幽霊と言うのは…。」
山「脳みそを100%解明できなければ存在するかしないか判断できない曖昧な存在だと私は思っている。」
山「異形とは言え人間だったものだ。お前に干渉出来る異形もいるだろう。そのために二人には修行し二人のユニゾンを高めてもらう。」
純「ユニゾン…。」
庵「ここも灰川ほどではないが磁場が強い。わしの思念を残像としてお主に見えるように波長を合わせておる。」
塩「そんなことが出来るようになるんすか??」
庵「そりゃあ、お主よりも長く生きとるし、修行も続けておる。」
塩「どんな修行をしたらそんなことできる様になるんですか?」
庵「ふぉっふぉっふぉっ、小夜子ですらまだすこーししか出来ん技じゃからな。口で説明してもわかりゃせんじゃろ。」
塩「純…今、純が喋ったのか?」
純「え?あ…!お、おん!」
庵「ほぉ、声が聞こえるようになったか。姿は見えるか?」
塩「姿はまだっすけど、純の声は聞こえます!」
第18話 「sparring」
ナ「7月5日 雨 灰川市灰川町。20年前の未解決事件を皮切りに、不可解な事件が巻き起こる。ジュラの提案により、異形と対立するため、肉体強化を図る修行を受け入れた阿久津 キョウと鏑矢 右京。その2人を待ち受けるのは師範と呼ばれる者だが、鏑矢 右京には見知った顔がいた。」
唐「あいつら行っちまったな。」
鏑「あぁ。」
唐「久しぶりの再会だ、一杯付き合えよ。」
鏑「悪くねぇな。」
唐「ダリアなんてどうだ?」
鏑「ダリアか…。」
唐「どうした?」
鏑「あ、いやっ…数年足を運んでないなってな。」
唐「やめとくか?」
鏑「いや、そこでいい。」
ナ「二人はタクシーで繁華街へ向かった。」
唐「しかし懐かしいな!大学のインハイ以来だろ?」
鏑(どうもこいつとは反りが合わないというか生理的に苦手なんだよな…。)
唐「どうした?」
鏑「あ、いや。ちょっと考え事だ。気にするな。」
唐「なぁ、鏑矢。異形ってのは強いのか?」
鏑「小声)ば、ばか!そんなこと人のいる所で話すなよ!」
唐「あ、わりぃ気を付ける。」
鏑「ったく…。あ、運転手さん、そこ左曲がって。」
ナ「タクシーに道案内をし、雑居ビルの入り口で降りた。二人はエレベータに乗りダリアのドアを開けた。」
唐「うぃーっす。ママ、カウンターいい?」
カ「あら、いらっしゃい。久しぶりじゃないの。」
唐「今夜はスペシャルゲスト付きだぜ?」
カ「あら、誰かしら…え!?ちょっとヤダ!」
鏑「よおぉ、相変わらずシケた店だな。」
カ「右京君!?あなた生きてたの??」
鏑「オバケじゃねーよ。」
カ「久しぶり通り越して何年ぶりよ!まったく!お店に来ないんだから!」
唐「ママ、俺バーボンくれ。」
カ「はいはい、右京ちゃんは?」
鏑「俺も同じで。ってか「ちゃん」つけはやめろよ。もう俺も立派な大人だ。」
カ「はいはい。ロック?ストレート?」
鏑「ロックでくれ。」
カ「はい、お待たせしました。」
鏑「お前、この店にずっと通ってたのか?」
唐「いや、5年くらい前からかな。なんとなく思い出して気が付けば常連になってたよ。」
カ「もう5年になるのね…。てゆうかあんた達!昔来るたびに喧嘩してグラス割ったりしてたけど今日は穏やかにね??」
鏑「そうだっけか。まだ若かったしな。あんま記憶ねぇな。」
唐「まぁ、仲良くやろうぜ?門下生さん!」
カ「門下生?右京ちゃんが?」
鏑「だから「ちゃん」つけはやめろって。ちと体鍛えようと思ってな。」
カ「でもこうしてあんたたちが並んでるの見ると、本当懐かしいし、変わってないわねぇ…。」
唐「ママは目じりの皺増えたけどな!はははっ!」
カ「ちょっと!レディーの扱いわかってないわね!」
鏑「レディーってたまかよ。」
カ「なによ!失礼しちゃう!」
唐「はははっ、すまんすまん。」
カ「健ちゃんは今でも格闘技やってるんでしょ?右京ちゃんは?」
ナ「鏑矢 右京は「ちゃn」つけに諦めにも似た深い溜息デグラスを傾けた。」
鏑「俺は今、個人でIT企業を起業してる。小さいオフィスだけど数人で取引したり営業したりな。」
カ「そっ、安心したわ。元気そうで。心配してたんだから。」
唐「ママも事件のこと知ってるのか。」
カ「こんな商売してれば聞き流したくなる情報までたっぷりよ。」
鏑「まぁそうだろうな。」
唐「酷い最後だったもんな。思い出したくねぇだろ。」
鏑「…。」
カ「さぁ、久しぶりの再会を祝してもっと飲みましょ!ね!」
鏑「いや、俺はもういい。唐岩、お前は飲んでけよ。」
唐「もう帰るのか?相変わらず淡泊な奴だな。」
鏑「ママ、俺の分は置いとくぜ。釣りはもらってくれ。またな。」
カ「右京ちゃん本当に帰っちゃうの?」
鏑「あぁ。明日から忙しくなるからな。仕事に戻る。」
唐「明日の朝8時な!忘れんなよ?」
鏑「あぁ。」
ナ「鏑矢 右京は振り向くことなく店を出た。」
唐「あいつは過去を引きずったままこれから先も生きていくんだろうな。真っ暗な光のない中を。」
カ「そうね、なんとかしてあげたいけど私たちじゃね…。」
鏑(嫌なことを思い出しちまった。行くんじゃなかったな。涼子…萌絵…。)
ナ「雨の中、鏑矢 右京は傘もささず歩いて自宅まで帰ってきた。」
鏑(このスーツも随分とくたびれちまったな。でも待ってろよ。お前たちを手にかけたクズ野郎を手土産にそっち行くからよ…。」
ナ「鏑矢 右京は雨に濡れたスーツをハンガーにかけ、そのままソファーに横になり眠りについた。」
ナ「7月6日 雨 灰川市灰川町。今日も相変わらずの雨。朝の7時に目を覚まし鏑矢 右京は唐岩 健の家へ向かった。」
唐「よぉ、早いじゃねぇーか。」
鏑「そんなことはどうでもいい。何から始めればいいんだ?」
唐「せっかちだな。先ずはサンドバッグを蹴ってみろ。」
鏑「久しぶりだからな、柔軟体操もしてきたけどどんぐらい蹴り込めるかっ!っと!」
ナ「ズバン!と重い音がジムに響き渡る。サンドバッグは蹴った衝撃で左右に揺れていた。」
唐「おいおい、久しぶりでその蹴りかよ。バケモンだな。」
鏑「ある意味バケモンだ。」
唐「そっか。じゃあ次はパンチしてみろ。」
鏑「拳は苦手だけどなっ!」
ナ「左右二発づつ正拳突き蹴りを打ち込んだ。蹴りの時よりも、ふり幅は狭いがサンドバッグには鈍を立て揺れていた。」
唐「トレーニングは積んでたみたいだな。んじゃ基礎云々は置いといて、スパーリングをするか。ヘッドギアそこにあるだろ?」
鏑「お前は?」
唐「おいおい、俺はプロだぜ?素人相手にヘッドギアなんていらねぇーよ。」
鏑「カチーン!んじゃ俺もヘッドギアなんていらねぇーよ!かかってこいや!」
唐「いいのか?後悔すんなよ?」
鏑「グローブも無しな?」
唐「はいはい、わかったよ。んじゃ行くぜ!」
ナ「唐岩 健は腰をかがめた状態で突進してきた。そして大きく左手を振り上げた。」
鏑「左!来る!」
ナ「咄嗟に避けた。はずだった。」
鏑「ぐはっ!」
ナ「唐岩 健の拳は鏑矢 右京のボディに突き刺さった。」
鏑「あぶねぇ。」
唐「な、こいつ!手のひらで受け止めてやがった!ならば!」
ナ「唐岩 健はその体勢から右足で膝蹴りを食らわせてきた。ノーガードの脇腹に膝が食い込む。」
鏑「ぐぅ…。かはっ…。」
ナ「強烈な膝蹴りに鏑矢 右京は姿勢が崩れ倒れそうになった。だが、鏑矢 右京はその膝を両手で抱え全身で体を回転させた。」
唐「うをっ!」
ナ「鏑矢 右京の全体重をかけた回転に唐岩 健はマットへ倒れた。」
唐「(こいつの格闘センスを忘れてた…。)
鏑「立てよ、唐岩!今度はこっちの番だ!」
ナ「鏑矢 右京は唐岩 健が立ち上がった瞬間、唐岩 健に背を向けたように見えた。」
唐「なに背中向け…。」
ナ「鏑矢 右京は背を向けたのではなく右足を軸に前かがみになりながら左足で唐岩 健の顎を狙って突き刺すような回し蹴りをした。」
唐「あぶなっ!」
ナ「唐岩 健は間一髪のところで、状態を反らせ回し蹴りをかわしたが、鏑矢 右京は体勢を立て直す間もなく、右拳を打ち込んできた。」
唐「ぶふぉっ…いてぇー、けどお前の体幹じゃその技はバランス悪いな!俺を沈めるには物足りねぇーよ!」
ナ「スパーリングと思えない技の披露に唐岩 健も熱くなってきた。」
鏑「生きるか死ぬかの緊張感を覚える必要がある !殺す気でかかってこい!!」
唐「へっ…へへへ…。いいんだな?殺しても?知らねぇーぞ?」
ナ「地下ファイトのようなスパーリングが続いたが、流石にプロの技を叩き込まれた鏑矢 右京はリングに沈んだ。」
唐「やっと大人しくなったか…ってもう昼じゃねぇーか。そろそろ誰か来んだろ。この血だらけのリング掃除させるか。」
ナ「鏑矢 右京は仰向けで全身を痙攣させながら倒れていた。唐岩 健は意識のない鏑矢 右京をベンチに移動させ、トレーニングルームから離れた。しばらくすると鏑矢 右京は悪夢にうなされていた。」
萌「パパぁー!」
涼「だめ!萌絵!いっちゃダメ!」
鏑「も…萌絵…来るな…。」
萌「パパをいじめないで!」
鏑「来るなー----!!」
ナ「鏑矢 右京は涼子と萌絵の夢を見ていた。」
鏑「うーん…りょ…こ…萌絵ぇぇぇぇぇ!はっ!はぁはぁはぁ…。ゆ…夢か…。唐岩!」
ナ「起きた時には唐岩 健の姿はなかった。」
円「まだ横になっててください。唐岩さんと素手でスパーリングなんて無茶ですよ。はい、おしぼり。」
鏑「…え?あ、ありが…。」
円「ん?私なにか変なことしました?」
鏑「いや、そういうんじゃなくて…。」
円「ふふっ、そんな食いつくように見て。おかしな人ですね?」
鏑「りょ…涼子…?」
ナ「驚くのも無理はない。円 沙千恵は妻の涼子にそっくりだった。顔も声も仕草も全てが似ていた。」
鏑「あ、いや…すまない。」
円「あ!私に一目ぼれですかぁ?」
鏑「え?あ、いや…その…。」
円「冗談ですよ!ゆっくりしてくださいね!」
鏑「あ、あの…。」
円「はい?」
鏑「唐岩は…?」
円「用事があるっていって出て行きましたよ?」
鏑「そっか。じゃあ俺も…うっ…いててて。」
円「無茶しないでくださいね。」
ナ「円 沙千恵は鏑矢 右京に言い残すと事務所から出て行った。」
鏑「…涼子…。」
続く
次回 第19話「personality」