第一話 「キョウから」

2024年03月02日

登場人物

阿久津 キョウ
秋島 優里香
ジュラ 

男…阿久津 キョウの母親の元恋人。母親とともにキョウへ虐待を行っていた。

ナレーション(性別不問)


ナ「第一話 「キョウから」」


阿(キョウ…。そう名付けれらた。僕を生んだ人から…。名前の意味を聞いた。今日生まれたからキョウだと。
僕を殺したら犯罪者になるからと生かされてる。そんな母親はどこに行ったかわからない。
祖母に残してもらえた一人きりの家で、僕は意識をしないと呼吸をするのも忘れるくらい、生命の無駄遣いをしている…。)

ナ「6月11日 雨 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。
田舎と呼ぶには住宅が多く、かといって商業施設が多いというわけではない。特産も観光地もないため、外部の人間がわざわざ灰川町を訪れることもない。小高い山と利根川につながる川。
この変哲もないのどかな土地に異変が起きていることを知ったのは、梅雨も本番に近づいた頃だった。」

(呼び鈴)

秋「キョー?がっこー!もう家を出ないと遅刻するよぉー?」

阿(優里香か…。)

(着信音)

秋「ん?メッセージ?学校休む…ってキョー!いい加減、学校に行かないと留年するよ!一緒に卒業するって言ったでしょ!まったく!先行くからね!ちゃんと学校来なさいよ!」

阿(…眠れない。こんな日は嫌なことばかり思い出す。雨音に包まれて心地いいはずなのに、なぜか頭の中は思い出したくない過去が無造作にバラまかれる。片づけても片づけても…その記憶に埋もれていく。)


ナ「灰川町では、過去に新聞にも掲載されるほどの奇怪な事件が起きた。灰川失踪事件。
20年ほど前、ある一家の父親が玄関先で遺体となり発見される。当時この父親は37歳で小規模ながら会社を営んでいた。
警察は近隣トラブルや経営トラブルを中心に捜査していたが、この事件の謎はのどかな町で起きた事件であることではなく、35歳の母親と15歳の息子が姿を消したことだった。」

秋(もぉー、キョウの奴!3時限目だってのにまだ学校来ないんだから!それにしても雨…止まないかなぁ…。)

ナ「姿を消した母親と息子による共謀とも思われたが、室内は争った形跡もなく、父親の遺体には、正面から鎌のような凶器で胸を刺された傷が発見された。
刺し傷は心臓に達し、ほぼ即死だった。犯人と思われる男を逮捕したが、抵抗した際に突然、警官の目の前で体が飛散したといわれている。」

秋(あ!そういえばキョウの家に寄ったから忘れちゃってたけど、お昼ご飯買ってなかったぁ。これは罰として学校に来る口実にもなるからキョウにメッセージ送っておこ!コンビニでご飯買ってきてね!っと…。)

ナ「男が捜査線上に浮上したのは、この町の医者の目撃証言からだった。男はこの町に住んでおり、心を病み無職で家に引きこもっていた。
男の家は農家だったことから凶器の刃物と思われる鎌を所持していてもおかしくはなかった。だが、男の死亡後、家宅捜索をしたが凶器の鎌は発見されなかった。」

秋(お腹空いた…。キョウ…学校来ないのかな。雨だもんね…。仕方ないか。全然返事来ないし、学校帰りに家に行ってみようかな…。)

ナ「証拠不十分で不起訴となった。だが、その後も被害者の母親も息子も行方はわからず終いとなり、不可解な未解決事件として今も語り継がれている。」

秋(一応メッセージ送っとくか…。ピッ)

(着信音)

阿(…多分、優里香からだな。いつも心配かけてるな…。なんで…こんな僕なんかのことを…。うっ…ううっ…苦しい…。外…話し声…怖い…。いやだ…。音も…光も…みんな…。苦しい…。)


ナ「カーテンを閉め切り、布団に包まれたまま震えている。誰もいないはずの部屋で、何も見えないはずの布団の中で、眼前に映し出される母親とその男たちによる暴力の日々。
酒臭い息で貶され、頬骨超しに聞こえる殴られる音。痛みの感覚がなくなり、ただひたすらに続く虐待。1日1食のパン。そんな記憶が体や脳に駆け巡る。」

阿(もう…いやだ…。苦しい…。死にたい…。なんで…なんでこんな…。)

(呼び鈴)

阿(!!!だ、だれ!?…もういやだ…もう…もうこんな日々は嫌なんだ…。)

秋「あれー?ちょっとぉ!キョー?」

阿(こないで!こないで!こないで!こないで!こないで!こないで…。)

(呼び鈴)

秋「まーだ寝てるのかなぁ…。あれ?鍵空いてるじゃん。ねぇ!入るよー?」

ナ「ドアノブを回しドアが開く音が鼓膜を通し脳内に響く。些細な日常の生活音ですら心を押し潰すにはたやすいものだった。」

秋「キョー?寝てんのぉー?」

阿「ひっ…ぁぁぁぁぁ…ご…ごめ…さ…い…。」

秋「ちょっと!キョウ?どうしたの??」

阿「ご…なさ…ごめ…な…い…。」

秋「キョウ!わたしよ!優里香よ!聞こえる??」

阿「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ああああああああああ!!!」

ナ「優里香の声の振動がフラッシュバックした母親の映像に立体感を与え、恐怖の限界に達し、無意識に傍に置いてあったカッターナイフで腕を刻み、そのまま気絶をした。
1時間ほど経過し、目が覚めると優里香はベッドの脇に座り手を握っていた。」

秋「キョウ…大丈夫?」

阿「…優里香か。」

秋「腕…また傷が増えちゃったね。痛い?」

阿「大丈夫。もう…慣れたよ。」

秋「お母さんにね、話したの。キョウのこと。」

阿「…。」

秋「キョウが良ければ一緒に住もうって言ってくれた。お父さんも。」

阿「…。」

秋「お母さんもお父さんもキョウのこと心配してた。お母さんはキョウのお母さんのこと、まだ探してるみたい。」

阿「…。」

秋「わたしは正直、キョウのお母さんのこと小さい頃から好きじゃない。キョウに酷いことばかりするし。でもうちのお母さんにはキョウのお母さんは友達…みたい。」

阿「…なぁ…。」

秋「…なに?なにか飲む?」

阿「帰ってくれないか…。」

秋「…え?」

阿「帰ってくれっていってるんだ…。」

秋「…うん。」

阿「おばさんとおじさんにありがとうって伝えてほしい。」

秋「え?それじゃ…?」

阿「でも…一人でいたいんだ。」

秋「…わかった。伝えておく。」

阿「優里香…。」

秋「なに?」

阿「…ありがとな。」

秋「…。うん。またくるね。あ、枕元にお薬…置いてあるから。食欲ないかもしれないけど、おにぎりも食べてね?」

ナ「返事もせず背中を向けたままの姿を見つめ、優里香は部屋を後にした。さっきまでの緊張も不安も若干落ち着いたが、相変わらず気力はなく、ご飯を食べずに薬を無理やりミネラルウォーターで流し込んだ。
そして、恐怖は突然やってくる。」


ナ「6月12日 曇り 深夜1時を回ったころだった。」

(ドンドンドンドン!)

ナ「けたたましくドアを殴る音。」

阿(ひっ……。)

男「おるぁ!開けろ!!」

(ドンドンドンドン!)

阿(あ…ああ…。)

ナ「聞いたことのある声だった。この声の主は母親の恋人だった男だった。なぜ居場所がわかったのか…そんなことより恐怖で体を動かせなかった。」

(ガチャっ…)

ナ「ドアを開け男が侵入してきた。」

男「おい!クソガキ!お前のババァどこいきやがった!あのクソ女がよ!」

阿「…あ…あぁ…。」

男「なに黙ってんだクソガキ!」

ナ「男の拳が鼻の頭を圧し潰しながらめり込み、後ろへ倒れこむ。足がもつれ、体をよじらせながら部屋の壁まで転がった。」

男「黙ってるとぶっ殺すぞクソガキがよぉ!なんとか言えよ!」

阿「がはっ…ぐっ…ごほっごほっ…。」

男「相変わらずきったねーなぁ!吐いてんじゃねぇーよ!」

ナ「空っぽの胃袋からあふれ出たのは少量の胃液と血液だった。避ける力もなく、痙攣を起こした指先に、僅かに当たるカッターナイフ。」

男「なんとかいえよカス!まじでこのままぶっ殺すぞ?」

阿「ぐはぁ…」

ナ「男の強烈なつま先が胃袋目掛けて突き刺さった瞬間、その痛みの反動で手を握りしめた動きでカッターナイフを握っていた。」

男「なんだおめーよ!刺そうってのか?上等だよ!やってみろや!クソガキがよぉ!てめぇー死ぬぞ?おーん?」

ナ「男は何度も頭を目掛け蹴り上げる。深夜の住宅地。男の怒声と争う音が近所に響き、外がざわつき始めた。」

阿「…はぁはぁ…ごほっ…。」

ナ「意識が遠のき、手の硬直が解け、カッターナイフを落としていた。」

男「おるぁ!起きろクソが!」

ナ「髪の毛を鷲掴みにし、そのまま持ち上げる。だが、力の入らない体は持ち上げにくく、男の膝の辺りまでしか上がらなかった。」

男「手間かけさせんなよ!そんなに死にてぇーなら殺してやんよ!」

阿「がっ…があぁ…あぁぁ…。」

ナ「痛みで感覚がなくなっていたはずだった。男が滑らせたカッターナイフの感触が首の皮膚を裂き、暖かな血しぶきが体に降り注ぎ、やがて全身の力がなくなっていた。」

秋「キョーー-!!」

男「んだてめぇー!どっからきやがった!」

秋「ひっ…キョー!しっかりして!キョー!」

男「どけクソガキ!てめぇーもぶっ殺してやんよ!」

秋「ちょっと…やめてよ!キョウには手を出さな…。」

男「ギャーギャーうるせぇんだよ!」

ナ「男はキョウに背を向け優里香の胸ぐらを掴み躊躇いなく顔面に拳をめり込ませた。」

秋「がぁ…ぐはっ…。」

男「大人しくしろよ!へへへっ…!おらぁ!」

秋「やめ…て…お願…い…痛い…。」

ナ「男は仰向けに倒れた優里香に跨り、顔面を殴り続けた。」

秋「おね…が…がはっ…。」

男「やっと大人しくなってきたな!へっ…やっぱ若い女はたまんえーな!殺す前に一発ヤっとくか…。」

秋「…うっ!」

ナ「男が優里香から体を起こしズボンを脱ぎだしたところで、男の股間目掛けて膝蹴りを食らわせた。」

男「あががぁぁぁあ!…いってぇー…。ぐぅ…このアマぁぁぁあ…。ふっ…くくく…なぁーんてな!」

秋「…え?」

男「残念だったなぁークソガキ!てめぇーは殺してからたっぷり楽しませてもらうか!ひゃーっはっはぁー!」

阿(優…り…。)

秋「いや…いや…こないで…やめてぇー!」

男「死ね!死ね死ね死ね死ね!」

秋「がはっ…ぐぅぅ…がぁ…ごはぁっ…」

ナ「男は手に持っていたカッターナイフを優里香に振り下ろす。何度も。何度も。何度も。」

男「たまんねぇーなぁ!なぁ?女ぁ~?俺が憎いか?お前を殺した後にお前の大好きなこのガキ殺すからよぉ~。ひひひ…。」

秋「キョー…。ごめんね…おそ…かった…ね…。」

阿(あぁ…優…り…か…。)

男「うわっ!なんだこれ?きったねぇーな!てめぇの血で服が汚れちまったじゃねーか!」

阿(…ゆ…か…。)

秋「キョ…。」

男「ったくよぉ!邪魔くせーんだよ!死ねよブス!」

ナ「キョウへ手を差し伸べようとしている優里香へとどめの一撃を 目掛けて振り下ろす。苦悶ほ表情と喉から締め上げる断末魔をあげながら、優里香は白目を剥いて倒れた。」

秋「…あぁ…がぁああ…あがぁっ…。ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!」

ナ「優里香は力尽きる瞬間にまるで体内に仕掛けられた爆弾が爆発するように飛散した。」

男「うわっ…あーあ。くせーしきったねぇーなぁー!」

ナ「男はカッターナイフを床に投げ捨て、顔に飛び散った血液を服で拭った。拭った顔から覗かせたのは、先ほどまでの表情ではなく、骨格が変わり、人間の顔の形をした別の生き物となっていた。」

男「なぁ…お前もそろそろ死ねよ…。」

ナ「男は再び近づいてきた。」

阿(…ゆ…か…。ご…め…。)

男「女のもとに送ってやるよ!!」

阿(ゆ…ご…め…。)

ジ「可哀想に…。」

阿(…ゆ…り…)

ナ「思考も止まり何も聞こえない、何も見えない。男の声も、血だまりの部屋も、もう認識が出来なかった。はずだった。」

ジ「今この現状を覆せるであろう力…欲しいかい?異形の力…デフォルメティーフォース を…。」

続く

次回 「目覚め」


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