第七話 「赤い亡霊」
塩川 幸太郎
浜屋 純
赤い男
浜屋 唯
山村 小夜子
ジュラ
唯「じゃあまた来るね!兄貴!ほらっ!ぼさっとしてないで幸太郎も挨拶して!」
塩「…またな…純。」
謎(おう…またな…。)
ナ「二人が去った後に、全身を赤く男が浜屋 純の墓標へ現れた。」
謎2「コ…コ…コロ…ス…。ツギ…ハ…シ…オカ…ワ…コウ…タ…ロ…。」
謎(赤い…フルフェイス…?赤い…ツナギ…?)
謎2「ヤットミツケタァァァァァァア!!アノカタニ…アノカタノタメニィィィィィイ!!」
第七話 「赤い亡霊」
ナ「6月26日 雨 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する、都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
報道にはならなかった暴走族の単独事故として処理された事件があった。暴走族の間ではこの事故は「赤い亡霊」による心霊現象とも噂されたが、浜屋 純の事故に関し目撃者はいなかった。」
唯「ねぇ、幸太郎。」
塩「あん?」
唯「最近さ、また昔の噂が広がってるの知ってる?」
塩「噂?」
唯「うん、なんかね?女子高生がバス停で話してたのが聞こえてきたの。」
塩「…はぁ。お前さ、JKの噂なんて信じんのかよ。」
唯「うわぁ…JKだってぇ…。おじさんくさっ。」
塩「あぁん?なんだこの野郎!喧嘩売ってんのか??」
唯「まぁまぁJK君、ちょっと聞きなさいよ?」
塩「コ、コイツ…。」
唯「…なんかさ。本当は結構前に聞いたんだけど…。」
塩「あぁ?なんだよ。」
唯「…あのね?全身…真っ赤の単車乗りが現れたんだって…。」
純(真っ赤の単車乗り…?)
塩「…そっか。」
唯「ま、まぁ…単なる噂なんだけどさ…。」
塩「どうせ、どっかのバカが昔の噂を誰かに吹き込んだに過ぎないだろ。」
唯「うん…。」
塩「純の事故は単独だ。赤い亡霊に狩られたなんて噂もあったが、目撃者もなにもなかったんだ。」
純(赤い亡霊?俺が狩られた?)
唯「…そうだよね。ただあの頃、暴走族でも一般人でも関係なく赤い亡霊に狩られたって言われてたし、幸太郎も気を付けてほしいと思って…。」
純(なんのことだ…?というか俺って事故で死んだのか…?)
塩「お前も夜は気をつけろよ?」
唯「え?心配してくれるの!?」
塩「まぁな。」
唯「…幸太郎…。」
塩「相棒の妹だしな…。」
唯「…はぁ?」
純(…はぁ。幸太郎…お前って奴は…。)
塩「…ん?どした?」
唯「べーつぅーにぃー!!」
塩「おい、なにキレてんだよ?」
唯「ふんっ!」
塩「あ、あれか?月一か?」
純(…幸太郎…。)
唯「ちょっ、ちょちょちょっ!あんた!デリカシーってないの!?」
塩「あぁ?なんだよ。」
純(おい、お前さ?いくら俺の妹だとしてもそれは言い過ぎだぞ?)
唯「もういいよ!クソ野郎!」
塩「意味わかんねぇーよ!」
純(唯…お前はなぜこんな男を好きになったんだ…?)
唯「もう帰る!家まですぐそこだし!」
塩「そっか。もう暗いから気をつけろよ?んじゃまたな。」
唯「はぁ…もう最低っ!」
塩「なんだアイツ…。んじゃ俺も帰るか。」
純(ははは…。俺の声は聞こえるわけもないか…。俺死んでるもんな。)
ナ「塩川 幸太郎は浜屋 唯の後ろ姿が見えなくなるまで見届けていた。二人のやりとりを見ていた浜屋 純は切なげに塩川 幸太郎の背後に立っていた。」
塩(…赤い亡霊か…。嫌な話を思い出しちまったな…。)
純(…赤い…亡霊…。赤い…。昨日のアイツのことか…?)
(排気音)
塩「あぁ?この辺にしちゃぁ随分イキった音立ててんなぁ?ヨシムラか?」
ナ「塩川 幸太郎が振り向くと、全身真っ赤の大型のカタナが近づいてきた。」
塩「なんだコイツ?くそっ、まぶしい…。」
ナ「真っ赤な単車のライトに目を細め、塩川 幸太郎は目視で何者か確認しようとしていた。」
純(…お、おい!幸太郎!こいつ…!よけろ!)
(排気音)
塩「おい…おいおいおいおい!あっぶねぇー!!」
ナ「塩川 幸太郎は咄嗟に体を反らし、歩道側の花壇へ体を投げ出した。真っ赤なカタナはUターンして塩川 幸太郎の傍まで近づいてきた。」
塩「…なんだ!てめぇ!あぶねぇーだろうがぁ!」
赤「(排気音)…コロ…ス…。」
塩「なんだ…こいつ?赤い亡霊か?」
赤「…コロス…。」
(排気音)
塩「上等だてめぇ!ヘル外せやゴルァ!」
赤「…アノカタ…ノ…タメニ…。」
(排気音)
塩「あぁ??…おい!ちと待てや!」
ナ「赤い亡霊はアクセルをふかしながら、塩川 幸太郎を見つめ、走り去った。」
純(お、おい…幸太郎…!あいつの向かった先って…!?)
塩「おい…そっちは…!くそっ!唯ぃぃぃぃい!」
純(くそっ!先に行くぞ!幸太郎!)
ナ「赤い亡霊のテールランプは浜屋 唯の後を追うように消えていった。」
塩「くそっ!(発信音)!くそっ!早く出ろ唯!」
唯「(着信音)…ん?あ、幸太郎からだ。ふんっ!なんなのよ!」
(排気音)
唯「…ん?バイク…?」
純(唯、伏せろ!)
ナ「浜屋 純は瞬時に塩川 幸太郎の下を離れ、浜屋 唯の傍まで移動していた。」
純(唯!唯!くそっ!なんか出来ねぇーか…!)
唯「うわっ…まぶしっ!」
純(頼む!誰か!誰か唯を…!)
山「あなた…そこに立ってると危ないわよ?」
唯「…え?」
ナ「山村 小夜子は浜屋 唯の襟首(えりくび)を掴んで歩道の端まで引き寄せた。」
純(誰だコイツ…?)
(排気音)
唯「きゃぁー---!」
山「…はぁ。」
ナ「山村 小夜子はハンドバッグから一枚の白紙を取り出すと口元に近づけた。」
山「(急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)…)大樹。」
ナ「白い紙は山村 小夜子の人差し指と中指の間をすり落ち、地面に着地する前に形を変えた。ただの白い紙が大きく太い大木と化した。」
(急ブレーキ音)
山「運転手さん?この雨の中だからこそ…前方は確認しないとね?」
(排気音)
ナ「赤い亡霊は寸での所で大木に衝突せずブレーキをかけて止まった。しばらくアクセルをふかし山村 小夜子を見つめると、その場を走り去った。」
唯「あ…あり…が…。」
ナ「浜屋 唯は頭が混乱していた。突然、目の前に大木が出現したり、女子高生が噂していた赤い亡霊が存在していたりなど、理解が追い付かずにいた。そんな浜屋 唯の混乱をよそに大木は真っ白い紙へと姿を戻した。」
純(…なんなんだこいつ…。赤い亡霊の存在を知っていた…?)
山(…ほぉ。こんなにもハッキリと姿を見せるか。)
純(ん?もしかして俺が見えてる?)
山「(今はまだいいか…。)さて、手を貸そう。立ち上がりなさい。」
唯「は、はい…。」
山「家は近いのか?」
唯「もう…すぐそこです…。」
山「そうか。」
ナ「山村 小夜子はもう一度、浜屋 純の姿を目視しその場を去った。」
塩「唯ぃぃぃい!」
唯「あ!幸太郎!」
塩「大丈夫か!?変なバイク来なかったか??」
唯「幸太郎!あ…赤い…赤い亡霊が現れたの!」
塩「怪我はないのか?お前、手を擦りむいてんじゃねぇか!」
唯「そんなこといいの!でも、でもね!赤い亡霊が現れた時に助けてくれた人がいたの!」
塩「わかっ、わかった!落ち着け!話はお前ん家で聞くから!今はとにかくここを離れるぞ!」
ナ「塩川 幸太郎は興奮している浜屋 唯の肩を掴んで落ち着かせていた。その後、浜屋 唯の部屋で事のあらましを聞いていた。一方その頃、浜屋 純は山村 小夜子 の後を追っていた。」
純(…どこいった?確かにこっちの道を行ったはずなんだけど…。)
山「おい、お前。なんで私を追ってきた?」
ナ「山村 小夜子は浜屋 純の気配を感じ、路地裏に身を隠して潜んでいたが、浜屋 純に話しかけてきた。」
純(…え?どこにいる?)
山「こっちだ。お前、目覚めたばかりか?」
純(やっぱり俺が見えてるのか?どこにいる!?)
山「私の姿も認識できんとはな。もっと力をつけてから現れろ。話はそれからだ。」
ナ「山村 小夜子は浜屋 純へ言い残し闇に消えていった。」
純(目覚めたばかりって…?どういうことなんだ?)
ナ「夜も更け、浜屋 唯は塩川 幸太郎へ全て話終わり、ようやく落ち着いたのかベッドで眠ってしまっていた。」
塩(…寝たか…。赤い亡霊…本当に噂通りに純をヤッた奴なのか…?どっちにしろ俺だけじゃなく唯にまで仕掛けてきた。その事実だけで十分だ。俺が捕まえてやる!)
ナ「塩川 幸太郎は浜屋 純の部屋を出て、浜屋 純、浜屋 唯の兄である浜屋 尽(じん)の部屋の前で立ち止まった。」
塩「尽さん。すみません。唯が危険な目にあいました。俺はあの日以来、単車を降りました。だけど、ちとやることが出来たんで、預けてた俺の単車…乗っていきます!」
ナ「浜屋 尽は戸を閉めたまま黙って塩川 幸太郎の話を聞いていた。」
塩「じゃあ…いってきます。」
続く
第八話 「つながり」