第三話 「異形力」
阿久津 キョウ(縁(えにし))
ジュラ(白石 朧)
男
謎の女(伽陀 深ヶ理)
ナレーション
ジ「そう。君はあの男を殺害したんだ。」
阿「じゃ、じゃあ…僕は…人殺し…なんですか?」
窮地に追い詰められた阿久津 キョウへ寄り添う白石 朧
ジ「わたしにもよくわからない。だが、一つ言えることがある。」
ジ「驚かないで聞いてほしい…と言っても無理だろうが私も異形の者なのだよ。」
第三話 異形力
阿「い、今…なんて…?」
ジ「私も異形の者なんだ。」
阿「…え?」
ジ「私もなぜこのような力を持ったのかわからない。ただ、私はあの男と異なるようなんだ。」
阿「どういう…ことですか…?」
ジ「彼らはどうやら凶暴性の高い生物と言えばいいのか…。」
阿「…。」
ジ「君が生まれる前だけど、聞いたことあるかもしれない。20年前にも殺人事件の犯人…なのか、証拠不十分で不起訴になったが、その男もおそらく異形の存在だったという噂があった。」
阿「…。」
ジ「だけどこれだけは信じてほしい。昔から私はここで医師をしているし、君を助けに行ったことも事実だ。」
阿「確かにそうですけど…。でもどうやって僕は先生を受け入れあいつを殺害したんですか?それがわからないと…。」
ジ「信じるに値しない…と?」
阿「あ、いえっ…そうではないんです。ただ突拍子もない話だったので…。」
ジ「キョウ君。君は思い出したはずだ。私が力を欲するか?と問いかけたことを。」
阿「…はい。そうなんです。ですが、次の記憶は今ここで目覚めたことなんです。」
ジ「そうだね。君は私が語りかけた直後に意識を失ったんだ。」
阿「…え?」
ジ「厳密には意識を失ったのはキョウ君。そして私から力を求めたのは別の君なんだ。」
阿「別の…僕?」
ナ「白石はここに至るまでの出来事を話し出した。」
男「女のもとに送ってやるよ!!」
阿(ゆ…ご…め…。)
ジ「可哀想に…。」
阿(…ゆ…り…)
ジ「今この現状を覆せるであろう力…欲しいかい?異形の力…デフォルメティーフォース を…。」
阿「…。」
ジ「…遅かったか。ゆっくり眠って…ん?」
ナ「阿久津 キョウは再び目を覚ました。最後のひと絞りのようなかすれた声で話し出す。」
縁「…こせ…、なん…でもい…い。よ…こせ…。」
ジ「おや…?君は…?」
縁「は、やく…。」
ジ「わかった…では、目を閉じて…。」
ナ「白石は阿久津 キョウの額に人差し指を当てた瞬間、青白く鋭い稲妻のような光を発した。阿久津 キョウはその衝撃で体をのけ反らせた。」
縁「…がっ!あががぁぁぁぁああ!ぐあぁあああ!」
ナ「一瞬だった。阿久津 キョウは悲鳴を上げたと同時に起き上がり、床に転がったカッターナイフを拾い上げ、素早く男の背後に回り込んだ。」
縁「…反撃…開始!」
男「なっ!クソガキぃ!なんでおま…。」
ナ「男は言葉を言い切る前に、首から血を吹き出しながら倒れこんだ。そして阿久津 キョウもその場で倒れた。」
男「あがっ…がふっ…ひゅかー…ひゅかー…。」
縁「はぁはぁはぁはぁ…。」
ジ「さぁ、急いでこの男の血液を吸い、そして…うーん。今は魂と呼ぼう。それを食い尽くすんだ。飛散する前にね。」
ナ「白石は阿久津 キョウの体を起こし、男の首から噴き出している血液を口に含ませた。」
縁「じゅっ…じゅるるっ…はぁはぁ…じゅじゅっ…じゅるるっ…。」
ジ「そろそろ飛散する頃だ。いいかい?エクトプラズムにも似た気の塊が飛散直後に宙に舞う。それを吸い込むように…。」
ナ「白石が言い終える前に男は飛散した。阿久津 キョウは白石の話を理解したのか、それとも無意識で実行したのか、飛散した男の体から視覚で認識できるかどうかの薄黒い物体を、一飲みで食い尽くした。」
縁「はぁ…はぁ…はぁ…。」
ジ「君は能力を開花させたことにより、口から血液を取り込み体内へ。そして異形となった者の…うーん。気の塊?を取り込むことで負傷した体を癒してくれる。」
縁「はぁ…はぁ…はぁ…。」
ジ「ところで君は…誰だい?」
縁「はぁ…はぁ…はぁ…。…ふぅ…。」
ジ「…。」
縁「俺か?俺は阿久津 キョウだ。」
ジ「君が阿久津 キョウ君?」
縁「あぁ。」
ジ「私が知る限りではこんなにも力強いタイプではなかったんだが…。」
縁「はぁ?んだそれ…。」
ナ「阿久津 キョウの時とは顔つきも目つきも鋭く、かと言って狂犬のような気配もない。荒々しさを纏いつつ冷静な落ち着きを見せていた。」
縁「はぁ…。その見透かした目…。気に入らねぇ。」
ジ「で?君は誰だい?」
縁「ふんっ…。俺は阿久津 キョウであり、それとはまた別の人間。縁(えにし)だ。」
ジ「縁…?」
縁「あぁ。なあ?そんなことより、これはどういうことだ?コイツの腕にあった無数の傷が…え?体中の火傷とか…全部治ってやがる…。」
ジ「あぁ、それは君が力を開花させたことで得た能力…の化学反応みたいなものかな。失った血液は口から取り込める。それと同時に相手の…まぁ、魂みたいなものを取り込むことで生命力を回復させる。そもそも私が君に与えた能力というのは…」
縁「あー、まぁ難しい話はいいわ。んで?次どうやったらこの力を使えるんだ?」
ジ「はぁ…。人が折角、説明しているというのに。まぁいい。その力は死に触れる寸前の刹那に発揮される…君にわかりやすく言えば「火事場のクソ力」ってとこだね。」
縁「火事場のクソ力な…。」
ジ「取り合えず、この騒ぎで警察が来る可能性がある。この続きは場所を変えよう。」
ナ「白石は裏庭に続く窓ガラスへ手元にあったテーブルを掴み投げつけた。外の野次馬に聞こえるほどの激しく割れるガラスの音に続き「まてー!」と大げさに声を張り上げた。」
ジ「さぁ、行こう。縁君。」
ナ「白石は縁の腕を掴み玄関に向かおうとしたが、縁は部屋中に散った血液を眺めながら、先ほどまでの吊り上がった目つきは力が抜けていた。」
ジ「…どうしたんだい?」
縁「…優里香。」
ジ「…さあ、ここを出よう。」
ナ「白石と縁は玄関から外に出たところで、予想通り野次馬が人だかりを作っていた。白石は人だかりに向かって。」
ジ「私は灰川記念総合病院で心療内科医をしている白石と言います!皆さん落ち着いてください!先ほど男は暴れながら裏庭から逃げ出しました!夜も更け辺りが暗いです!
そこの君!一人かね?女性が一人はとても危険な状況です!隣のご夫婦、その女性と一緒に帰宅してもらえるだろうか?
とにかく、男は刃物を所持していたので、出来るだけ急いで集団で帰宅をしてください!警察には私から通報しておきました!」
ナ「白石は野次馬払いをするために饒舌な嘘で訴えた。ざわついてはいたが、中々その場を離れなかった。」
(離れたところでガラスの割れる音)
ジ「この音は…?皆さん危険です!今は一旦ここを離れてください!」
ナ「カラスが割れた音がした途端、野次馬は一人、また一人とその場を離れ、やがて蜘蛛の子を散らすように去っていった。」
謎「…ふっ。さぁ坊や…帰りましょうか…。」
ジ(なんだあの女?異形…?とは違うな。まあいい。)
縁「…どうした?」
ジ「あ、いや。なんでもない。とにかく今はここを離れよう。それと治癒力が高まってはいるが念のためしばらく入院が必要だ。」
縁「俺は大丈夫…だ…。」
ナ「縁は白石にもたれかかる様に倒れこんだ。」
ジ「ほら、言わんことではない。とにかく私の車に乗りなさい。このまま勤務先の病院へ向かう。」
縁「…なぁ、一つだけ教えてくれ…。」
ジ「なんだい?」
縁「あんたは…一体何者…だ…?」
ジ「うーん、説明が終わるまで君の意識が持つかだね。だから…君の意識がなくなる前にこれだけ教えておこう。後はキョウ君の中で聞いててくれたまえ。」
縁「はぁ…はぁ…。」
ジ「私は白石 朧…というのは人の名前。本当の名前はジュラ。」
縁「…ジュ…ラ…。」
ジ「欲する者に力を与える者だよ。」
続く
次回 「再会」