第十五話 「restart」
阿久津 キョウ
鏑矢 右京
ジュラ
巳堂 泰斗
唐岩 健
神喰 総司
立浦 恵
サクス
ジ「もし、君たちが異形に殺されてしまったら…私はまた大切な人を亡くすことになります。」
鏑「俺は、この因果を断つために!阿久津!お前は優里香ちゃんの思いを紡ぐために…命賭けるぞ!」
阿「はい!」
ジ「右京君の血の気の多さには困ったものですね。さて…心の灯(ともしび)が燃えている間に、会いに行きますよ。」
神「この灰川市を文字通り灰へと還(かえ)し、ここを足掛かりとして決起する!力は悪ではない!平和を守るための正義だ!遺憾ながらそのための犠牲も厭(いと)わない!そして!この神喰 総司が我々の呼称を【ERORRS】(エラーズ)と命名する!同志諸君!私についてこい!」
第十五話 「restart」
ジ「警備員に話は通してあります。中に入りますよ。」
ナ「ジュラは体育館の裏手のドアを開け、中へと進んでいった。」
阿「鏑矢さん。白石先生って顔広いんですか?」
鏑「昔からよくわからねぇ奴だ。だけど、心療内科医だからな。人当たりは良いんだろ。」
阿「暗くて…見えにくいですね…。」
ナ「体育館内は非常灯の明かりと、所々の電灯だけしかなく、目を凝らしながら進むしかなかった。ジュラはバスケットボールのコートの扉を開き中へ進んだ。コートの入り口にあるスイッチに手をかけ、コート内を明るくした。」
ジ「さぁ、二人とも中へ。紹介します。」
ナ「ジュラが阿久津 キョウと鏑矢 右京へ促すタイミングで一人の男が飛び掛かった。」
唐「遅い!」
ナ「唐岩 健は右、左の順で阿久津 キョウと鏑矢 右京へ蹴り技を打ち込んだ。だが、寸での所で鏑矢 右京は身を翻(ひるがえ)しながら、阿久津 キョウをガードした。」
鏑「…っつつ…。んだてめぇ!何もんだ!」
ナ「徐々に明るくなった体育館で鏑矢 右京が目にした人物。学生時代に共に空手の試合で戦った唐岩 健の姿だった。」
唐「よぉ、訛ったんじゃねぇーか?俺の2連脚の1打目を交わしたのは流石だとしても、即座に反撃ではなくそのガキを守るとはな!」
鏑「お、おめぇ…唐岩か?唐岩じゃえぇーか!」
唐「久しぶりだな、右京。」
鏑「かぁー…寄りにもよって一番会いたくねぇのがいるじゃねぇか。…ん?まさか俺の相手って…?」
ジ「唐岩 健君ですよ。右京君。」
鏑「まじかよ…。こいつとやり合うくらいなら素手で自分のケツ拭く方がまだマシだ…。」
唐「現役の格闘家が直々に教えてやるんだ。ありがたく思えよ!」
鏑「はぁ…思いやられる。」
唐「俺くらい強くないと、お前なんて異形に食い殺されちまうぞ?」
鏑「異形…。」
ジ「君たちは切磋琢磨した仲だと思いましてね…。」
鏑「勝手な想像してんじゃねぇよ…ったく…。」
巳「君が阿久津 キョウか。私は第7代 水心流剣術を伝える代表の巳堂 泰斗だ。」
阿「ど、どうも…阿久津です。」
巳「見たところ君は体力はなさそうだが、動きに柔軟性はありそうだ。何かスポーツは?」
阿「スポーツはやったことがありません。ただ、強いて言うなら走ることが得意なくらいです。」
巳「どのくらい走れる?」
阿「持久走なら6分切るくらいです。」
巳「中々の速さだな。50m走は?」
阿「多分6秒切ります。」
巳「うん。悪くない。君にはうちの剣術が合うようだ。」
阿「は、はぁ…。どうしてですか?」
巳「水心流剣術…これを見たまえ。」
ナ「巳堂 泰斗は腰に携えた刀を阿久津 キョウへ差し出すように横一文字に構え、柄を掴み、そのまま真横へ抜刀して見せた。」
阿「え?…刀が…ない?」
ナ「巳堂 泰斗は抜刀した状態で脇構えを見せた。少しだけ柄の角度を変えると、そこには刀身が現れ、体育館のライトに照らされ刃が輝いていた。」
巳「これは水心流の刀。我が流派は表舞台で戦う侍のような剣は使わない。一片の波を立てず、相手を斬る。そのため目立つ刀は使わない。即座に敵の皮膚を削ぎ暗殺する。存在感を感じさせない武器だ。」
阿「暗殺…。」
巳「反面、斬り合いとなると競り合いには向かない。一太刀で決める。それには瞬発力が一番重要となる。」
阿「でも…僕は剣道もやったことないです。」
巳「剣術を指南するだけだ。後は自分がどうにかしろ。」
阿「は、はい…。」
ジ「さて…、これで顔合わせが済みましたね。私はちょっとパーティに呼ばれているのでこの辺で。唐沢君、巳堂さん。後は頼みますね。」
唐「右京、お前は今夜からうちの事務所に居候だ。カンヅメにしてボッコボコにしてやんよ!」
鏑「ちっ…。」
巳「君はうちの道場に来てもらおう。」
阿「はい…。」
ナ「阿久津 キョウ、鏑矢 右京はそれぞれの師範代の下に修行として住み込むこととなった。一方その頃、【ERORRS】(エラーズ) は灰川市の倉庫街に集まっていた。」
神「恵。今夜のメンバーは揃ったか?」
立「はい、神喰さんに言われたメンバーだけ揃えました。」
神「今夜は一部の人間にだけ会わせたい人がいる。だがこのことについては信頼のおけるメンバーだとしても緘口令(かんこうれい)を敷かせてもらう。」
立「会わせたい人?私にも隠していたのですか?」
神「あぁ。それほど重要な人物だ。」
立「その人はどこにいるのですか?」
神「おそらく、もうそろそろここに来る時間だ。」
(排気音)
ナ「その神喰 総司が倉庫の入り口へ振り向くと複数のライトが倉庫を囲っていた。」
神「なんだこいつら…恵!」
立「はい!あ、いや…私にもわからないです!」
ナ「排気音は空ぶかしを行い、倉庫に轟音が鳴り響いていた。」
神「誰だ!こいつらを呼んだのは!」
立「みんな!近くにある鉄パイプなど持て!私はこんな奴らを呼んでいない!」
神「こいつら…まさか!」
ナ「全身真っ赤に染まったライダーススーツを身に纏い、真っ赤のヘルメット。そして赤いカタナ…。」
神「あ、赤い…亡霊…?」
立「神喰さん!奥へ逃げてください!」
神「ふざけんな!(こいつらがここに来たことについては後で考えるとして今は目先だ…。考えろ俺!)」
ナ「神喰 総司は瞬時に倉庫内を見渡した。」
神(この廃倉庫…広さ的に精々バイクが暴れられるのは4~5台ってとこか。無造作に転がるコンテナ…、束になって立てかけてある塩ビパイプ…奥の部家の入口に「火気厳禁」。この廃倉庫を選んだのは、倒産しそのまま逃げたと考えられる企業の倉庫と判断。電気が通じていなかったことから月日は大分経っている。)
立「神喰さん!」
神(バイク…くそっ、ライトの数では正確な台数は判断できない。ならば!)
立「神喰さん!!」
ナ「神喰 総司は赤い亡霊たちに背を向け走り出した。」
神「メンバーは、みなコンテナに上れ!恵!赤い亡霊が入ってきたら先頭のタイヤを何とかしてくれ!」
立「神喰さん!なにを…?」
神「恵!お前にしか頼めない!」
ナ「そう言って奥の部屋へと駆け込んだ。」
立「神喰さん…。ここに集まったERORRSに告ぐ!神喰 総司の指示に従い、一人残らずコンテナへ登れ!私は…」
ナ「立浦 恵は足元に転がった鉄パイプを手に取り、赤い亡霊に向けて構えた。」
(排気音)
赤「…ゴ…ゴロ…ゴロズ…!」
(排気音)
ナ「排気音が最高潮まで高鳴った瞬間、赤い亡霊たちは倉庫内へ走りこんできた。」
赤「ゴロズ…ゴ…ゴロ…ゴゴ…ゴロズ!!!」
ナ「先頭の赤い亡霊は立浦 恵に向かって突っ込んできた。」
立「呼吸を整えろ…一刀の間合いを詰めろ…私の右手を一本の矢に…肘を引き…左手の中指を照準に…!先頭のバイクのタイヤに向けてぇぇぇぇえ!」
赤「ジネェェエッ!!」
立「破ぁぁぁぁあ!刃弓弾(じんきゅうだん)!」
ナ「立浦 恵を左足を主軸に、右足を前に飛び込み、真っ直ぐ伸ばし開いた左手を引き戻すとともに、精密射撃のように右手を突き出し、鉄パイプを射出した。鉄パイプはバイクのフロントフォークに突き刺さり、前輪はコントロールを失った。」
赤「ガガガガガガガガガッ…」
ナ「後続のバイクは先頭で転倒しているバイクに躓き、次々と転倒した。」
神「やっぱりそうか…。だがこれだけの量…俺が犠牲になるか…。いや!考えろ…この暗い場所では細工をするなんて時間がかかりすぎる。赤い亡霊にやられてしまう。…ん?そうか!この手があった!」
ナ「神喰 総司は部屋の中にあった一斗缶を蓋を開け、次々とまき散らした。そして、来ていたシャツを脱ぎ、一斗缶の液体を染み込ませた。そして、神喰 総司は部屋から飛び出した。」
立「神喰さん!」
神「恵!よくやった!コンテナの上のみんな!急いで赤い亡霊の上に飛び降り、倉庫から脱出だ!急げ!」
立「神喰さん!その恰好は!?」
神「そんなことどうでもいい!いいか恵!全員が脱出したら倉庫の扉を閉めるぞ!」
立「は、はい!みな!神喰さんに続けぇー!」
ナ「コンテナの上で待機していたメンバーは神喰 総司の指示により、次々と赤い亡霊たちの上に飛び降り、急ぎ外へと脱出した。」
神「よし!全員無事だな!」
立「はい!全員無事です!」
神「倉庫を閉じて開かないように何かで締め込め!」
立「神喰さんはどこへ!」
神「俺は倉庫の裏へ回る!この中でたばこを吸うやつはいるか!たばことライターをくれ!」
立「この中にたばこを持っている者はいるかー!いたら急いで神喰さんに渡せー!」
ナ「メンバーの一人が神喰 総司にたばことライターを渡した。神喰 総司は「助かる」とだけ言い残し走り去った。」
神「はぁはぁはぁ…。あった…。換気口!よし!」
ナ「ずぶ濡れになったシャツを換気口に滑り込ませ、シャツの先端に火を点けた。」
(ライターを鳴らす音)
神「点け!点け!点け!…くそっ!中々火が点かない!」
ナ「神喰 総司はたばこを口に咥え火を点けた。」
(ライターを鳴らす音)
神「すぅー…ごはっごほっごほっ…。くそ!たばこは嫌いなんだ!俺にたばこを吸わせた代償はでかいからな!」
ナ「神喰 総司は換気口へ煙草を投げ入れ即座にその場を離れ、みんなの待つ倉庫の扉へ走り出す。少しして換気口から激しい爆炎が噴き出した。 」
神「よし!後は扉を開くだけだ!」
立「あ!神喰さん!今の爆音はなんですか?」
神「大量のアセトンをまき散らした部屋にたばこを投げ入れてきた!」
立「そ、そんなことしたら…もし赤い亡霊が人間だったら…」
ナ「神喰 総司は立浦 恵の胸ぐらを掴み睨みつけた。」
神「俺たちは修羅の道を選んだはずだろ…。これから先どれだけの犠牲が出ても俺たちは前を進むだけだ。恵。」
立「す、すみません…。」
ナ「神喰 総司は掴んだ胸ぐらから手を放し、シワになった立浦 恵のシャツを整えた。」
神「いいか!扉が熱で触れなくなる前にワイヤーを探せ!そのワイヤーを扉に縛り付けるぞ!」
ナ「ERORRSのメンバーは近辺にあるワイヤーを探し、神喰 総司の指示のもとワイヤーを扉の取っ手に縛り付けた。」
(扉を殴る音)
赤「ウガガガ…ア…ゲロ…!」
神「いいか!倉庫内の酸素が炎で薄くなるのを想定して、炎が燃え広がったら一気にワイヤーを引っ張って扉を開けるぞ!」
立「はい!」
神「バックドラフトであいつら全員焼き尽くすぞ!」
ナ「倉庫の窓が熱で割れはじめ、熱気が外まで伝わってきた。」
赤「…ゴロズ…ゴロ…ズ…!」
(扉に体当たりをする音)
神「そろそろか…いくぞみんな!ワイヤーを引いて扉が開いたら一気に倉庫から離れろ!」
ナ「神喰 総司の合図でワイヤーを引き、扉がひらいた瞬間、赤い亡霊の腕が突き出てきたが、空気が倉庫内に流れ込み、更なる爆炎に包まれ、赤い亡霊の大半がその場で吹き飛ばされ消滅した。」
神「警察が来る前に逃げるぞ!」
立「はい!」
神「まとまって動くなよ!みんな散開!」
ナ「暗闇の倉庫街を散り散りに逃げた所で遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてきた。神喰 総司は一人街中まで逃げこみ、ある人物へ連絡を取っていた。」
神「神喰です。すみません、邪魔が入ってしまって…はい。どういうわけか赤い亡霊に襲われたんです。しばらく行動を自重しつつ、奴らの動向を探り、それからメンバーに会わせたいと思います。はい。では失礼します。」
(着信音)
立「神喰さん、今どこですか?」
神「繁華街だ。みんなは無事か?」
立「なんとか逃げ延びたようです。」
神「そうか…。恵、一つ頼まれてくれ。」
立「はい?なんでしょうか?」
神「赤い亡霊とやりあった事があるという人間がいるらしい。俺のところに来た情報はバイクに乗った青年と少年。今は行方が掴めないが、国道で赤い亡霊と遭遇した目撃者が多い。その2人を調べてくれ。」
立「他に情報は?」
神「強いて言うなら、そいつらも赤いバイクに乗っていたらしい。」
立「わかりました。」
神「情報を引き出すためなら何をしてもかまわない。」
立「もし協力してもらえるとしたらどうしますか?」
神「我々の組織を理解できなければ、赤い亡霊とは異なる敵になりかねない。情報だけもらって手を引く。」
立「わかりました。」
神「なんなら赤い亡霊をそいつらが駆逐してくれたら、こちらにとっては好都合だ。」
立「そうですね。」
神「我々の崇高なる未来のため、得体の知れない存在に狙われるわけにはいかない。我々、ERORRSの誇りにかけて!」
続く
第16話 「growth」