第四話 「再会」

2024年03月31日

鏑矢 右京
   涼子
   萌絵
ジュラ(白石 朧)
男2
謎の女(伽陀 深ヶ理)
ナレーション  


縁「あんたは…一体何者…だ…?」

ジ「…君の意識がなくなる前にこれだけ教えておこう。」

縁「はぁ…はぁ…。」

ジ「私は白石 朧…というのは人の名前。本当の名前はジュラ。欲する者に力を与える者だよ。」

第四話 「再会」


ナ「6月19日 雨 灰川市灰川町 1万人ほどの人口が生活する都心から車で3時間ほどの自然の多い町である。ここ灰川町では過去に不可解な未解決事件の起きた現場でもある。
4日前、一人の少女と異形と化した男が殺害される事件が起きたが、どちらも遺体はなく、町では「黒い刃物の男」が未だに逃走しているという噂が一人歩きしていた。」

鏑(…この町も相変わらずだな…。)

ナ「田舎と呼ぶには住宅が多く、かといって商業施設が多いというわけではない。特産も観光地もないため、外部の人間がわざわざ灰川町を訪れることもない。 」

 鏑(…この家か…。玄関…表札…「阿久津」…。)

ナ「そんな灰川町で起きた噂を嗅ぎ付け一人の男が現れた。」

鏑「…ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…。ふぅー…。ちっ…嫌な雨だ…。」

ナ「男は携帯用のウイスキーボトルを飲み、雨に打たれたまま阿久津 キョウの家の前に立ち止まっていた。」

鏑 (まさかこの町に戻ってくるとはよ…。さてと、どこから探すかな…。)

ナ「くたびれてくすんだ色の白いスーツ、中には薄墨色のグラデーションのシャツ、ワインレッドのネクタイに金の刺繍であつらえた2枚の羽根の模様。 無精ひげの男は雨雲を見上げながらしばらく立ち尽くしていた。」

鏑「この町は…いつも天気が悪ぃな…。あの日もこんな雨だったか…。」

ナ「男の傍に1台の白いクーペが止まる。」

鏑 「…あ?なんだてめぇ。」

ナ「銀髪で色白の男が窓を開け、この男に接触してきた。」

ジ「やぁ。久しぶりだね。少年。」

鏑 「…見たくもねぇツラ見ちまった。」

ジ「もう少年は失礼かな。右京君。」

鏑「何しにきやがった。ジュラ。」

ジ「嬉しいねぇ。まだ私を覚えていてくれたなんて。」

鏑「忘れるかよ。てめぇのツラだけはな。」 

ジ「私はこの家の子の着替えを取りに来たんだ。」

鏑「この家って…この阿久津ってやつの家か?」

ジ「君はここで何をしているんだい?灰川は君にとって忌み嫌う因縁の土地だと言うのに…。」 

鏑「ある噂を聞いてな…。だがその噂はてめぇ見て確信に変わったよ。」

ジ「ほぉ…それはどうゆう?」

鏑 「ジュラ…てめぇが絡んでるんだろ?ここで起きた事件について。」

ジ「あー、うん。そうだね。 」

鏑「あれから色々調べたが…俺の家族を殺した男の行方が全く掴めねぇ。」

ジ「私も未だにあの犯人を捜している。だが、あの事件以来、全く音沙汰がなく、やっと先日事件を起きた。」

鏑 「なぁ!ここで起きた事件の男はそいつじゃなかったのかよ!」

ジ「右京君。落ち着いて。声が大きいですよ。」 

鏑「てめぇには2度救われてる。それは感謝している。だが!」 

ジ(…?あの女…?)

鏑「俺に二度目はいらなかった…なぜ…なぜ助けたんだ…!ジュラ!」

謎「…ふふっ。」 

ジ(この前の女か。やはり人間ではなさそうだが、異形とは少し違うようだ。)

ナ「阿久津 キョウの事件の夜に見かけた女が少し離れた曲がり角から二人を見ていた。ベビーカーと日傘。そのベビーカーには子供が眠っていた。
全身を覆うワンピースは無地の黒一色。まるで闇に包まれているかのような出で立ちだった。艶やかでストレートの長髪。前髪も長く目元が見えないため表情がわかりにくい。」

謎「…坊や…可愛い坊や…。」

ジ(見張られている…?私か?)

鏑「教えてくれ!ジュ…」

ジ「右京君!車に乗りたまえ。」

鏑「あぁん?」

ジ「続きは車で聞く。とにかく乗りたまえ!」

鏑「…え?お、おん。」

ナ「鏑矢 右京を車に乗せ、ジュラはすぐにその場を後にした。」

謎「…ふふっ。みぃ~つけたぁ~…。」

ナ「口角を吊り上げながらジュラを見つめていた。一瞬風が舞い微かに揺れた前髪の隙間から、真っ赤な瞳を覗かせながら。」

鏑「なぁ…今いた女誰だ?」

ジ「わからない。ただ、キョウ君…阿久津 キョウの事件の時にも野次馬に紛れていた。」

鏑「んなっ!じゃあ!あの女が!」

ジ「早とちりはいけないよ。右京君。私が君を助けた時にいたのは男だ。」

鏑「そ、そうだな…。」

ジ「…あの時なぜ私が君を助けたか…だったね。」

鏑「…。」

ジ「折角、君をアンダーグラウンドの世界から表の世界へと人生を塗り替えてくれた、君の最愛の妻、涼子君。そして二人の宝物…萌絵ちゃん。駆けつけた時にはすでに手遅れだった。」

鏑「…。ちっ…ゴクッ…ゴクッ…。」

ジ「酒浸りか…。無理もない。ただ私は君の協力者として、君の友人として、今でもあの時のことは胸が苦しい…。」

鏑「…涼子…萌絵…。」

ジ「私は…20年前に君たち親子を異形から助け、君たちに居場所を与えた。その時から右京君。君には生きていて欲しいと願った。」

鏑「…親父…。」

ジ「20年前の事件といい、君の5年前の事件といい、謎が多すぎる。」

鏑「だがよ…てめぇも異形だろうが!」

ジ「…あぁ。人間であったはずなのに、私にもよくわからないまま力が身についていた。そして私の脳裏に浮かぶ「ジュラ」という名前。何を意味するのか私にもわからない。」

鏑「…ちっ。てめぇは20年前と見た目も何もかも変わんねぇな。それも異形の力なのか?」

ジ「さぁ、それも私自身ではわからない。」

鏑「なんにもわかんねままじゃねーか!」

ジ「すまない。右京君。」

鏑「…なぁ、阿久津の家にいた異形は何か関連があるのか?」

ジ「…5年前の男ではなかった。これだけは言える。」

鏑「…くそっ…。」

ジ「私にも未だに涼子君と萌絵ちゃんの最後の声が耳に残っているよ…。」


涼「萌絵ぇぇぇえ!来ちゃダメぇぇえ!」

萌「ママァー!」

男2「…ほぉ…子供か。こいつは頂いていくか。けけけっ!女はすっこんでな!」

ナ「男は涼子を蹴り飛ばし、萌絵を捕まえようとしていた。そこへ…。」

鏑「涼子!萌絵!てめぇ!何もん…だ…?」

ナ「涼子と萌絵の寝室が騒がしいことに気が付き、鏑矢 右京が飛び込んだ。が、目の前にいた男の形相は人間の顔をしていたものの、骨格も変形し、血に飢えた目をギラつかせた化け物のそれと同じだった。」

鏑「てめぇ!それ以上手を出したらぶっ殺すぞ!」

ナ「鏑矢 右京は男に飛び掛かり、近くにあった置物で男の頭を容赦なく殴りつけた。だが…。」

鏑「ぐはぁっ!」

ナ「殴りつけていた鏑矢 右京の水下(みぞおち)を蹴り払い、男は首を擦りながら立ち上がった。」

男「おいおい…いきなりはひでぇーな。はははっ!先ずは邪魔なお前から始末すっかな!」

ナ「鏑矢 右京の持っていた置物を取り上げ、今度は男が頭を目掛け振り下ろした。」

鏑「がはぁっ!ぐぅ…ふごぉっ!」

萌「パパぁー!」

涼「だめ!萌絵!いっちゃダメ!」

鏑「も…萌絵…来るな…。」

萌「パパをいじめないで!」

鏑「来るなー----!!」

ナ「萌絵は父親を助けたい一心で男の足にしがみつく。」

男「ぎゃーぎゃーうるせぇガキだな!連れ帰ろうと思ったけどここで死ね!」

ナ「男は自分の頭上高くに置物を振り上げ、萌絵の頭部へ振り下ろした。ズン!でも、ドン!でもない、骨がメシメシと割れる音と鈍く深い音が一撃聞こえただけだった。萌絵は悲鳴を上げることなく、無言のまま倒れた。即死だった。」

鏑「なっ…も、萌絵…!萌絵!萌絵!萌絵ぇええ!」てめぇ!!」

男「おめぇーもそろそろ沈んどけよ!おらぁ!!」

ナ「再び立ち上がろうとした鏑矢 右京の頭上目掛けて、再度置物を振り下ろした。」

鏑「がはぁっ…。」

涼「やめてー!右京ー!」

男「あー、こいつ頭割れてんなぁ。もう動けないだろ?けけけっ!おーい?見えるかー?」

ナ「男は鏑矢 右京の瞼を指で開いた。男が周りを見渡すと、テーブルの上にあった裁縫道具を見つけた。」

男「今からお前の女ヤッてから殺してやっから大人しくそこで見とけよ?ぶはっぶはははは!」

ナ「男は裁縫道具から針を数本引き抜き、裁縫箱を投げ捨てた。そして鏑矢 右京の瞼が閉じないように針で開かせ固定した。」

鏑「や…めろ…。」

ナ「一階では電話が鳴りだしていた。」

男「あぁ?まだ声出んのかよ!ぶはははは!こりゃ傑作だ!死ぬ間際に見る光景がてめぇの女がヤラれて殺されるところなんだからな!まぁ、てめぇの撒いた種だ。しっかり見届けろよ!」

鏑「やめ…ろ…、逃げろ…りょ…こ…。」

男「さぁーて、女ぁ!たっぷり楽しませろよ?ひひひ!」

涼「こ…こないで…。こないでー!」

男「気持ちよくさせてやっからよぉ~、なぁ?今の俺のあそこは人間のときよりすげぇからよぉ~!」

ナ「男はズボンを引き裂き、下半身を丸出しにしながら近づいていった。」

涼「…ごめん。右京…。ごめんね…。萌絵…守れなかった。」

鏑「に…げ…ろ…。」

涼「右京…私と出会って…萌絵と出会えて…幸せだった?私は…」

男「あぁ?なんだその手にあるハサミは?」

ナ「涼子は、男が投げ捨てた裁縫箱から裁縫バサミを取り出し両手で握りしめていた。」

男「ぐはははは!たまんねぇーなぁ!それで刺されたら流石の俺でも、ちったぁ痛ぇーわ!」

鏑「や…め…」

涼「私は…生涯、鏑矢 右京の妻です!萌絵!今ママも逝くからね!」

男「なっ…!?」

ナ「涼子は裁縫バサミを開き、喉もの深くに突き刺した。」

涼「がぼっ…ごごっ…ごふっ…」

鏑「りょ…りょう…こ…。」

涼「ぐぼっ…ひゅー…ひゅー…。」

ナ「突き刺したハサミは鋭く、頸動脈も切り裂き、激しく血が噴き出していた。振り絞る様に声を上げながら鏑矢 右京へ手を差し伸べたまま、涙を浮かべ力尽きた。」

男「おいおいおいおい!ふっざけんなよ!んだよクソが!人の楽しみをどうしてくれるんだよ!」

ナ「その時だった。玄関が開く音がした。」

ジ「右京君!涼子君!どこにいる!?」

ナ「来訪したのはジュラだった。玄関を抜け、近くのリビングを散策しながら鏑矢 右京を探していた。」

鏑「りょ…こ…も…え…。」

男「ちっ、誰か来やがった!」

ナ「男は二階の窓から外の庭へ飛び降りた。」

ジ「…なんだ?あの男は…?」

ナ「リビングの窓越しに月夜に映った男の姿を確認したが、咄嗟に二階に鏑矢 右京がいると判断し二階へ駆けあがった。」

鏑「りょ…も…。」

ジ「右京君!?右京君!しっかりしたまえ!」

鏑「ジユ…ラ…?」

ジ「ひどい傷だ…。もう助からないかも知れない…。」

ナ「ジュラは部屋の様子を伺い、涼子と萌絵の亡骸を目にした。」

ジ「こ…これは…!?」

鏑「ころ…す…あ…いつ…を…ころす!」

ジ「今は喋るんじゃない!右京君。この惨劇を起こした者が憎いか…。」

鏑「こ…ろす…ころ…す…こ…。」

ジ「わかった。右京君。私は君を助けたい。見たところ頭部の損傷が酷いが…これは賭けかも知れない。」

鏑「こ…ろ…。」

ジ「だが…君に与えよう…異形の力を…。」

続く

次回 「数奇」

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